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水瀬菜音
11,918
#岩本照
絶対辰哉
525
#BL
うさみみ
20
──美しさ。それは時として、残酷な呪いと同義になる。
俺の生まれた幻獣ユニコーンの群れに於いて、『白』とは絶対的な調和であり、神聖さの象徴だった。朝露に濡れる白百合のような、光を弾く真珠のような純白の毛並み。世界を浄化する白銀の角。それこそが彼らの誇りであり、正義だった。
だからこそ、その群れの中心に生まれた俺は、異端以外の何物でもなかった。
夜の闇をそのまま切り取ったかのような、黒の毛並み。星を吸い込んだように鈍く光る黒い角。どれほど彼らと同じ力を宿していようと、この姿の所為で俺は『忌み子』として扱われていた。
《不吉な子》《穢れをもたらす存在》。幼い頃から浴びせられ続けた、罵声と拒絶。群れの誰も俺を認めなかった。
【子供を殺すな】という群れの掟だけが、ただただ俺を生かしていた。
そして、嵐が牙を剥いたあの夜。 群れの長を筆頭とする大柄な雄たちが、成人を迎えた俺の周囲を取り囲んだ。
『これ以上、群れの調和を濁すことは許さん。』
冷酷な念話が脳裏に突き刺さると同時に、一頭の雄が容赦なく蹄を突きだした。
『!』
避ける間もなかった。強靭な脚力で放たれた蹴りが、俺の脇腹を激しく打ち据える。
鈍い衝撃と、遅れてやってくる引き裂かれるような激痛。よろめいた俺の背中に、今度は別の雄の白銀の角が振り抜かれる。
『ゔぁあ…っ!』
肉が裂け、熱い血が溢れ出て、雨に濡れた黒い毛並みを濡らしていく。
『出ていけ、忌み子め!』
『二度と我らの前にその醜い黒を晒すな!』
降りしきる雨の中、何度も、何度も、私刑が繰り返された。抵抗などできる隙もなかった。ただ『黒い』という、それだけの理不尽な罪の重さに、俺は為す術なく地面に叩きつけられ、泥を舐めることしかできなかった。
息も絶え絶えの俺の首筋を、長が冷徹な蹄で踏みにじる。
『…ぅ…、』
『失せよ。そのまま孤独にのたれ死ぬがいい。』
最後の一蹴りによって、俺は崖下へと突き落とされた。岩肌に身体を強く打ち付けながら、冷たい闇の底へと転がり落ちていく。遠ざかる崖の上で見下ろす、白く神聖な彼らの瞳には一欠片の慈悲もなかった。
激しい雨が容赦なく体力を奪っていく。見知らぬ森の奥深く。泥に塗れ、裂かれた脇腹からも背中の傷からも、止め処なく血が流れ出している。
(ここで、終わるのか…。)
意識が遠退く中、俺は静かに諦めを受け入れようとしていた。最期まで、孤独だった。誰にも望まれず、ただ疎まれて消えていく。その理不尽に怒る気力さえ、もう…残っていなかった。
その時。俺の角の先が、異質な魔力を察知して微かに震えた。 激しい雨音を切り裂いて、獰猛な獣の唸り声が響く。
重く閉ざされた瞼をなんとか持ち上げると、闇の中からそれは現れた。巨大な銀色の影は、黄金色の双眸を煌々と輝かせてこちらを見つめている。神に呪われ、世界を滅ぼすと言われる終末の狼──フェンリルだった。
(…誰かの腹を満たせるなら、それもいい…。)
抵抗する気力も体力もない。俺は再び静かに目を閉じた。だが、喉元を貫く筈の鋭い牙も、肉を裂く爪も、いつまで経っても俺を捉えなかった。代わりに聞こえてきたのは、酷くぶっきらぼうで、地を這うような低い男の声だった。
「何でこんなとこに居る?」
驚いて再び目を開けると、巨大な狼の姿は掻き消え、そこには一人の若い男が立っていた。
男は、泥まみれで横たわる俺を見下ろした。その視線は、俺のボロボロに傷ついた身体と、黒い毛並みをただ静かに捉えていた。
『…毛色の所為で群れを追われた。もう動く力も無い。目障りなら…今直ぐ食い殺せばいいよ。』
命を乞うこともしない俺の言葉を聞いた瞬間、男は、フンと鼻で笑った。それは、世界そのものを嘲笑うかのような、傲慢で、けれどどこか寂しげな笑みだった。
「食わねぇし殺さねぇよ。白が正義で黒が悪?知らねぇよ。…俺はその黒、綺麗だと思うけどな。」
他人の基準なんて知るか、と言わんばかりの絶対的な全肯定。 生まれて初めて、自分の存在の全てをそのまま認められた。世界から恐れられている銀狼だけが、俺の『黒』を美しいと言ってくれた。
男は自分の掌に魔力を集めると、俺の身体に触れた。温かい力が身体に流れ込んでいく。
「これで、姿変えるくらいはできるだろ。住処まで連れて行ってやる。」
『───いいの?』
「生きたいならな。俺の縄張りに居る限り、誰も手出しはさせない。お前のその黒を否定する奴がいたら、俺が全員噛み殺してやる。」
そのぶっきらぼうで、あまりにも絶対的な優しさに、俺の凍てついていた心が、内側から静かに、熱く溶かされていくのが分かった。
彼に合わせるように人の姿に変えると、彼は俺を担ぎ上げる。そのまま狼の姿に変わると、俺はその背に沿うように凭れかかっていた。
「俺…蓮。」
『…照だ。行くぞ、落ちるなよ、蓮。』
そうして彼はのしのしと歩き出した。
この夜からだ。俺の世界は、彼が全てを肯定してくれたあの瞬間から、新しく始まったのだ。
この黒は、もう呪いではなかった。
【追放されたユニコーン : 蓮】
毛色から『忌み子』とされ、追放されたユニコーン。主に浄化の力を持つ。寡黙だが冷徹なわけではない。
基本的には獣の姿で、滅多に人の姿に変わらない。よく鳥姿の康二(幼児)がとまる角の先は、魔力を察知することができる。
変化すると、黒の毛並み。鬣と睫毛と尾は白。
※画像はAI生成です。
コメント
1件
黒いユニコーン✨素敵でしかないのにねぇ(人´∀`).☆.。.:*・゚