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その時、部屋のインターフォンが鋭く鳴り響いて鈴子は驚いて飛び上がった、心臓がドクンと跳ね、彼女は一瞬、定正が早くも戻ってきたのかと思った
「ルームサービスでございます、会長のご注文でお食事をお届けに参りました」
そこにはホテルの制服に身を包んだ数人のスタッフが、銀のワゴンを押して立っていた
だが、ただのルームサービスではなかった、彼らは「出張シェフ」だと名乗り、ワゴンには新鮮な食材や調理器具が山のように積まれていた
スタッフ達は手際良くキッチンエリアへ移動し、まるで舞台の役者のように動き始め、バルコニーにテーブルを設置し、白いリネンのクロスを広げてキャンドルを灯した
あっという間に素敵なレストランのような光景がバルコニーに広がった、テーブルには、芸術作品のような料理が次々に並べられていく
琵琶湖の鮎の塩焼きは、黄金色に輝き、黒トリュフを散らしたクリームリゾットは、皿の上で宝石のように光っていた、キャビアを添えたオードブル、地元野菜のサラダには食用花が彩りを添え、デザートには金箔が輝く抹茶のムースまで鎮座していた
最後にシャンパンボトルが氷のバケツでテーブル中央に置かれ、クリスタルグラスには湖の光が反射していた
「それでは、ごゆっくりお楽しみください」
スタッフ達が静かに部屋を後にした後、鈴子はテーブルを見つめて息をのんだ
全て食事は二人分用意されていた、キャンドルの炎が揺れるたび湖面の光と共鳴し、魔法のような雰囲気がバルコニーを包んだ
鈴子はテーブルに近づきシャンパングラスを手に取った、冷たいガラスの感触が、彼女の熱くなった指先に心地よかった
―もしかして・・・彼はここで私と食事をするつもりなのだろうか・・・―
その時電磁施錠が静かに開く音がした、ハッと鈴子は振り返ると途端に心臓が跳ねた
タキシード姿の定正が部屋に入って来た、ネクタイを緩めて髪が少し乱れた姿は、昼間の完璧な起業家とは異なり、どこか親しみやすい魅力に満ちていた、だが、その瞳には、いつも通り何かを秘めた力強い瞳がキラキラしていた
「お待たせ、鈴子」
彼の声は、低くて柔らかかった
「君には、最高の夕食を味わってほしいと思ってね、星輝祭の私のスピーチの成功は、君の力があってこそだ、本当に助かったよ」
鈴子は顔が熱くなるのを感じた、定正がグラスにシャンパンを注ぎ、彼女に手渡した、その時彼の指先がほんの一瞬、鈴子の手に触れた・・・
キャンドルの炎が揺れ、琵琶湖の星空が二人を包み込んだ
定正がグラスを掲げ、湖の光を映した瞳で微笑んで言った
「私とディナーを一緒に食べてくれて」
定正の秘書になって4年・・・鈴子は見事に彼と一緒に夕食をする栄光を勝ち取った