テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#シェイプシフター
柊遊馬
5,227
#戦国時代
眠狂四郎
284
#戦国時代
眠狂四郎
196
#軍師
眠狂四郎
153
バルカは見通しの良い丘へ将旗を掲げた。
そして自らの姿を、あえて敵の斥候へ目撃させる。
「丘の上の兵は五千前後。」
斥候の報告は、ミルキウスへ届けられた。
ミルキウスは
平地での包囲殲滅を最も得意とする将である
バルカという男を警戒していなかったわけではない。
だが、見通しの良い丘。
そして前回の勝利。
その二つが、彼の目をわずかに曇らせていた。
(罠があるなら見えるはずだ。)
そう考えたのである。
彼は重装歩兵の厚い盾壁をもって、丘を正面から制圧するつもりだった。
「討てずとも構わん。」
「丘さえ奪えば勝ちは決まる。」
ミルキウスは前方を見据えた。
将旗の立つ丘まで、視界を遮るものは何一つない。
少なくとも――そう見えた。
両軍は正面から激しくぶつかった。
投槍が宙を舞い、騎兵同士が砂煙を巻き上げて激突する。
戦場は、互角に見えた。
やがて前線でバルカの将旗が翻る。
その姿を認めたミルキウスは叫んだ。
「見つけたぞ、バルカ!」
「ここで死ぬがよい!」
満を持して、重装歩兵を前進させる。
厚い盾壁は敵前衛を押し崩し、丘を駆け上がり始めた。
(勝てる。)
そう確信した、その瞬間――。
「なっ……!」
丘の両側から、新たな敵軍が突如として姿を現した。
「いったい、どこに潜んでいた!」
ミルキウスは、この男がなぜ無敗と恐れられるのかを、その身をもって知った。
ミルキウスが愕然とする間にも、戦況は一変する。
先ほどまで互角だった騎兵戦は、一気に崩壊した。
ヌミダス騎兵は大きく迂回し、グラン軍の背後へ回り込む。
「後方より敵襲!」
怒号が戦場を駆け巡る。
前方は丘。
両翼には伏兵。
後方には騎兵。
包囲は、完成した。
トラシム湖畔の悪夢が、再び幕を開けた。
包囲の中、四方から敵兵が襲いかかる。
グラン重装歩兵は盾を重ね、一歩も退かず戦い続けた。
その時だった。
「左翼より味方騎兵!」
怒号とともに、一隊のグラン騎兵が敵陣へ激突した。
さらにその後方から、続々と後続部隊が戦場へなだれ込む。
「援軍だ!」
左翼の包囲は音を立てて崩れた。
囲まれていたグラン兵は一斉に突破し、無傷の後続軍と合流する。
「隊列を立て直せ!」
「反撃だ!」
重装歩兵は再び盾を並べ、押し返し始めた。
「あれは……。」
副官は土煙の向こうを見つめた。
「ファービーの軍のようです。」
バルカは小さく鼻で笑う。
「義理堅いな。」
「見捨てておけばよいものを。」
そう言うと、静かに手を上げた。
「全軍、撤退。」
包囲は崩れた。
これ以上戦えば、損害だけが増える。
バルカは勝てる戦でしか兵を失わない。
だからこそ、迷わず軍を退いた。
ファービーは戦場に残り、負傷者の回収へ全力を注いだ。
バルカは深追いすることなく、静かに軍を退く。
やがて、ファービーの前へ一人の男が歩み出た。
ミルキウスだった。
鎧は傷だらけで、血と泥にまみれている。
その後ろには、先日まで「愚鈍な亀」と罵っていた将官たちが、黙って続いていた。
ミルキウスはしばらく口を開けなかった。
やがて静かに頭を下げる。
「……助けていただき、ありがとうございました。」
「私は独裁官を返上し、今後は総司令のもとで、グランのために戦います。」
ファービーは何も言わず、小さくうなずいた。
沈黙に耐えきれず、ミルキウスが問いかける。
「……でも、なぜです。」
「なぜ私を助けたのですか。」
ファービーは穏やかな表情で答えた。
「ライナー王は、私を信じると言った。」
「だから今度は、私が君を信じよう。」
ミルキウスは言葉を失った。
その場で深く首を垂れ、涙をこぼした。
ライナー陣営と元老院の政治的駆け引きは、なお続いていた。
独裁官の任期延長は認められず、正副元老院代表が復活する。
その一方で、ライナーは元老院へ新たな提案を持ちかけた。
「八個師団、十万の徴兵を認めてほしい。」
目的はただ一つ。
バルカ包囲網の完成である。
激しい議論の末、元老院はこれを承認した。
そして新たに選ばれた元老院代表が、議場で静かに立ち上がる。
ワロアであった。
彼は迷うことなく言い放つ。
「バルカが包囲殲滅を得意とするというなら――。」
「包囲されないほどの大軍を率いて、決戦を挑めばよい。」
議場は、一瞬静まり返った。
次の瞬間、議場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
これこそが、グラン人の待ち望んでいた瞬間だった。
ファービーの唱えた持久戦
――後に「ファービー戦略」と呼ばれる戦法は、
確かにバルカ軍の急所を突いていた。
しかし、その真価は国内では理解されなかった。
民衆が望んでいたのは、耐え忍ぶ勝利ではない。
一度の決戦による、華々しい勝利であった。
やがてバルカは、
ゲロニアより南東に位置する東岸補給基地カンナルを陥落させる。
その報は王都へ衝撃を与えた。
「これ以上好きにはさせるな!」
「今こそ決戦だ!」
人々の声は日に日に大きくなり、元老院もその熱気を抑えきれない。
元老院は志願兵を募り、各地から若者たちが続々と集まった。
グラン王国の士気は、かつてないほどの高まりを見せていた。
コメント
1件
**はる。だわ🔥** うおおお、今回は戦術の応酬がガチで熱かった!! バルカの偽装撤退と伏兵包囲、まさにトラシムの再現かと思いきや、ファービーの援軍でひっくり返す展開に痺れたわ。ミルキウスが涙を流して頭を下げるシーン、じわじわ来た…「信じる」って一言が重すぎる。そして元老院の政治バトルも佳境だな。カンナル陥落で決戦ムード一気に加速、次が本当に楽しみ🔥