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「レイラ達に何をしたァァッ!?」
ブンッ
「うおっと。待ってください。話し合いましょう」
大勢のエルフに囲まれこちらへと向かって歩いていた一人のエルフが、レビンを発見するや否や、いきなり殴りかかってきた。
レビンはそれを冷静にいなしながら話し合いを提案する。
「話などないっ!『風の精霊よ』」
断った男が、今度はレビンに理解できない言葉を発する。
そして、再びレビンに殴りかかる。
「ですから。はな……なっ!?」
男の動きは先程までより格段に速くなり、容易く躱せていたはずの拳がレビンへと肉薄した。
パチンッ
それでも……レビンはそれを冷静に受け止めた。
「なっ!?馬鹿な…」
「話し合いましょう。レイラさんから手紙も預かっていますし、どこか落ち着けるところで」
変わらぬ対応を見せるレビンだったが、先程よりもレビンは警戒していた。
(この人がミルキィのお父さんだよね?だったら王様のはず……このまま行くとエルフ全体を敵に回しかねない。でも……なんで周りのエルフさん達は手を出してこないんだろう?)
エルフの性質によって手を出さないのだ。
バーンナッドが齎した策によりダークエルフと渡り合えているが、エルフは基本的に曲がった事が出来ない。
それはもはやしたくないとかのレベルではなく、身体に染み付いるレベルで出来ないのだ。
まだ子供に見えるレビンを取り囲んで袋叩きにするなど、エルフの感性からは以ての外であった。
その為、王が自ら動くなら、後は魔族が動かないように見張るのみ。
その魔族は一歩も動かない…動けなかっただけだが。
「そ、それは…レイラの筆跡……という事は、お前……いや、君はもしかして…妻の味方?」
家族に託したはずの首飾りを持った人族がエルフの里に現れたのだ。
それも長生きであるエルフですら誰も見たことがない魔族を引き連れて。
今は落ち着いているが、戦時中のエルフの国にそんなモノが来るなど、ダークエルフの策か、はたまた家族に害をなしたモノだと考える方が普通である。
しかし、バーンナッドは尻に敷かれている。それもかなり敷かれていた。
脂汗なのか冷や汗なのか。肌寒い季節には不似合いなほどの汗を流したバーンナッドを、レビンはどこか共感した視線で見つめた。
(うん。あの母娘、怖いですよね。わかります)
いきなり殴りかかられたが、事情が事情なだけにレビンには同情心しか湧いてこなかったのだった。
「はい。味方です。産まれた時からお世話になっています」
「ナキ村の…そうか。済まなかった。許してほしい。まずは歓迎させてくれ。手紙も確認したいし…そうだな。ついて来てくれるか?」
その言葉にレビンは頷き、そして。
「こちらの魔族のゲボルグさんも同席して良いですか?」
「勿論だとも。二人とも来てくれ」
バーンナッドはそう言うと踵を返し出てきた建物へと向け歩き出した。
ゲボルグはもちろん全力で首を振っていたが、誰にも気付いてもらうことはなかった。
他の建物より少し大きめの家の中へと案内されたレビンは、辺りをキョロキョロと見回していた。
所謂おのぼりさんである。
「ははっ。人族には珍しいだろうね。まずは座ってくれ。それで手紙は…」
長い階段を登った先にある建物の中は、草原の香りが充満していた。
そしてほぼがらんどうな建物の中にはテーブルと椅子があり、そこへと二人は促された。
「なんて書いてありました?」
「…君の事が書いてある。……」
長い沈黙に、今度はレビンの居心地が悪くなった。
(えっ?!レイラさん、一体何を書いたの!?)
「なるほど…どうやら私としては、あまり君を歓迎出来そうにないな」
その言葉にゲボルグの呼吸が止まる。心臓は多分動いている。
「えっ?何故です?お嬢さんが大切ではないのですか?」
ガタッ
「大切だからだ!」
レビンの言葉に激昂したバーンナッドは、再び拳を振り上げる。
「…」
しかし、レビンに通用しない事を思い出すと、振り上げた腕を下ろし静かに椅子へ座り直した。
「怒られる理由がわかりません。手紙になんと書いてあったのですか?」
「…ミルキィと君の仲についてだ」
「?」
レビンは訳がわからなかった。
(幼馴染って、エルフの中ではダメなのかな?)
(あの可愛いミルキィの想い人…ゆるさん)
二人の思いは暫く平行線を辿ったのだが、そこで予想外の人物が割って入る。
「…其方の娘を治すためにレビンはここへ来たのだ。話くらいは聞いてやるのだな」
「…は?治す?何を?」
「えっ?手紙に書いてなかったのですか?」
肝心な事は証拠が残る物に記録しない。
レイラの用心深さがすれ違いを生んだようだ。
レビンはミルキィの状態と共にレベルドレインについて説明した。
「聞いた事が無いね…」
バーンナッドのその言葉にレビンはショックを受けそうになる。
ミルキィを治したい一心で、魔の森を横断しここまで来たのだ。
レビンにとっては命懸けではなかったが、たとえ命懸けであったとしても、同じように行動しただろう。
それだけ期待して来たのだ。それが裏切られ項垂れているレビンへと、天上人からの声が聞こえた。
「聞いた事がある」
「「えっ!?」」
天上人ではなく、ゲボルグからの報せだった。
二人は同じように驚いた顔をゲボルグに向けた。
「あくまで伝承である。魔族が人族に迫害を受け、新たな場所を求めた事は知っておるな?」
「何となくは…」
ヴァンパイアとエルフのことのはずなのに、まさか魔族が知っていたとは。
レビンはそれなら初めから事情を説明しとけば良かった…と、少し後悔する。
しかし、ゲボルグのポンコツ具合を見てきた上に、先を急いでいた事もあり、適当な説明だけに留めていたのは仕方のないことでもあった。
予想外すぎるのだ。ゲボルグが。色々と……
「その我等を新天地へ導いて下さったのが魔王様である。
魔王様もレビンと同じくレベル99を遥かに超えていたと伝承で伝わっている。
そして魔王様の伴侶である人が、レビンの仲間のミルキィ…であったか?その者と同じく長い眠りについたことがあったと」
「あれ?でも、僕の事も最初に魔王って…」
魔王が実在して、そして敬う存在であるなら、なんで恐れられた?とレビンは疑問に思う。
「レビンくん。魔王というのは、人外の強さを持ったモノを総称してそう呼ぶんだ。
多分、ゲボルグさんはレビンくんの強さにそれを感じたんじゃないか?」
「その通りである。我はレビンの強さから魔王種ではないかと思ったのだ」
「ま、魔王種?」
また新しい単語が出たな。そう思うレビンであったが、全く無関係ではなさそうなので、しっかりと聞くことに。
「ああ。魔王種とは、人外の力を手に入れられる者達を同じ種族として考えるのはどうかと、昔の人が作ったモノである。
我等の魔王様も魔王種であるな。
話を統合すると、レビンも同じである」
「……」
レビンはいきなり人ではないと言われたので、言葉を失う。
「それで肝心な事は?魔王様の伴侶は?」
(そうだった…今は僕の事なんか、どうでもいいじゃないか)
「書物でも残っている。確かあれは…魔王様の日記であったな…」
ゲボルグがこめかみを押さえ、記憶を呼び起こす。
「『妻が眠りから覚めない。やはりこの世界の人は、99レベル以上になってはダメなんだ…
俺には何も出来ない。出来ないがいつまでも待とう』
だったはずだ」
「急かして済まないけど、肝心なところは?」
バーンナッドもゲボルグの話の進め方に、段々と苛立ちが募る。
(うん。この人、人の話聞かないからなぁ)
レビンも苦労したのだ。
「待て待て。あっ!そうであったな!『妻が眠りについてから丁度99日、目覚めた。私はもう何もいらない』
である!」
「99日……他には何かありませんでしたか?」
「うーん。魔族を救うときには既に目覚めていたのでなぁ。ヒントらしきモノはないと断言しよう」
(アテにならない断言だな…)
しかし、唯一の希望はあった。
「レビンくん。こちらでも何か手掛かりがないか探してみよう。とりあえず、今日はここに泊まっていくといいよ」
「はい。お願いします。ところでその魔王様は、別の世界から来たんですか?」
「確かに…その様に日記に記されていたのである。レビンも、もしや…!?」
「いえ。人畜無害なこの世界の農民です」
農民では……ツッコんだら負けな気がする。
レベル
レビン:74(173)
ミルキィ:???