「_____!___、____。」
「やっと演説が終わったかな?」
一人の栗色の髪に栗色の異様な瞳を持つ青年が呟く。周りはもう日が沈む頃だと言うのに辺りは熱気に包まれこっちまで暑苦しい。
「多分。」
淡い金髪に宝石眼の青い瞳を持った目を見張るほどの美貌の持ち主である十代後半程の少女が短い言葉を返す。少女は基本的に眉一つ動かさず無表情であるがこの美貌の上、逆に神秘的な雰囲気を醸し出している。
「はあ、にしてもやっぱり本当に戦争するみたいだね。早くナナビさん達に報告しないと。」
そう言って青年は魔法を構築させ、一瞬で転移魔法陣を展開させる。青年が足を魔法陣の中に入れようとしたとき、青年の黒い軍服の裾に白い手が添えられる。
「イゼ、待って。」
少女はイゼと呼ばれる青年を止める。青年はそんな小さな手など振り払えただろうにそうしない。果たしてそれは、青年がただ振り払わなかっただけなのか、それとも振り払えられなかったのかは分かる者は二人のみだ。
「シエさん?どうしたの?」
イゼはシエと呼ばれる少女に問いかける。
「例の最高人族戦力。あれは、転生者。」
「うん、だろうね。でもそれがどうしたの?」
イゼは平坦な声で言う。
「まだ、転生者は居る。」
「なっ……!?」
今度こそイゼの表情が変わった。驚愕の表情へと。それには、混乱と期待の気持ちが混じっているのがシエには分かっているようだ。
「それは…敵か味方かそれとも他の何かか分かっているのかい?」
「分からない。」
シエはゆっくりと首を振った。イゼは困ったように首を傾げる。
「取り敢えず、戻って報告しよう。僕達もそろそろ準備しないと。」
シエはコクリと頷き、二人は魔法陣の中へ消え去ってしまった。
「ふう…」
落ち着け、俺。大丈夫だ。俺は横に居る愛おしい婚約者を見る。淡い金髪に宝石眼の青い瞳を持った絶世の美女。誰もが彼女を見たら二度見してしまうだろう。俺もそうだった。その絶世の美女であるシャルレラは緊張したような表情をしながら俺を見つめている。
「大丈夫だ、シャルレラ。魔族何かに俺等は負けないさ。」
「っ!はい!私は信じています!」
白い手が俺の手を掴んでブンブンとふる。うっ、それは地味に痛い。でも可愛いから許す!
「あはは、ラブラブ中悪いがそろそろ私達にも指示を出してくれんか?英雄殿。」
「あ、別にいいんですよ?二人でごゆっくり。」
「リア充だね、良かったねー。」
「なっ、別に!うっ、おっほん!では最終確認をするぞ!」
俺とシャルレラは顔を真っ赤にさせながら話題を切り替える。
「カルティア・ウィルカルファ!」
「はーい!」
「エドバルス・クアルトドット!」
「はい。」
「ローレンス・ガルスファナ!」
「はいはーいのはーい!」
「ベルビーン・コーデリアス!」
「分かりました!」
「ミフェミス・テイスティット!」
「りょーかーい!」
「ギャラザン・ネイビーシル!」
「はい!」
「メイヴィス・ホーウェンソー!」
「はいです!」
「サヴァンサ・キルトケル!」
「任せてください!」
「そして、シャルレラ・ミルフォルド!」
「はいっ!」
「ふう…もう一度説明するぞ。まず、カルティア班は騎士団と一緒に国の防衛。エドバンス班は魔族軍の幹部を足止め、出来れば討伐。そして残った、俺とシャルレラは、ボスに殴り込みに行く!分かったか?」
「分かったが…随分大雑把な作戦ですね、英雄殿。」
「しょうがないだろう?だって相手は魔族何だぞ?正攻法は通じないぞ。」
「それもそーねー。」
「まっ!皆で殴れば、どんな敵でも、い、ち、ころ、だぜ?なーんてな!」
ヒューと言う寒い空気が流れたが大丈夫だ。俺はお前の味方だ、ベルビーン。
「あー、うん。どんまいベルビーン。」
「酷っ!?」
どっと、笑いが溢れる。全く、今から戦争だっていうのに。まあ、こっちの方が都合俺たちっぽいか。そうして俺たちは戦場へと足を踏み入れた。
画面が切り替わる。先程までの威勢は無くなり荒い吐息だけが音を発している。
「はっ、はっ、はっ…」
「ハディさん…だっ、大丈夫です…か?」
「はっ、はっ、大丈夫…じゃないかもな。シャルレラは、無事か?」
「わ、私は、まだいけます!」
「けっ、お前ら調子のんじゃねーぞ!そっちが先に戦争仕掛けていきおいて、被害者面かぁ?それに気に食わねぇな、その顔!将軍のマネなんかしやがって!この女狐が!」
「きゃっ!」
「シャル、ぐあっ!?」
何故だ?その一つの疑問がぐるぐると脳内の中を駆け回る。何故、俺等がこんな目に遭わなくてはいけないのか。分からない。分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない!その時空から何かが降ってきた。比喩でもなんでもなく物理的に。
「間に合ったか?」
銀髪の青年と黒髪の少女はそこに居た。青年は真っ直ぐと敵の幹部を見つめ、少女は何処からかペンを取りだし、言葉を空中に記述する。そうするとその書いた言葉が青年の頭の中へと流れ込む。何故それが分かるかというと俺が人類最強と言われた英雄だからだ。内容までは分からないけどやってることは分かる。そんな俺でも……そんな俺のような転生者でも難しいというのに……。俺はこいつらを知っている。今まで何度も見たことがある。
「…くそ。」
こんな事にも気づくことが出来なかったのか、俺はっ!その、誰もが呆気にとられ、意味が理解出来ない光景を俺等はただ見つめることしかできなかった。
「よーし。じゃじゃ、みーんな、集まったな?ほな、行こかー…………返事くらいせい。この化け物達が。」
「あ、すみませんッス。」
「謝れ言っとんちゃうねん!ほな、行くで!」
「将軍。」
「………」
「将軍。」
「………」
「将軍……バー」
「言わせへんで!?今バーカ言おうとしたやろ!?言わせへんで!?」
「肩に猫毛ついてるって言おうとしただけ。」
「おわっ!?ほんまやんけって、そりゃ猫と戯れてたからなぁ。背中とか腹は落としとったけど、肩は気づかんかったわ。」
「うげげっ、お前今から戦場って言うのに猫と戯れてたの?きもっ。」
「うっ、刺さるー、言葉めっちゃ刺さるー。てか、女の子がきもとか言っちゃあかんねん。」
「はあ、将軍さん。行かないんッスカ?」
「だから、行くっていちょーねん!てか、お前等も将軍やろがい!」
「早くしないと置いていく。」
「早くー。」
「将軍さんー。」
「だから、お前等のせいや!かっ!もういい!準備はええな。ほな、行くで。ビビって小便漏らすなよ。小童ども。」
男達の向かう行く手は戦場だ。
コメント
2件
面白かった!あと、フォロワー50人おめでとう!!