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◆ 17話 MINAMO-nyn&one
休日の商店街。
薄灰パーカーに緑Tシャツの 三森りく(24)が、
淡い水色のMINAMO“ミナ坊”を軽く押し上げながら歩いていた。
視界の端には落ち着いたUI。
すれ違う人も、淡い水色・緑・黄緑のMINAMOを自然に身につけている。
りくがスマートリングを指で叩くと、
ミナ坊が文字をふわりと浮かべた。
『りく、新機能“nyn&one”が配信されました。
犬と猫の気持ちを推定し、字幕で表示します。
※他の動物には対応していません。』
「犬猫限定なんだ……まあ現実的だな。」
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商店街の奥で、淡緑トップスに灰スカートの 杉野いまり(20)が手を振る。
淡緑のMINAMOは髪に馴染み、アクセサリーのように揺れた。
「りくくん! “nyn&one”入れたよ!」
足元では、いまりの飼い猫“こみや”が小さく丸まっていた。
いまりがしゃがむと、MINAMOが猫の表情・姿勢を解析し、
頭上に淡い緑文字がふわりと浮かぶ。
『……おやつ まだ……?』
りくが笑った。
「こみや、そんな顔してた?」
いまりは半分あきれながらも楽しげに頬を緩める。
「やっぱり言ってたんだね……これ“要求顔”だったんだ……。」
しっぽが揺れると字幕が切り替わる。
『そこ! なでろ!』
「わがままが可視化されてる……。」
すれ違う人も興味深そうに見ているが、
MINAMOが一般化した社会では、誰も驚かない。
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少し歩くと、商店街入り口で犬の散歩イベントが行われていた。
りくが声を出さず無声入力すると、
ミナ坊が字幕モードを起動する。
黄緑スカーフの柴犬の横に、
水色の文字がふわっと浮かんだ。
『嬉しい!!!!!
でも知らない人!!!
でも嬉しい!!!!』
いまりが吹き出す。
「情緒ゆらゆらしすぎでしょ……。」
隣で跳ねる小型犬には、こんな字幕が浮いた。
『歩き方むずい……
でも いっしょにいたい!』
りくが目を細める。
「反則級にかわいいな……。」
犬の飼い主たちも語り合う。
「こうやって出ると怒れなくなるね。」
「散歩拒否の理由が一目で分かるから助かる!」
犬と飼い主が“会話している”ような風景が、
すっかり商店街の日常に溶け込んでいた。
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帰り道。
りくは歩きながらミナ坊に問いかける。
「ミナ坊、この字幕ってどれくらい正確なの?」
『感情推定モデルに基づく“推定”です。
犬猫限定の学習データを使用しており、
他動物には適用できません。
100%正確ではありませんが、
最も近い意図を表示しています。』
いまりが続ける。
「でもさ、“ほんとはどう思ってるか”分からないほうが
可愛いところもあったよね。」
りくも笑う。
「確かに。言語化って便利だけど、
全部知りたいわけじゃないっていうか……。」
ミナ坊が淡い波紋を出した。
『必要なら“ゆる字幕モード”にできます。
深読みしすぎない程度に調整します。』
「ミナ坊にまで気遣われてる……。」
いまりが肩をすくめて笑った。
「でもね、この機能……
動物飼ってる人にとっては人生変わるよ。」
夕暮れの商店街。
猫と犬の頭上に揺れる淡い水色と緑の字幕は、
未来ではなく“当たり前の日常”になりつつあった。
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