テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#めめこじ
雫
386
ゆんしょ
1,272
絶対辰哉
1,492
辰哉が自分の気持ちを認めた翌日。
会社へ向かう足取りは重かった。
好き。
その二文字を認めてしまったら、昨日までのようには笑えない。
それでも仕事は待ってくれない。
────────
朝のミーティング。
部長が全員を見回す。
「来週、クライアントへのプレゼンを行う」
資料が配られる。
「今回は照と辰哉、二人で発表を担当してもらう」
💜「……」
逃げられない。
また二人きりの時間が増える。
────────
昼過ぎ。
会議室。
プロジェクト資料を広げながら打ち合わせが始まる。
💛「この順番の方が伝わりやすいと思う」
💜「……うん」
💛「辰哉?」
💜「聞いてる」
返事はする。
でも、目は合わせない。
照はペンを置いた。
💛「昨日から変だよ」
💜「変じゃない」
💛「変」
静かな声だった。
責めるわけでもなく、怒るわけでもない。
だから余計につらい。
💜「仕事の話しよう」
💛「その前に」
照は真っ直ぐ辰哉を見る。
💛「俺、何かした?」
その言葉に胸が締め付けられた。
違う。
照は悪くない。
悪いのは、自分だ。
勝手に嫉妬して。
勝手に苦しくなっているだけ。
💜「……何もしてない」
💛「じゃあ」
💜「お願いだから」
照の言葉を遮る。
💜「今は聞かないで」
会議室が静まり返る。
照は数秒黙ったあと、小さく頷いた。
💛「……分かった」
それ以上は何も聞かなかった。
────────
その日の夕方。
プレゼン資料も完成し、二人は会社を出た。
エレベーターを降りると、外は雨だった。
💜「降ってたんだ」
傘を持っていない。
朝は晴れていたからだ。
辰哉は困ったように空を見上げる。
すると隣から傘が差し出された。
💛「入る?」
💜「……いい」
💛「風邪ひく」
💜「走れば平気」
そう言って歩き出そうとした瞬間。
照が辰哉の腕を軽くつかんだ。
💛「辰哉」
足が止まる。
💛「意地張るな」
その一言で。
五年前の記憶がよみがえった。
別れた日の雨。
あの日も照は同じように傘を差し出した。
でも辰哉は振り払って、一人で雨の中を歩いていった。
────────
辰哉はゆっくり振り返る。
照はあの頃と変わらない顔で立っていた。
💜「……変わらないね」
💛「何が?」
💜「そういうところ」
照は少し笑う。
💛「変われなかっただけ」
その言葉が引っかかった。
💜「……どういう意味?」
照は少しだけ視線を落とす。
💛「五年前から」
💛「後悔してることがある」
辰哉の鼓動が速くなる。
雨音だけが二人を包む。
💛「あの日」
💛「ちゃんと話せばよかった」
💜「……」
💛「仕事ばっかり見て」
💛「辰哉の気持ち、全然見えてなかった」
辰哉は何も言えなかった。
初めてだった。
照が別れの日のことを、自分から口にしたのは。
💛「ごめん」
短い謝罪。
その一言が。
五年間、胸につかえていた何かを少しだけ溶かした。
でも。
辰哉はまだ笑えなかった。
💜「……俺も」
照が顔を上げる。
💜「俺も悪かった」
💜「何も言わないで、一人で決めちゃったから」
二人とも苦笑する。
五年越しの謝罪。
遅すぎるくらい遅かった。
それでも。
あの日にはできなかった会話が、ようやく始まろうとしていた。
雨はまだ、静かに降り続いていた。
コメント
1件
ああ、もう……胸がぎゅっとなりました。照くんが「後悔してることがある」って口にした瞬間、一緒に息を止めてしまいましたよ。五年前の雨の日と重なる描写が切なくて、でもようやく二人の間に“言葉”が戻ってきた感じがして、じんわりきました。謝罪が遅すぎるなんてことはないと思います。この一歩が、これからを変えるんですよね。続きがすごく気になります。