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深夜二時。ない頭を回しまくったせいで、さすがに疲れた。
「も、もう限界だ……明日の自分に期待するとしよう」
というわけで、俺はベッドに横たわり、今夜はもう寝ることにした。体も頭も健全でないと、選択を間違えたり最適解を逃してしまう可能性がある。それだけは絶対に避けなければならない。
とりあえず、明日はまず武田さんと連絡を取って、動画制作の仕事を正式に受注できるようにしないと。この件をはっきりさせておかないと計算が立たないし。今後の俺の行動もそれいかんで変わってくる。だから、まずは頭をクリアにしないと。
と、そこまで考えたところで、俺はいつの間にか眠りに落ちた。まるで玩具の電池が切れてしまったの如く。
* * *
「――ん? 朝、なのか……?」
時計を確認すると、すでに午前十時を超えていた。しかし、自然に起きたわけではない。ローテーブルに置いてあったスマートフォンが暴れだしたのだ。
「クソッ、誰だよ。タイミングが悪いっつーの」
本当はもう少し寝ていたかった。とはいえ、スマートフォンを無視するわけにはいかない。もしかしたら大事な用件かもしれないから。で、半分微睡の中、俺は誰が電話をかけてきたのかを確認。
「なんだよ、大木かよ……」
液晶画面に表示されていたのは『大木武志』の文字。いや、お前さ。タイミングもそうだけれど、どうせくだらないことで電話をかけてきたんじゃないのか? と、身勝手に邪推する俺である。
「全く……まあ、いいか」
電話に出るか出ないか悩みはしたが、さすがに長い付き合いである大木を無視するわけにもいかず。なので眠い目を擦りながら、とりあえず応答ボタンをタップした。
「おー、一徳! 昨日はありがとうな! 今電話大丈夫か?」
寝起きの俺にとって、大木の元気で大きな声はさすがにキツい。が、まあいいか。不機嫌になっていても仕方がないし、意味がない。
「んー、まあ大丈夫。寝起きだからまだ若干頭がボーッとしてるけど」
「あ、悪い。寝てたのか。じゃあ簡潔に。実は見せたいものがあってさ。それで今日、またあの喫茶店に来てほしくて。十七時に。予定があったら別の時間でもいいからさ」
今日はレッスンが入っていないから、済ませるべき用事は武田コーチへの連絡と、告知ブログの更新だけ。だからその時間だったら余裕である。
だがしかし、急な誘いにも行くことができる程に暇な人間であるとはあまり思われたくはない。まあ、相変わらずの見栄である。
「十七時か。仕事を全て片付けたら行けるには行けるかな。もしかしたら少し待たせてしまうかもしれないけど、それでも大丈夫か?」
「オッケー! 全然大丈夫! 今日は俺、一日フリーだし。それじゃー十七時な!」
「サンキュー。じゃあとりあえず電話切るわそれじゃま――」
電話を切ろうとしたその刹那。大木が慌てた口調で引き留めた。ん? なんだ?
「あ! 待って待って! ちょっと気になることがあって。それだけ最初に伝えておくよ。一徳、パスポートの準備は大丈夫か? あれって確か出来上がるまでにニ週間くらいかかるはずだからさ。まあ、さすがにもう準備はしてるだろうけど。念の為にね」
「あー、はいはい。それなら大丈夫。問題ないよ。心配してくれてありがとうな。それじゃあまた、十七時にね」
終話ボタンを押した途端、一気に冷や汗が流れ出た。
「パスポート、だと……?」
完全に忘れてた。そうだよ、海外に行くんだからパスポートが必要になるじゃないか。当たり前じゃないか。なのに俺は今の今まで、その『パスポート』という存在自体を完全に忘れていた。
「ヤバい……失念ばかりじゃないか、最近の俺」
冷や汗をかくまでに一時的に焦ったばかりだというのに、不思議なことだけれど、今の俺は至極冷静だった。これは恐らく、経験則が理由であることはなんとなく理解していた。
そう、経験則。俺はこれまで、幾度となく困難な状況に追い込まられてきた。しかし、そのほとんどを乗り越えてきた。だからこそ、冷静でいられるのだ。
今回も乗り越えることができる自信があるんだ。根拠のない自信ではあるけれど。でも、根拠がないからこそ、強い。自信過剰だって? いや、違うね。自分自身に対して信じ、自信を持てることの大切さは、数多くの成功者を見れば明らかだ。それでいいんだ。持論という程ではないが、事実なのだから仕方がない。
とはいえさ。
パスポートの作り方が全っ然分からねえ!!