テラーノベル
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羽海汐遠
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「お前、俺を助けてくれただろ」
淡い期待が舌に乗せられたような、そんな声。長年友人として付き合ってきて、初めて聞いた音だった。何も言えず、黙って友人を見つめていることしか出来なかった。
「……まぁ、助けてくれたなんて言っても、ガキの頃の話だから覚えてないのも無理ない。とにかく、俺はあの時から、お前に助けられて、お前を助けたいと思った。……そう受け取ってくれればいい」
友人の顔はどこか悲しそうで、ここでやっと、間違った選択をしたと気づいた。
必死に言葉を探す間、再び沈黙が二人と肉塊を包み込む。何か、言ったほうがいいのだろうか。
「なぁ、」
「ほら、もうすぐ着くぞ。降りる準備をしておけ」
そう言われて前を見ると先程鍵をかけた自宅の影が見え始めた。
車から降りて階段を上がり、扉に鍵を差し込む。下を見れば、友人は肉塊の入ったゴミ袋を握りしめながら静かにこちらを見つめている。おそらくこちらとあれが完全に離されたことを自身の目で確かめたいのだろう。
ただ、何も言わずに部屋に入るのはなんだか申し訳なかった。先程の車内での申し訳なさもあるけれど、それ以上に、ここまでやってくれる友人を初めて見たという、感動と恐怖の入り混じった感情もあった。
「ありがとう」
口から出た声の弱さといったら。聞こえていないだろうな、なんて思っていれば、友人は何年も上がることのなかった口角を少し上げて、早く行け。と言うだけだった。
友情とは本来、相手が何か間違ったことをすれば片方がそれを咎め、すれ違う中で育まれるものなのだろう。けれど今は、この歪さが、この気味悪さが、この異常さが、友人も共犯になってくれたのだという事実をより一層際立たせて、心が楽になった。
その日の深夜、友人は交通事故で死んだと、後から知った。
コメント
1件
いや……あの終わり方、衝撃的でした。車内での友人の告白があんなに切実だったからこそ、最後の「交通事故で死んだ」がズシンと来ますね。彼が口角を上げて「早く行け」と言ったあの瞬間、初めて見せた笑顔が……もう二度と見られないのかと思うと。それにしても「何度も戻ってくる死体」って、まだ全然謎が解けてないですよね。これは続きが気になりすぎます……。