テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「……だから年寄りの冷水と言ったでしょう?」
ウキョウとサキョウの斬撃を刀と鞘で受け止めたまま、ユキは背後のジュウベエへ振り返る事無く呟いた。
ユキから何かを感じたのか、ウキョウとサキョウは即座に身を退き、彼から大幅に距離を取った。
「ユキヤ……」
ジュウベエはユキのその意外な行動に、戸惑いながら呟く。
「まさか、お主……某を助けてくれたのか?」
ジュウベエの知っている彼は、誰かの力になるような性格では無い事をよく知っていた。
闘いに於いては、余計な手出しは無用だという事も。
「勘違いしないでください。あの程度の相手に、手も足も出ないアナタが見てられなかっただけですよ」
ユキはそう言い放ち、ジュウベエへ振り返りながら失笑の表情を見せる。
「こっ……のっ!」
“――相変わらずか……。人を小馬鹿にする感じは、何一つ変わってないな”
だがジュウベエの知る彼とは、以前より何かが変わっている事を感じていた。
“以前なら気にも止めなかった筈だ”ーーと。
「さて……」
ユキは再度振り向き直し、ウキョウとサキョウへ向けて歩を進める。
「ウキョウさん、サキョウさん……でしたか?」
ユキは二人に向けて、刀を構えて臨戦態勢に入る。
“ーーっ!!”
ユキから放たれている、その凍り付く様な冷たい殺気に、ジュウベエは高揚にも似た寒気が全身を駆け巡っていく。
“――久々に見れるか!? 死神の剣を”
「ジュウベエを簡単に追い込むとは流石ですが……」
ユキの殺気に充てられたのか、ウキョウとサキョウの二人は僅かに後ろへ退いた気がした。
「時間が惜しいので、さっさと終わらせましょうか」
その冷酷な瞳を以て、対峙する二人を見据えていた。
「フン……」
対峙するユキと、ウキョウ&サキョウ。
「随分な大口だが、この二人をこれまでの軍団長と思ったら大間違い」
それを傍観しているルヅキが、そう口を紡いでいた。
「軍団長など何人いようと、私の敵ではありませんが?」
ユキは対峙する二人から目を逸らさぬまま、彼女へそう返す。それは確信を以て。事実そうだろう。
「それはどうかな?」
だが彼女の不敵な自信。それに伴う二人への信頼か。ルヅキはウキョウとサキョウへ目で促し、それと同時にユキへ向けて二人は攻撃を開始する。
『始まった!』
ぶつかり合う刀と刀の金属音が響き渡る中、巻き添えを喰らわぬ様、離れた位置で見守るアミとミオ。そしてジュウベエ。
「あの人……」
アミは離れた位置で傍観しているルヅキに目を向ける。
その余裕とも云える、何か確信めいた表情が不気味だった。
「ユキ……」
“何だろう? 凄く、嫌な予感がする……”
アミの感じたそれは、何か言い様の無い不安感。それはまるで、最初から全てが定められていたかの様な。
ユキ対ウキョウ&サキョウ。
その激しい切り結びに、辺りに多重の斬撃音が響き渡る。
ユキの双流葬舞による斬撃は、ウキョウの残像だけを残して捉えられず、逆にウキョウの双剣が彼の両肩を切り裂き、血飛沫が夜空に吹き上がった。
「ちっ!」
すぐさまサキョウによる連携。長刀による降り下ろしを、ユキは刀と鞘で受け止めるが。
「ぐっ……」
その凄まじい衝撃を吸収出来ず、ユキは後方へ弾き飛ばされるかの様に後退る。
「ええ!? 何でユキが押されてんの!?」
ミオはその明らかな劣勢に、思わず声を上げた。
それもそうだろう。すぐさま追撃するウキョウとサキョウの凄まじい速さの連携攻撃に、ユキは後退りながら受け止めるのが精一杯に見えるからだ。
「当たり前だ」
その合間にルヅキの一言が、夜風に乗ってミオ達に届く。
『ーーっ!?』
三人は一斉にルヅキの方を向く。
「この二人は、これまでの軍団長格とは次元が違う」
丁度その時、切り結んでいた三人が弾かれる様に距離を取っていた。
ルヅキはウキョウとサキョウに目で促す。
二人は被っていた全身を纏う布地を剥ぎ取り、その全貌を顕にしたのだった。
『えっ!?』
布地を剥ぎ取ったウキョウとサキョウの姿に、アミとミオは思わず目を見張った。
ウキョウは黒い着流し、サキョウは白い着流しを纏う、ざんばら髪の侍風貌の両者だが、その肌色は土色で生気が感じられず、その瞳は戦慄的に紅く輝いている。
それはどう見ても人で在りながら、この世の者では無い存在感。
「冥王様の力により、黄泉の國から蘇りし超一級人物」
“黄泉? 蘇り?”
“一体何を……?”
ルヅキの言っている言葉の意味が理解出来ず、アミとミオの二人は戸惑い立ち竦む。
“――噂には聞いていたが、事実だったか……”
だがジュウベエだけは、その事実を受け止め思考する。
“狂座は死者をも蘇らせ、その戦力にする”
俄には受け入れ難い、その事実を。だが目の前に居るウキョウとサキョウの二人は、明らかにこの世の者とは思えないのだから。
「歴史上、最強の剣豪が二人ーー」
続くルヅキの一言に、誰もが驚愕を隠せなかった。
「かの宮本ムサシ、佐々木コジロウの両雄なのだから」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!