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#怖い話
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「八神!こっちだ、早くしろ!」
暗い路地裏で手招きをするのは、大学時代からの腐れ縁、門倉だった。
こいつも『徳ポリス』にのめり込み、今や俺と同じ「善人」ランクの常連だ。
「おい、門倉。あっちの広場、執行官が出たぞ。不徳者が一瞬で消された……」
俺が息を切らして告げると、門倉は薄気味悪いほど落ち着いた顔で頷いた。
「知ってるさ。それが『大浄化祭』だろ。社会のゴミを掃除して、俺たちがその分の運をいただく。合理的じゃないか」
門倉のスマホ画面には、黄金のオーラを纏ったアバターが表示されている。
彼は、不徳者を見つけてはポイントを掠め取り
その稼ぎで手に入れた「幸運」によって
ギャンブルで大勝ちし、高級マンションへ引っ越したばかりだ。
「……なぁ、これ、やりすぎじゃないか? さっきの奴、本当に死んで……」
「よせよ、八神。不徳を積む奴が悪いんだ。自業自得だろ」
門倉がそう言い捨てて歩き出した時だった。
カサリ、とゴミ捨て場で音がした。
門倉が即座にスマホを向ける。
「誰だ! 不法投棄か!?」
暗がりから出てきたのは、一人の老人だった。
手には古びたアルミ缶。
どうやら、ゴミ捨て場から資源ゴミを回収していたらしい。
【ターゲット:不徳スコア -800 窃盗、景観破壊、不衛生 】
【ボーナス適用:浄化報酬 8,000ポイント】
「ハッ、大当たりだ! 八神、こいつは俺がいただくぞ!」
門倉が「断罪」ボタンを連打する。
「やめろ、門倉!ただのホームレスだろ、そこまでしなくても……!」
「うるせえ! 8,000ポイントだぞ! これで俺のランクは『聖人』に届くんだ!」
門倉が老人に掴みかかろうとした瞬間。
老人が慌てて逃げようとして、持っていた袋を振り回した。
中に入っていた飲み残しの液体が
門倉の、あの高価なブランド物のジャケットに飛び散った。
「……あ」
門倉の動きが止まる。
次の瞬間、俺たちのスマホから、耳を突き刺すような不協和音が鳴り響いた。
『警告:ユーザー・門倉に不徳を検知。激しい怒り、暴力衝動』
『スコア変動:+15,000 → -2,000』
「な……なんだと!? 嘘だろ、こいつが汚したんだぞ! 俺は被害者だ!」
門倉がパニックになり、老人を突き飛ばした。
老人が地面に叩きつけられ、うめき声を上げる。
『追加不徳:弱者への暴行。スコア:-10,000。排除対象に指定されました』
門倉の頭上に、血のような赤色の巨大な光柱が立った。
「断罪の灯」だ。
「八神!助けてくれ! ポイントを分けてくれ! お前、持ってるだろ!?」
門倉が縋り付いてくる。
だが、俺のスマホ画面には、冷酷な通知が表示されていた。
『重罪者を検知。浄化報酬:30,000ポイント。不徳者と接触を続けると、あなたの徳も汚染されます』
「……ごめん、門倉」
俺は、彼の腕を振り払った。
友情
そんなものは、このアプリの世界では「不徳」でしかない。
正しいのはシステムだ。
システムが彼を「悪」だと言っている。
「八神……?お前、まさか……っ」
俺は震える指で、門倉の頭上に浮かぶ「排除」のアイコンをタップした。
背後から、無数の靴音が近づいてくる。
暗闇から、スマホのライトを掲げた「善人」たちが、笑顔でこちらへ走ってくる。
「……これが、正義なんだ」
俺は門倉の絶叫を背に、一度も振り返らずに駆け出した。
手元の画面には、見たこともないような莫大なポイントが加算されていた。