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「…今日は月見定食にするか」
そう言って、尊さんが注文したのは、ちょうど今の時期限定の品だった。
秋の香りが漂うたっぷりのきのこと、香ばしい豚の生姜焼き。
それに具沢山の豚汁がセットになっている。
「美味しそうですね……せっかくだし、俺もそれにします! 旬のものは食べておかないと」
店員さんに同じものを頼み、週末の旅行の思い出話を小さく交わす。
他愛ないやりとりに花を咲かせつつ、空いている二人席に尊さんと向かい合って座った。
「お待たせしました。月見定食二名様です」
という店員さんの威勢のいい声と共に
俺たちの前に並んだお膳は、想像以上のボリュームと色彩だった。
「…盛り付けも秋らしくて綺麗だな」
尊さんが少し目を見開いて、感心したように呟く。
メインの皿には、照りよく甘辛いタレを纏った豚肉の生姜焼き。
その上には、これでもかというほど秋の味覚である舞茸やしめじが躍っている。
添えられたミニトマトの赤と、キャベツの千切りの緑が、深いネイビーのランチョンマットによく映えていた。
何より目を引くのは、小鉢の中で黄金色に輝く生卵だ。
「この卵、凄いですよ尊さん」
産地直送の朝採れだというそれは、箸を跳ね返しそうなほど黄身がぷっくりと高く盛り上がっていて
まさに今夜の主役「月」そのものだった。
「ふふ、食べるのが少しもったいないくらいですね」
そう言いながらも、鼻腔をくすぐる生姜と醤油の香ばしい匂いに、胃袋が素直な声を上げる。
俺たちはどちらからともなく「いただきます」と小さく手を合わせ、割り箸を割った。
まずは、白く湯気を立てる豚汁から。
一口啜ると、大根や人参などの根菜の優しい甘みと
豚肉の良質な脂の旨味が、五臓六腑にじんわりと染み渡っていく。
連休明けの、仕事モードに切り替えきれていなかった少し重だるい身体のスイッチが
内側からゆっくりと、心地よく切り替わっていくような感覚だ。
「……美味い。出汁がしっかり効いているな」
対面に座る尊さんが、短く、けれど心底実感のこもった声を漏らした。
彼が次に箸を伸ばしたのは、キノコたっぷりの生姜焼きだ。
シャキシャキとした食感を楽しみ、間髪入れずに白米を口に運ぶ。
その満足げな、どこか少年のように純粋な表情を見ているだけで、俺までなんだか誇らしい気分になってくる。
俺は小さな器の中で、箸の先を使って黄身をそっと突き崩した。
とろりと溢れ出した濃厚な黄色を、炊き立ての白飯の上へ。
そこへさらに、タレの絡んだ豚肉を一切れ、贅沢に乗せる。
口に放り込めば、肉のパンチのある旨味
キノコの芳醇な風味、そして卵の濃厚でまろやかなコクが渾然一体となって口の中が秋の祭りのような賑わいを見せた。
「……最高すぎます、これ」
コメント
1件
美味しそう(´,,•﹃•,,`)