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#闇バイト
るしゅ
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油味噌
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2,331
翠
36
『君が生まれた日から』
『もう始まっていたんだ』
その言葉を最後に、スピーカーから音が消えた
俺はしばらく動けなかった
頭の中で、何度も同じ言葉が繰り返されている
生まれた日から
俺が闇バイトに応募した日じゃない
もっと前
俺が何も知らなかった頃から
「……悠真」
美咲の声で我に返る
「大丈夫?」
「……分からない」
俺は壁に貼られた写真を見る
幼い頃の俺
小学生の俺
中学生の俺
そして
生まれたばかりの俺
ずっと誰かに見られていた
でも
どうして俺なんだ
「なあ、美咲」
「うん」
「俺が生まれた日って……何があったんだ?」
美咲は答えなかった
俺も、その答えを知っている人間が誰なのか分かっていた
父さん
そして
美咲の母親
写真の中で二人は一緒にいた
俺と蓮を守るために
でも
何から守ろうとしたんだ?
Rから?
それとも
Rになることから?
俺は机の上に置かれた書類を手に取った
古い紙
日付は2009年
その中に一枚だけ
他とは違うものがあった
「これ……」
美咲が隣から覗き込む
紙の中央に
俺の名前が書かれている
**神谷悠真**
その下には
**神谷蓮**
そして
その二つの名前を囲むように
赤い線が引かれている
「兄弟だから?」
美咲が言う
「……たぶん違う」
俺は紙を裏返す
そこには一行だけ書かれていた
**『二人を同時に追跡してはならない』**
「追跡……?」
俺は眉をひそめる
誰かが俺たちを追っていた
でも
同時に追跡してはいけない理由がある
なぜ?
その時
俺のスマホが震えた
画面を見る
知らない番号
俺は迷った
出るべきか
美咲を見る
「出るの?」
「分からない」
でも
俺は通話ボタンを押した
「もしもし」
返事はない
ただ
小さな呼吸音だけが聞こえる
「誰だ?」
数秒後
声がした
「……悠真?」
俺の心臓が止まりそうになった
聞いたことがある声
でも
すぐには思い出せない
「誰だよ」
「俺だよ」
「だから誰だ!」
少しの沈黙
そして
その名前を聞いた瞬間
俺は言葉を失った
「蓮」
電話の向こうから
そう聞こえた
俺はスマホを握りしめる
「……お前」
「久しぶりだな」
「ふざけるな」
自分でも分かるくらい
声が震えていた
「俺はお前を知らない」
「そうだな」
「兄弟なんだろ」
「ああ」
「じゃあなんで今まで俺の前に現れなかった!」
電話の向こうで
蓮が黙る
「……父さんに聞いてないのか?」
「何を」
「俺がいなくなった理由」
「知らない」
「そうか」
蓮の声が少しだけ低くなる
「じゃあ、まだ父さんは何も話してないんだな」
「だから何をだよ!」
俺は叫んだ
美咲が驚いた顔で俺を見る
「俺のことも」
「お前のことも」
「Rのことも」
「全部隠してた」
「……そうだ」
蓮は答えた
「父さんは、お前を守りたかった」
「守る?」
俺は笑った
笑えるはずなんてないのに
「俺の人生をめちゃくちゃにしておいて?」
「違う」
「何が違うんだよ!」
「悠真」
蓮の声が変わった
「父さんは、お前をRから遠ざけたかった」
俺は黙った
「でも」
蓮が続ける
「Rから逃げるためには、Rのことを知らない方がいいと思った」
「だから何も教えなかった」
「俺だけ普通に生きさせようとした」
「……そうだ」
「でも、失敗した」
その言葉が
胸に刺さった
「何が?」
「Rは、お前を見つけた」
俺はスマホを強く握る
「闇バイトの応募も?」
「……」
「俺が応募したことも」
「全部偶然じゃなかったのか?」
蓮は答えなかった
その沈黙が
答えだった
「じゃあ」
俺は言った
「俺が応募した時には」
「もう全部決まってたのか?」
「違う」
「何が違う!」
「決まっていたのは」
蓮が言う
「お前が狙われることだけだ」
背中が冷たくなった
「誰が決めた?」
「Rだ」
「誰だよ」
「……」
「今のRか?」
「違う」
蓮の声が小さくなる
「じゃあ誰なんだよ」
「俺にも分からない」
「嘘つけ」
「本当だ」
蓮は言った
「Rは一人じゃない」
45話で聞いた言葉
でも
今聞くと
意味が違って聞こえた
「じゃあ」
俺はゆっくり言う
「父さんも」
「Rだった」
「お前も?」
沈黙
「……蓮」
俺は聞いた
「お前はRなのか?」
長い沈黙
そして
「俺は」
蓮が答える
「Rになった」
俺は息を止める
「なった?」
「最初からRだったわけじゃない」
「じゃあ」
「誰かが俺に渡した」
「何を?」
蓮は答えた
「名前だよ」
俺は意味が分からなかった
「Rという名前」
「それを受け継いだ」
「だから」
「Rは一人じゃない」
俺は壁を見る
写真の中の父さん
その隣の蓮
そして
俺
「じゃあ父さんは?」
蓮の声が止まる
「父さんはRを終わらせようとした」
「でも」
「終わらせられなかった」
「どうして?」
「Rは人間じゃないから」
俺は眉をひそめる
「どういう意味だよ」
「Rは組織の名前でもない」
「一人の人間でもない」
「誰かが必要とする役割だ」
蓮は言った
「だから」
「一人が消えても」
「次の人間が現れる」
俺は何も言えなかった
「父さんは」
蓮が続ける
「俺にRを渡した」
「そして俺は」
「誰かにRを渡した」
俺の背中に寒気が走る
「じゃあ」
俺は聞いた
「今のRは誰なんだ?」
電話の向こうで
蓮が黙る
「蓮?」
「……それを知ったら」
「お前はもう戻れない」
「もう戻れないよ」
俺は答えた
「とっくに」
少しの沈黙
蓮が言う
「そうか」
「じゃあ一つだけ教える」
「何?」
「Rを受け継ぐ人間は」
「自分で選べない」
「……どういうことだよ」
「Rに選ばれるんだ」
電話が切れた
「蓮!」
俺は叫んだ
でも
もう繋がらない
俺はスマホを下ろす
美咲が俺を見る
「悠真」
「……何?」
「今の話」
「ああ」
「Rに選ばれるって」
俺は答えられなかった
その時
机の上に置かれた一枚の紙が
風もないのに床へ落ちた
俺は拾い上げる
裏側を見る
そこには
一つの名前が書かれていた
**神谷悠真**
その名前の下
赤い文字で
こう書かれている
**『次の候補』**
俺の手が止まる
「……美咲」
「うん」
「俺」
「Rに選ばれたのかもしれない」
美咲が首を横に振る
「違う」
「え?」
「選ばれたんじゃない」
美咲は紙を見る
「まだ候補なんだよ」
その言葉を聞いた瞬間
俺は理解した
俺は
Rじゃない
でも
Rになる可能性がある
そして
それは
俺が闇バイトに応募した日より
ずっと前から
決められていた
俺は紙を握りつぶした
「ふざけるな」
俺は呟く
「俺の人生を」
誰かが勝手に決めていた
生まれた日から
俺が知らないところで
俺の未来が
誰かに決められていた
俺は紙を破った
「俺はRにならない」
美咲が俺を見る
「悠真……」
「絶対にならない」
俺は立ち上がる
「父さんが何をしたのか」
「蓮が何をしたのか」
「今のRが何を考えてるのか」
全部知る
そして
俺を勝手に選んだ奴を
見つける
「俺の人生は」
俺は204号室を見回した
「俺が決める」
その瞬間
スマホが震えた
新しいメッセージ
送り主
**R**
俺は画面を開く
そこには
一枚の写真が添付されていた
写真に写っているのは
俺の父さん
若い頃の蓮
そして
もう一人
顔を黒く塗りつぶされた人物
その人物の胸元には
赤いR
そして
メッセージ
**『君が知るべきなのは』**
**『僕の正体じゃない』**
**『君の父親が』**
**『最後にRを誰へ渡したのかだ』**
俺は写真を見つめた
「……最後に?」
美咲が俺の横から画面を見る
「どういうこと?」
俺は答えられなかった
ただ
一つだけ
嫌な予感がした
父さんがRを終わらせようとした
蓮がRを受け継いだ
そして
誰かに渡した
なら
その次にいるのは
誰だ?
俺は写真を拡大する
黒く塗りつぶされた人物
その手元に
何かが写っている
俺は目を凝らした
それは
古い病院の診察券だった
そこに書かれていた名前
俺は
その名前を見た瞬間
息を止めた
「……嘘だろ」
美咲が俺を見る
「誰なの?」
俺は答えられなかった
ただ
その名前だけを
何度も見つめた
それは
俺が
絶対にRとは関係ないと思っていた人物だった
(第四十七話へ続く)
コメント
1件
るしゅさん、第46話読みました……。 「Rは人間じゃない」「Rに選ばれる」という概念が、物語の根底をひっくり返すような重さで迫ってきて、胸がぎゅっとなりました。特に、蓮が電話越しに「Rになった」と告げるシーン、悠真の「じゃあ今のRは誰なんだ?」という問いが響きます。そして最後の診察券――あの人物がまさか……。次が待ち遠しいです。