「お腹空いたでしょ? どれでも好きなの食べて。ここは何でも美味しいから。僕の保証付き」
「あ、ありがとうございます。でも、本当にいいんでしょうか?」
「何が?」
「あっ……いや、あの……こんな風に食事に誘ってもらって、何だか申し訳なくて」
「申し訳ないなんて思わないで。美味しいものは、一緒にいて嬉しい人と食べたいからね。だから、君を誘った」
「えっ」
「ここに女性と2人で来るのは初めてなんだ。こうして君とゆっくり食事ができるのはとても嬉しい。さあ、遠慮なく注文して」
一緒にいて嬉しい人だとか、女性と2人で来るのは初めてだとか……そんな言葉を並べられて、落ち着いてメニューなど見ていられない。
今、私は綾井店長にどう思われているのだろう?
「じゃあ、僕も頼もうかな。えっと……」
私がおどおどしている姿を見兼ねてか、店長はスマートに色々と注文してくれた。
若くして外車販売グループ「AYAI」の店長として成果を上げている綾井店長は、周りへの気配りもとにかくすごい。
仕事に関しては厳しいところもあるけれど、ちゃんとフォローも欠かさない、誰からも信頼される素晴らしい人だ。
次男といえども、お父さんの会社を守る重圧はかなりのものだろう。だけど、綾井店長はそれを見事にやって退け、実力は誰もがみんな認めている。
店長だけじゃない……
龍聖君や私のお父さんも、みんな自分の仕事に誇りを持ち、死に物狂いで頑張っている。そこにある、とてつもない苦労や努力を周りに気づかせないように、いつも笑顔で……
「さあ、お腹いっぱい食べて」
「ありがとうございます。本当に美味しそうですね。いただきます」
もちろん緊張はしていたけれど、楽しく会話を進めていくうちに、だんだんと気持ちも落ち着いていった。
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