テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第63話:外交の舞台
大和国のテレビ局スタジオは、深い緑で統一された舞台装置のように整えられていた。
壁面のライトもカーペットも緑、そして壇上に立つお偉いさんも、同じ色のスーツを着ている。
まひろはその映像を、淡い水色のトレーナーとグレーのズボン姿で自宅のソファに座りながら眺めていた。
隣では母親がエプロン姿で夕食の下ごしらえをしながら同じ画面を見守っている。
テレビには、天皇さんがゆっくりと壇上に歩み出る姿が映った。
胸元に国章をあしらったバッジ、ネクタイまで緑色で揃えられている。
しかし口を開いた瞬間、響いたのは「翻訳の声」だった。
落ち着いた中年男性の声が、スピーカーから流れる。
子どもたちは幼い頃からこの声を「安心の声」と教えられており、まひろも違和感なく聞き入る。
「大和国は、外国との協力を通じて、さらなる安心を築いてまいります」
拍手が会場を包み、通訳字幕も同じ言葉を映し出した。
まひろは首をかしげて母に尋ねた。
「これ……本当に天皇さんの声なの?」
母は包丁を止めずに答える。
「え? そうに決まってるじゃない。昔から外交の時はあの声なんだから」
まひろは小さく頷き、再び画面に視線を戻した。
スタジオに並んだ外国代表も、イヤホン越しに同じ翻訳の声を聞いて頷いている。
暗い管制室。
緑のフーディを羽織ったゼイドが、複数のモニター越しに舞台を眺めていた。
隣のスタッフが不安そうに声を漏らす。
「……やはり本人の声をそのまま流した方が良いのでは?」
ゼイドは冷静に言った。
「演出のほうが市民には心地いい。安心の声は習慣になった。
市民も外国人も“本人が話した”と信じ込む。それで十分だ」
モニターの中で、緑に染められた舞台と拍手が続いていた。