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第64話:外交イベント
午前十時、大和国旧マレーシア中央スタジアム。
観覧席には緑のジャケットを羽織った市民たちが並び、胸には「安心ラベル」のバッジが光っている。
アナウンスが響く。
「本日は“安心交流大会”をご覧いただきます!大和国選手と外国代表の試合で、未来の安心を世界に示しましょう!」
まひろは水色のトレーナーに灰色のズボン、首からは市民証カードを提げて、父と一緒にスタンドに座っていた。
彼の目は、緑のユニフォームに身を包んだ大和国選手団に注がれている。
隣では、外国代表選手たちがカラフルなジャージ姿で並んでいたが、その上から協賛ロゴ入りの緑のビブスを着せられていた。
彼らは笑顔を見せつつも、背後の小型カメラの群れにちらりと視線を送っていた。
試合前、巨大スクリーンに「安心CM」が流れる。
子どもたちが教室で「スーパー → ニンジン → トマト → カイケイ → ケッサイ → オワリ」と唱和し、最後に「アンズイで安心〜!」と笑顔で手を振る映像。
スタジアム全体から拍手と唱和が響く。
「アンズイで安心〜!」
まひろも無垢な声で合わせ、父は誇らしげに頷いた。
試合が始まる。
外国選手は驚くほど健闘するが、審判の翻訳音声が常に「安心のプレー」と補足する。
得点が決まるたびに、スタジアムのスクリーンに「幸福度ポイント安心イチ」と表示され、観客の市民証に加算されていく仕組みだった。
休憩時間、外国代表の一人が黄色のジャージの袖をまくりながら、控室で呟いた。
「全部“安心”に置き換えられてるな……俺たちの言葉まで」
すぐ横で、ネット軍の通訳担当が淡い緑の制服を整えながらにこやかに答える。
「ええ、安心こそが未来です。ここでは翻訳の声が市民の心を守るんです」
午後、試合は大和国の勝利で終わった。
観客席からは「安心!安心!」のコール。
緑の紙吹雪が舞い、巨大モニターにお偉いさんの映像が映る。
「外交は安心の力で結ばれます。世界に広がれ、大和国の安心!」
淡い緑のスーツ姿のその人物の口は動いていたが、会場に響くのは翻訳の声だった。
まひろは笑顔で拍手を送りながら、小さく首をかしげた。
「ねえ……これって、ほんとにあの人の声なのかな?」
父は濃い灰色の帽子を整えながら、肩に手を置いた。
「安心なら、それでいいんだよ」
その背後、暗い観覧席の影に佇む緑のフーディのゼイドが、モニターを見つめながら呟いた。
「外交さえも演出。安心という名の幕で包めば、市民は真実より拍手を選ぶ……」
スクリーンには、外国代表が無理に笑顔でアンズイを唱える姿が映し出されていた。