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第十六章 闇に刻まれた原点
閉ざされた扉の向こう。
そこは、空間そのものが“揺れている”ような静寂だった。
黒い円――駿が広げた“無効化の舞台”。
その中心に立つのは、朗と駿、ただ二人だけ。
仲間たちは扉の外に取り残され、
声すら届かない。
闇は音を殺し、空気を凍らせ、
まるで世界が朗だけのために作り替えられたようだった。
駿は、朗の小さな足音が近づくのを見守っていた。
やがて、朗が目の前に立つ。
「駿さん……どうして、ぼくを呼んだの?」
駿は、ゆっくりと目を閉じ、かすかに微笑んだ。
「呼んだのではない。
――お前が“選ばれた”のだ、朗」
「選ばれ……た?」
駿は手を伸ばし、朗の胸元へ触れずに指をかざす。
その瞬間――
黒糸が朗の胸の奥から震え、
まるで心臓と同じ鼓動を刻んだ。
朗は驚いて胸を押さえた。
「これ……ぼくの……?」
「そう。
それは“お前の力の核”だ。
黒糸はただの導きじゃない。
……朗、お前は生まれつき“舞の器”なんだ」
朗は息を呑む。
駿は続ける。
「昔……まだお前が幼すぎて記憶にも残っていない頃、
とある“影の舞踏家”の集落で、異変が起きた」
「集落……?」
「“舞い手”しか生まれない、閉ざされた里だ。
だが、そこへ一人だけ――
舞でも闇でもなく、“物語そのものを呼ぶ子供”が生まれた」
朗の目が大きく見開かれた。
「……それって……」
駿は朗の瞳を見つめて言った。
「朗。
それがお前だ」
朗が震える声で問う。
「ぼくが……“物語を呼ぶ”……?」
「そう。
舞い手でも、闇の使い手でもない。
お前は“役者の心”に干渉し、
舞台そのものを動かす力を持って生まれた」
駿の声は静かだった。
しかし、その奥には深い哀しみがある。
「里は恐れた。
舞台を動かす子供――それは、舞の秩序を壊す。
だから、お前を外に逃がした。
……まだ、赤ん坊だった頃だ」
朗の小さな手が震える。
「じゃあ……ぼくは、ずっと……」
「そう。
追われていた。
舞い手たちからも、闇の者からも。
……そして、お前を守ったのが――」
駿は扉の向こう側の倒れかけたサギへ視線を向けた。
「サギだ。
彼はお前を“役者”ではなく“観客”として舞台に置こうとした。
それが、お前を生かす唯一の方法だったから」
朗の胸が詰まる。
「サギさん……ぼくを……守って……」
駿は頷く。
「だから、俺はサギの舞を無効化した。
彼が守り続けた“物語”を取り上げるために」
朗は思わず叫んだ。
「どうして!! どうしてそんなことするの!!
サギさんは……悪い人じゃない!!」
駿の黒い瞳が、静かに揺れた。
「悪い?
……いや、違う。
彼は優しすぎるんだ。
朗、お前を“子供のまま舞台に残したい”と願うほどには」
「子供のまま……?」
「そう。
お前が大人になれば、“舞台を動かせる力”は完成する。
世界は変わる。
だから、彼は――お前を永遠に“観客席”に置こうとした」
朗は自分の胸の鼓動を感じた。
駿は静かに告げる。
「でも俺は違う」
緩やかに、しかし確かな声。
「――朗。
お前は舞台の中心に立つべきだ。
物語を動かす者として。
影でも、舞でもない、
そのどちらも上回る存在として」
朗の足が震えた。
「ぼくは……そんなの……」
「怖いか?」
「……うん」
駿は目を細め、姉に似た優しい笑みを浮かべた。
「大丈夫だ、朗。
怖いのは、お前が“本当に舞台の中心に立つ素質”を持っている証拠だ」
そして一歩、朗へと近づく。
闇が朗の足元で花のように揺らめいた。
「来い。
お前の“原点”を見せてやる。
お前がどこから来て、
なぜ選ばれ、
なぜ俺がここで待っていたのか――」
駿が手を伸ばす。
朗は、その手を見つめた。
胸の黒糸が、強く強く脈打つ。
その鼓動は、
朗の過去がすぐ目の前にあることを教えていた。
――物語の原点へ。
次の舞台が静かに開こうとしていた。
・つづく