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「……売らないよ。今日は、これだけ持って帰ってみて」
そう言ってが棚の奥から、小さなガラス瓶を差し出した。
光にかざすと、瓶の中は淡い桜色でゆれている。
その中には、澪の知らない誰かの“初恋”が詰まっていた。
「僕のものなんだ。昔の感情の、サンプルみたいなもの」
店主はそう言って微笑む。
売り物じゃない。けれど、感じることはできる。
澪はそっと瓶を受け取った。
「触れるだけで、分かると思うよ。感情って、生きてるから」
澪は少し迷ってから、瓶の口にそっと手を添えた。
ふたを開けた瞬間、やさしくて切ない香りが広がった。
——まだ、何もしてないのに。
胸が、苦しくなった。
それは“自分の気持ち”じゃないのに、まるで昔から知ってた感情みたいだった。
澪は瓶を抱えて店をあとにする。
「感情を持ち帰る」という初めての体験を胸に。