テラーノベル
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最近、やけに視線を感じる。
べっとりと、身体にまとわりつくような……嫌な感じ。
それとなくメンバーに相談してみると、
『そりゃお前、人気者だからなぁ』
『つい目で追っちゃうのも分からなくはないよ』
『俺も見られてるなって思うこと多いよ』
『アイドルなんて、見られてナンボなとこあるもんな』
なんて、口々に返された。
それはそう。
俺たちはアイドルで、周りから注目されることが仕事のようなもの。
興味を持ってもらえなければ、話にならない。
分かってる、けど。
なんとなく居心地が悪くなるような、嫌な感じなんだ。
重ねてそう言うと、みんな少し神妙な顔をして、
『変なのも居るからな。……俺たちと一緒の時は出来るだけ気をつけとくから』
『お前も、ひとりになる時は警戒心忘れないようにな!』
『スクープ狙ってる記者ってオチならまだいいけど』
『そんなら大丈夫ちゃう?俺ら、品行方正やん』
そう言って、元気づけるように背中や肩を叩いてくれた。
でも、そんな中……ひとりだけ。
俺にそっと、耳打ちをする。
『分かるよ、蓮。俺もさ……最近ちょっと、やな感じの視線感じるんだよな』
そう言ったのは、佐久間くん。
だよね、感じるよね、と囁き返すと、小さく頷いて。
『うん……なんかね、ちょっと変なんだ。なんてゆーか……殺意すら、感じてる』
殺意
それはいくらなんでも穏やかじゃない。
慌てて細い肩を掴んで、ガクガク揺さぶった。
なんで早く言わないの!
俺よりずっとヤバいじゃん!
そんな俺の言葉に、佐久間くんは『まあ、気のせいだと思うし!大丈夫大丈夫!』なんて笑っていたけれど。
この後、結構な事件に巻き込まれることを……
俺たちはまだ、知らなかった。
---
佐久間くんとのやり取りから、数日経ったある日。
冠番組の収録で、俺たちはメンバー全員でテレビ局へ来ていた。
みんなより一足先に楽屋を出た俺は、エレベーターを使わずスタジオへ向かう。
このところドラマやら映画の撮影が多くて、あまり身体を動かせてなくて。
少しでも運動になればと、最近は出来る限り階段を使うようにしていた。
(まだちょっと時間あるし……階段2往復くらいしてもいいかもな)
じきにツアーも始まるし、少しでも体力を付けておきたい。
ほんとはジムとかに通えればいいけれど、仕事が詰まっていてはなかなか暇も見つけられなくて。
……まあ、それは言い訳か。
忙しくたって、筋トレくらいいくらでも出来る。
グループのためにと思って個人の仕事を頑張っているけれど、その結果メンバーの足を引っ張るようなことがあってはいけない。
(佐久間くんに筋トレメニュー聞いてみようかなぁ)
俺と同じくらい……もしかしたらそれ以上に、佐久間くんは忙しい。
テレビで観ない日はほとんどないし、映画にアニメにバラエティに……縦横無尽の大活躍だ。
なのに、毎日きちんと筋トレはしていると言うんだから、一体どこにその体力があるのかと聞きたい。
いつだって元気で、明るくて、太陽みたいな笑顔を振りまいて……可愛くて。
大きくて真ん丸できゅるっきゅるの目も、
スっと通った高い鼻も、
柔らかそうな少し薄い唇も
俺の名前を呼ぶ時の、優しい声も
筋肉はしっかり付いているのに、しなやかで華奢な身体も
全部、全部…………好きだ。
まあ、その……流石に言えないけれど。
佐久間くんなら『気持ち悪い』とか言わないだろうし、それどころか『マジで〜?俺も蓮のこと好きだよ!』って言ってくれそうだけどさ。
多分それは、先輩として、メンバーとして、風呂友として好きだっていう意味だから。
俺の『好き』とは違うから。
透子
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#雪男BL
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だから、言えない。
大好きな人を困らせたくない。
ギクシャクしてしまうのも絶対に嫌だ。
だから今日も、なんでもない風を装って、ただのメンバーとして向き合う。
楽屋でも挨拶だけ交わして、ふっかさんと舘さんと楽しそうに話してる姿を眺めた。
離れたところから見つめているだけでも、充分幸せ。
時々こっちに目を向けて、にっこり笑ってくれるだけで嬉しい。
(……重症だなぁ)
佐久間くんが感じてる視線の正体、実は俺なんじゃないだろうか?
……いや、絶対に殺意なんて向けていないけれど。
そうだよ。
殺意ってなんだ?
何か、妙なことに巻き込まれたりしてるんじゃないか?
俺と同時期から視線を感じ始めたというのも、なんだかおかしい。
みんなが言うように、アイドルゆえに注目されているだけならいいんだ。
でも、もし事件性があるのなら……何処かに、相談するべきなのか?
ゆっくり階段を降りながら、そんなことをつらつらと考える。
すると、そこへ───
「あっ、居た!れーん!」
頭上から聞こえてくる、底抜けに明るい声。
パッとそちらを見上げると、手すり壁からピンク色の髪をふわふわさせて佐久間くんが顔を覗かせていた。
下の踊り場に立っていた俺に向けて、彼がぶんぶんと手を振る。
俺も軽く手を上げ、それに応えた。
「佐久間くん、どしたの?みんなは?」
「そろそろ楽屋出ると思うよ。俺はね〜、蓮と一緒に行こうと思って先に出てきた!」
「…………」
なんだそれ
めちゃくちゃ可愛いんですけど
「最近、あんま話せてなかったじゃん?だから、ちょっとでも話したいなーってさ」
「……そっか」
「ちょっとそこで待ってて!すぐ行くから!」
「アハ、待ってるから急がなくてもいいよ」
「みんなに追いつかれるじゃん!2段飛ばしで行───」
「え」
突然、佐久間くんの頭が視界から消えた。
それと同時に───
ドダダダダダッ…………
ドスン!!!
……と、鈍い音
一瞬、何が起きたのか……フリーズして
すぐに全身から血の気が引いた。
落ちた
佐久間くんが
階段から
「っ、佐久間くん!!!」
辺りに響き渡るくらいの大声で叫んで、階段を駆け上がる。
俺が居た踊り場から、ひとつ上の踊り場へ。
3段飛ばしで駆け上がったそこに、仰向けで倒れる佐久間くんの姿。
「佐久間くん!」
「う……っ、ぃ、たぁ……」
頭を押さえて小さく呻き声を上げる彼の傍らに、慌てて膝をつく。
「佐久間くん、大丈夫!?落ちたの!?」
「う、うぅ……そ、みたい……」
「痛いのは頭?打った?」
「頭、打ったけど……腰、いって……」
「待って、無理に起き上がらない方が───」
佐久間くんを支えようとしたところで、視界の端に一瞬人影が見えた……ような気がした。
反射的にそちらへ視線を向けるけれど、そこには誰も居なくて……
(気のせい、か?でも……)
「ぅ……れ、ん……」
「っ、どうしたの、佐久間くん」
俺の名前を呼びながら、佐久間くんがぎゅうっと手首を掴んでくる。
「頭、ぐらぐら、する……」
「……っ、まさか」
脳震盪
打ちどころが悪ければ、最悪のことだって起きることもある。
普段からアクロバットをダンスに取り入れている俺たちのグループ内でも、佐久間くんはとりわけ危険な大技を引き受けることが多い。
常に怪我のリスクと隣り合わせで、変な落ち方をして脳震盪を起こしたことも過去にはある。
その時に、色々と調べた。
(確か、なるべく動かさないようにして、打ったところを冷やして……)
残念ながら、ここには保冷剤も氷嚢も濡れタオルもない。
一先ず佐久間くんの頭をそっと自分の太腿に乗せて、ポケットからスマホを取り出した。
震える指で、メンバーに助けを求めるためにタップしようとしたところで、
「……めめ……佐久間!?」
階上から声が聞こえてくる。
あべちゃんだ。
「あ、あべちゃん、佐久間くんが……!」
「っ……ふっか、楽屋から保冷剤取ってきて!冷凍庫に入ってた!」
「お、おう!」
「照は救急車!すぐに呼んで!」
「わかった……!」
一緒に居た岩本くんとふっかさんにテキパキ指示を出して、あべちゃんが階段を駆け下りてくる。
俺たちの傍らに膝をつくと、佐久間くんへ声を掛ける。
「佐久間、意識はある?」
「あべ、ちゃ、ん……?」
「うん、阿部だよ。……めめ、佐久間は階段から?」
「……ん。俺が下の踊り場に居て、佐久間くんがそこの上の方に立ってて……話してる途中で、いきなり」
「……そっか。転がり落ちて、頭打ったってとこだな。……多分、」
「脳震盪起こしてると思う。頭がグラグラするって」
「佐久間、答えられたらでいいから教えて。吐き気はない?」
「だいじょ、ぶ……あたま、と……腰、めっちゃ打った……」
「うん。……めめ、正解だよ。脳震盪の時は頭少し上げた方が楽になるから」
「う、うん……」
いつもなら、あべちゃんに正解を貰えたら嬉しくなるところなのに。
こんな状況で、喜べるわけもない。
「阿部、保冷剤!あと小さいタオルとデカいバスタオルも持ってきた!」
「サンキュ、ふっか」
「ナベと舘は裏口まで救急車迎えに行ってくれてる。照は救急車呼んでから、スタジオ行ってスタッフに事情説明に行くって」
「うん、うん。ありがとう」
ふっかさんから受け取った保冷剤を小さいタオルに包んで、俺の手に押し付ける。
こくりと頷いて、佐久間くんに声を掛けた。
「……佐久間くん、冷やすよ?」
「ん……」
打ち付けたらしいところへタオルを押し当てると、佐久間くんがか細いため息を吐き出した。
「きもち……」
「うん……ちょっとだけ、下ろすからね?」
あべちゃんが折り畳んでくれたバスタオルの上に、佐久間くんの頭をそっと下ろす。
そこへドタバタと、ラウと康二もやって来た。
「さっくん!どないしたん!?」
「佐久間くん!!」
「にゃは……ふたりとも、こえ、でけー……」
2人の呼び掛けには答えるものの、佐久間くんの声は弱々しく掠れている。
今にも意識を手放してしまいそうなくらい、儚くて……消えてしまいそうで、怖くなった。
「……めめ」
あべちゃんに肩を叩かれて、立つように促される。
でも、佐久間くんから離れたくない。
「佐久間は大丈夫。意識はあるし、2人が声掛けてくれてるから」
「ん……」
のろのろと立ち上がり、あべちゃんと一緒に佐久間くんから2歩分ほど離れた。
「……いきなり落ちたって、言ったよね」
「うん。話してる途中で、いきなり姿が見えなくなって……すぐに大きい音がして、落ちたんだって分かっ───」
「……他に、誰か居なかった?」
「他に……」
話していたのは、俺と佐久間くんの2人。
他には誰も、居なかったはず………………いや。
「居た、かも……しれない」
「かも?」
「佐久間くんに声掛けてる時に、誰か上に居たような気がして、すぐそっちを見たんだけど……」
「……逃げた後だった?」
「逃げ……」
「めめ」
あべちゃんが強い力で俺の肩を掴む。
いつもの優しい彼からは想像出来ないほど、険しい顔をして……ぼそりと呟いた。
「佐久間は、突き落とされたんじゃないか……?」
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不穏な空気で1話が始まりましたが
ハピエン厨のわたしなので、ハピエンしか書けません。
めめさくがいい感じになるまで、しばしお付き合いくださいませ^^
コメント
1件
読み終わりました……冒頭から不穏な空気が漂ってて、めめの切ない片思いに胸が締め付けられましたね。「風呂友として好き」って、ああそういう距離感……って分かってるのに、階段のシーンで一気に空気が変わって。佐久間くんが落ちる瞬間の描写、本当にゾッとしました。あべちゃんの「突き落とされたんじゃないか?」で終わったのも効いてます。続き、めちゃくちゃ気になります!