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第58話:心のじかん ― サイコパス授業
午前の終わり、教室に「心のじかん」の鐘が鳴った。
窓から差し込むやわらかな光の下、水色のシャツに短パン姿のまひろは、机に肘をつきながらノートを開いた。
縁メガネに濃い緑のスーツを着た教師が、黒板の前に立つ。
チョークを握りしめて、ゆっくりと言葉を刻んだ。
「今日の心のじかんは、“サイコパス”について学びます」
教室の端末に映像が映し出される。
協賛エンターテイナーで流れる教育動画だ。画面の中では、明るい笑顔の若い男性がスーツ姿で語りかける。
「サイコパスとは、統制外語を使う人たちのことです。
危険な考えを広め、安心を壊してしまいます。だから、わたしたちは言葉を正しく守らなくてはいけません」
動画には、あえて“サイコパスが使ったとされる言葉”がぼかされ、ピー音と共に映し出される。
子どもたちはクスクスと笑ったが、すぐに教師が声をかけた。
「笑ってはいけません。サイコパスは現実に存在します。彼らは安心を乱す者です」
まひろは小さく首をかしげ、ノートに鉛筆で丸を描きながら呟いた。
「でも……もし知らずに言っちゃったらどうなるんだろう」
教師は頷き、黒板に大きく書いた。
「安心を守る三つの心得」
イ・呼び出しカナルーンで正しく始めること
ロ・統制外語を使わないこと
ハ・最後はアンズイで締めること
「これが市民の心を守る方法です。忘れてはいけません」
教室のスピーカーから柔らかいアナウンスが流れる。
「今日も安心を心に刻みましょう」
生徒たちは一斉に声を合わせる。
「アンズイで安心〜!」
その声が響く中、モニターの奥で緑のフーディを羽織ったゼイドは画面を見つめていた。
子どもたちの笑顔、唱和、そして統一された言葉。
ゼイドは低く呟く。
「心を守る授業か……。安心の名のもとに、心までも縛られていく」