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「あれはアイナさんが寝込んだ、次の日の朝でした」


「え、次の日ですか?

私、何だかタイミングが悪かったですね」


「確かに……。寝込むのが1日遅かったら、いろいろと違う感じになっていたと思います……。

――それでですね、朝の8時くらいに、わたしたちと同い年くらいの男性が来たんです」


同い年くらいの男性……? はて……?


「それ、私の知ってる人ですか?」


「いえ、知らないと思います。わたしも知りませんでしたし。

最初はクラリスさんが応対していたんですが、アイナさんに伝言があるということで、代わりにわたしが呼ばれたんです」


「ふむふむ?」


「客室にお通してお話を伺ったところ、その方は有名な剣術使いのお弟子さんということでして」


「ほうほう」


「何でも、ルークさんはその剣術使いさんのところに弟子入りをしたそうなんです!」


「おぉー!」


ルークは誰かを師事するために出ていったんだけど、お世話になる師匠さんを見つけることができたんだね。

ひとまず、これはめでたい!


「そこでルークさんの壮絶な入門秘話を聞いたのですが、まぁそれは置いておいて――」


「え!? そこ、置いちゃうんですか!?」


「わたしが察するに、ルークさん本人から直接聞いた方が面白そうなんですよ。

お弟子さんはそのやり取りをずっと見ていたわけでも無さそうですし、やっぱり臨場感というか、そう言うのが、こう……?」


「はぁ……」


「例えばですね、細い木の枝で兜割りをさせられたり、小さい羽虫をお箸で掴む試練を受けたそうです」


「和風!?」


「え? ワフウ? ……何ですか、それ」


「あ、いや……。何でもないです……」


さすがに『和風』なんていう言葉は無いか。日本を指す言葉だもんね。


でもお箸で羽虫を掴むって、それこそ日本っぽい感じがするような?

確か宮本武蔵だかが、お箸でハエを掴んでたんだよね。


……そういえばお箸ってあるんだね、この世界。


「ほら、そんな出だしを聞くだけでもドキドキしませんか?

わたしとしては、ルークさんの主観を交えてお話を聞きたいんですよ。

アイナさんにはさらなる新鮮味を持って頂くべく、ここではもう何もお伝えしません!」


「わ、分かりました……。

えっと、それで何でお弟子さんが来たんですか? ルークが直接来れば良いのに」


「修行に打ってつけの場所があるらしいんですけど、そこまでの船があまり出ていないそうなんです。

入門した次の日に1か月ぶりの船が出るということで、それに間に合わせるためにさっさと旅立ってしまったとか……」


「……慌ただしいですね。

それじゃ、今はどこかの島に行ってるってことですか」


「はい。そんなわけでルークさんが戻ってくるのは、修行を終えてその船が戻ってきたら……っていうことになるそうです」


「んん? こっちに戻ってきたら、もう修行は終わりなんですか?」


あれ? 剣術とかって、極めるには人生を賭けるようなものだと思っていたんだけど……。


「弟子入りとは言っても、短期の弟子入りみたいなんですよ。短期で集中特訓を受けるイメージですね。

主に精神面の修行と、日々の修行のやり方と、あとはできれば新技を覚える課程をまとめたコースだそうです」


「えー……。『コース』って……」


そんな言葉を使われると、通信教育とか講習会みたいなイメージになってしまうのは気のせいだろうか。

何というか、軽いというか、安っぽいというか……。


「それにしても新技ってどんなのでしょうね。わたし、今から楽しみです♪」


「あの、聞いてる限りでは結構怪しいんですけど……。

大丈夫なんですかね、そのお師匠さん……」


弟子入りの試練も何だか胡散臭いし、1回の修行で新技を覚えるとか……何だかもう、詐欺の雰囲気が凄いするんだけど。


「それは大丈夫だと思いますよ。

何と言っても、英雄シルヴェスターもそのコースを受けたらしいですから」


「へー。英雄シルヴェスターも――……って、それは凄いじゃないですか!

……本当なら、ですけど」


「いえいえ。

そのお師匠さん、わたしも名前を知っているくらいですから、心配は要らないと思いますよ」


む、結構有名な人なんだ? 名前だけで信頼が寄せられるっていうのは凄いなぁ。

……まぁ、本当に詐欺ならお弟子さんに伝言なんてさせないか。

となれば、今のところは信じておこう。もし詐欺だったら、あとでルークを慰めてあげることにしようかな。


「それじゃ、いつになるかは分かりませんけど、私たちはその帰りを待つことにしましょう。

私は私で頑張らないといけませんし」


「そうですね、わたしも頑張らないと。

アイナさんが思ったよりも早く目覚めたので、勉強が全然進んでいないんですよ」


「ではエミリアさんも一緒に頑張りましょう!

……ちなみに勉強するのって、光魔法でしたっけ?」


「はい、わたしが目指すのはバニッシュ・フェイトですからね!

前提条件も光魔法ばっかりなんですよ」


……うーん、やっぱり勉強するのはプリースト系の魔法だよね?

『英知』で見たエミリアさんの魔法使いルートは、やっぱり存在しないように思えるんだけど……まぁ良いか。今は忘れることにしよう。


「やっぱり先は長そうですよね。

ところで私が寝込んでいる間、ルークの件以外では何かありましたか?」



「……良い報告と、悪い報告があります」


「では悪い方からお願いします」


「むぐっ」


その二択なら、私は間違いなく『悪い方から』を選ぶ。

悪い方を聞いてから良い方を聞けば、最終的に少しくらいはマシな気持ちでいられそうだから。


「それでは……まずは申し訳ありません」


そう言いながら、エミリアさんは深く頭を下げた。


「えぇ……? 一体、何があったんです……?」


「あれはアイナさんが寝込んで3日目のことでした」


「はい」


「王城から例の……調達局のアルヴィンさんがいらっしゃったんです」


「あ、そっか。そっちには不在になることを伝えていませんでしたね。

無駄足にさせちゃって申し訳ないですけど……でもそれの、どこが悪い報告なんですか?」


「アイナさんが不在ということをお伝えしたらですね、いつ戻ってくるかを聞かれたんです」


「はい。それはそうですよね」


「戻るのはいつになるか分からないと伝えたところ、アルヴィンさんが急に狼狽し始めまして……」


「え?」


「どこに行ったのか、本当はいつ戻るのか、そこら辺を凄い剣幕で問い詰められたんです……」


「……はぁ」


「警備の人たちを巻き込んで3時間くらいは頑張ったんですけど、最終的に押し切られてしまって……。

アイナさんがお屋敷にいることを教えてしまいました……」


「ぎゃふん」


「あ、でもしっかり口止めはしましたよ!?」


「うーん……。

それにしても狼狽するだなんて、どうしたんでしょうね……?」


「そうですね……。

ちなみに部屋から出られない理由については、錬金術の修行の一環ということにしておきました。

何か聞かれたら、口裏を合わせておいて頂けると……」


「はい、それは別に……って、アルヴィンさんはそれで納得したんですか?」


「アイナさんはS+級のアイテムを連発して作りますからね。

錬金術の高みへの修行とでも言っておけば、割とイチコロでした!」


エミリアさんは、何故かフフンといった感じで鼻を高くした。


「んー……。悪い報告というよりは、何だか少し気持ち悪い報告でしたね。

さて、それでは良い報告で口直しをしましょう」


「はい!

アイナさんが寝込んでから2日目のことですが、ジェラードさんがいらっしゃいました」


「あれ? 最初の3日間って、誰かしらが来ていたんですね。

1日目がお弟子さん、2日目がジェラードさん、3日目がアルヴィンさん……っと」


「その通りです……! このまま毎日、来客が続くのかと思ってしまいましたよ……。

それでですね、アイナさんに頼まれていた……グランベル公爵が欲しがっているものが分かったらしくて。

起きたらそれだけ伝えるように、伝言を頼まれていたんです」


「おー」


グランベル公爵とは、テレーゼさんの幼馴染のシェリルさんを軟禁しているという噂の貴族だ。

シェリルさんに会う交渉材料として、グランベル公爵が欲しがっているものを探してもらっていたんだけど――


「むむ! その表情を見る限り、本当に良い報告だったんですね……!?」


「はい、少し前に頼んでいたことなんですよ。それ以外には何か言ってました?」


「詳しくはアイナさんに直接話す、っていうことでした。

いつ目覚めるか分からないとお伝えしたら、それなら毎週お見舞いに来るって言ってましたよ」


「……とすると、次に来るのはその日から1週間後くらいでしょうか」


「そうですね。えーっとつまり……明日ですね!」


「おお、ちょうど良いタイミング……」



……そんなわけで、目覚めてからあまり経っていないけど、明日からはいろいろ動きがありそうだ。

ジェラードに会って話を聞いて、時間があったら錬金術師ギルドにも行って――


そうそう、本命の神器の素材! これを見るのも明日にしようかな。

とんでもない素材があるかもしれないから、悩むのは明日から、ということで。


結構気にはなっているんだけど、もう少し休んで、体調を万端にしてから臨むことにしよう。

異世界冒険録~神器のアルケミスト~

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