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#怪異
41
#ハッピーエンド
当麻月菜
912
ヂ二ヂ二
15
『百年早いんですわ!』
千代の一言で、食堂が一気に凍り付いた。
しかし、人目を盗んで屋敷に招き入れたのは事実だが、千代が考えているような如何わしいことは、何一つしていない。
あらぬ冤罪に、名誉挽回しようとする雄斗だが、千代がより一層怖い顔をしたので、黙らざるを得なかった。
「昨晩、佐野さんから連絡を頂いていたのですよ。雄斗さまが年頃のお嬢さんを連れて行くから、お部屋を用意しておくようにって。わたくし、嬉しくて嬉しくて、心を込めてお部屋をご用意しておりましたのに……雄斗さまったら、自室に連れ込んで。よっぽど傍に置いておきたかったのですわね」
言い終えると、千代は生暖かい目で雄斗を見つめた。
「困った人を見過ごせない雄斗さまは、千代の自慢でございます。ふふっ」
千代が含み笑いをすれば、荘一郎も肩を震わせながら在らぬ方向に視線を泳がせる。二人は、事情を全部知った上で、雄斗をからかっただけだった。
しかし、やり過ぎたのであろう。突如、ガタンという音が響き、部屋の空気が一変した。雄斗が、怒りに任せて席を立ったのだ。
「……あら」
「……あっ」
「……あの、どうしたんですか?」
雄斗以外の三人が、同時に口を開いた。雄斗は千代、荘一郎、瑠華の順に睨みつけるが、瑠華のきょとんとした表情に、今にも出そうな怒声が引っ込んだ。
(耐えろ、耐えるんだ俺……!ここでキレたら、あまりに子供すぎるっ)
幼少の頃から、雄斗は荘一郎と千代の世話になっている。だから二人が、未だ自分を子供扱いするのは致し方無い。実際、そういうところに甘えている部分はある。
しかし、瑠華は違う。昨日出会った瑠華に、雄斗は大人げない自分を見せたくない。頼れる大人でありたいのだ。
そんな理由から、なんとか怒りを静めた雄斗は、朝日にも負けない爽やかな笑みを浮かべる。
「ははっ、まったく千代さんも人が悪いな」
前髪をかき上げて、肩をすくめる雄斗の目は、穏やかとは言い難い。
「屋敷内だから笑って許せるが、誰が聞いているかわからない屋外だったら、店の信用問題になりかねないぞ。これからは気を付けてくれ。いいな?」
個人的な苛立ちを、経営者という立場に置き換えた。これが雄斗の限界である。
「え、ええ。わかりましたわ」
頷く千代だが、その表情は物言いたげだ。
雄斗より大人の千代が、場所を選ばずからかうことなど有り得ない。それに雄斗は、無理して鷹揚な態度を取っているが、その目はちっとも笑っていない。
バレバレだぞと、千代と荘一郎から無言の突っ込みが入るが、雄斗はそれを無視して、瑠華のために椅子を引き手招きをした。
「瑠華、おいで。千代さんが作る朝食は旨いぞ」
「あ……は、はい!」
不穏な空気に吞まれかけた瑠華だが、空腹が勝ったのか小走りで席に着く。
「ほら、箸。あと、茶は熱いから気をつけろ」
瑠華が席に着いた途端、甲斐甲斐しく世話を焼きはじめる雄斗を見て、荘一郎と千代は目を丸くした。
「……おや」
「……まぁ、ふふっ」
まるで孫の成長を喜ぶように、千代と荘一郎が笑みを浮かべて微笑み合ったかと思えば、意味ありげに肘を突き合う。
そんな二人を黙らせるほど、自分が大人ではないことをわかっている雄斗は、黙々と箸を動かす瑠華に意識を向け続けた。
気持ちの良い食べっぷりを見せてくれた瑠華は、今度は事務所に行きたいと主張した。
正直、行ってどうする?やることなんかないだろ、と雄斗は思ったけれど、瑠華の意思は固く、スタスタと玄関に向かってしまう。
「おい、待て!」
瑠華の腕を掴んで引き留めた雄斗は、思い留まらせようと早口でまくし立てる。さすがにこの主張を受け入れてあげられるほど、雄斗は大人ではない。
「お前なぁ、廓から逃げたこと忘れたのか?昨日の今日だぞ?まだ、お前のことを探している連中がいるってのに、外に出たいだなんて……捕まりに行くようなもんだぞ。しばらくは、大人しくここで待っとけ。いいな?」
「嫌です」
「おい……!」
迷うことなく首を横に振る瑠華に、雄斗は歯ぎしりする。危機感がまったくないし、こっちの心配にも気づいてくれないなんて、とんだ鈍感娘だ。
「私、一刻も早く、探さないといけないんです」
雄斗に掴まれた腕をほどきながら、そう言う瑠華の表情は焦っている。
我が身の危険より、優先しようとする相手が誰なのかを、雄斗は知っている。知っていても、口に出せないもどかしさに、雄斗は苛立ちを隠せない。
「お前が探したところで、見つかるわけないだろ。俺が代わりに探してやるから、とにかく今日はここにいろ」
「いいえ、私が探します」
「無理だって、言ってんだろ!」
「雄斗さんこそ、どうして無理って決めつけるのですか?」
瑠華のこの質問に、雄斗はうっと言葉が詰まる。見つけられない理由を、伝えるわけにはいかない。
「……お、お前が、横浜に詳しくないからだ。迷子になるのが目に見えているのに、行かせられるか」
なんとか理由を捻りだしたけれど、当然瑠華は納得してくれない。
「詳しくないなら、詳しくなります。そのためにも事務所に連れて行ってください。あの……お願いします」
雄斗の上着の裾を握って、上目遣いをする瑠華は憎らしいほど可愛い。
(なんなんだよ、こいつ……!)
顔が良く、家柄も申し分ない雄斗は、これまで女性に苦労したことがなかった。それどころか、寄ってくる女性をあしらうのに苦労した贅沢な身分である。
それなのに、瑠華は無自覚なのか計算なのかわからないが、いともたやすく雄斗を翻弄している。
コメント
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ああ、もう読んじゃいましたよ!いや〜千代さんの「百年早いんですわ!」からの流れ、めちゃくちゃ好きです。あれで一気に空気が変わって、でも実は全部お見通しでからかってたってのが、もう雄斗さんかわいそうだけど面白くて。笑っちゃいました。 それにしても瑠華の「嫌です」の一言には痺れましたね。雄斗が言葉にできない理由があるのに、そんなの関係ないってぐいぐい進む感じが。ただの助けられるだけの子じゃないんだなって思わせる一歩でした。上目遣いで「お願いします」は反則だろ…って雄斗の気持ちが痛いほどわかる(笑)。続き、どうなっちゃうんでしょうね、楽しみです!