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第四章 黄金の太陽
第六話 太陽への祈り
帝国へ滞在することが決まって、数日が過ぎた。
最初こそ緊張していた商団員達も、今では少しずつ城下の空気に慣れ始めている。
それぞれ思い思いに仕事をしたり、市場の散策をしたり。
フィルディアとはまた違う、大国の空気を味わっていた
ソレイユ帝国。
大陸最大国家。
その中心は、想像以上に“光”の国だった。
朝になれば、白い石造りの街へ陽光が降り注ぐ。
噴水広場では子ども達が走り回り、露店では焼き菓子や果実酒の香りが漂う。
大道では楽師が演奏し、魔道具職人達が客を呼び込む声が響く。
そしてどこへ行っても、太陽神の紋章が目に入った。
壁画、旗、ステンドグラス。
まるで、この国そのものが太陽に守られているようだった。
「……ほんま眩しい国やなぁ」
ラスタは帝都の広場の噴水へ腰掛けながら、ぼんやり空を見上げた。
雲ひとつない青空。
雪国育ちのクロードからすれば、かなり暑いらしい。
実際、少し離れた場所で、クロードが露骨に顔をしかめていた。
「……暑い」
「もう夏やからなぁ」
ラスタが笑う。
クロードは不機嫌そうに目を細めた。
「この国の気温は異常だ」
「フィルディア基準で語るからや」
その時だった。
「ははっ、確かにそれはあるな」
後ろから明るい声が飛んできた。
振り返る。
金髪の青年、アクセルだった。
今日は皇族の正装ではなく、動きやすそうな白い軽装を身に着けている。
その姿は、城で見る時よりもずっと親しみやすかった。
「うわ、アッくんや」
「馴れ馴れしいぞ」
クロードが小声でたしなめる。
アクセルは苦笑した。
「もういいだろ、それは」
最近、こういうやり取りも増えてきた。
最初はかなり距離があったクロードも、今では完全には止めなくなっている。
「城下はどうだ?」
アクセルが二人の隣へ立つ。
ラスタは噴水の水面を眺めながら笑った。
「面白いわ。人も多いし、色んなもんあるし。楽器屋だけでも一日潰せる」
「お前本当に音楽好きなんだな」
クロードが呆れたように言う。
「好きやで?」
ラスタの瞳が輝く。
「音って、その土地の空気出るやん。
帝国は明るい音が多い。フィルディアは静かで綺麗。西の砂漠の方は、もっと自由な感じするし」
アクセルは興味深そうに目を細めた。
「面白い見方だな」
「旅してると自然と分かるんよ」
その時だった。
広場の奥で歓声が上がる。
見ると、教会の聖職者達が列を作って歩いていた。
白い法衣。
黄金の刺繍。
その中央では、巨大な太陽神像が運ばれている。
周囲の人々は立ち止まり、祈りを捧げていた。
「今日、なんかあるん?」
ラスタが尋ねる。
アクセルが答えた。
「太陽神への感謝祭だ」
「帝国では定期的に行われている」
「へぇ……」
ラスタはぼんやりその様子を眺めた。
熱狂。
信仰。
祈り。
人々の表情は真剣だった。
平和な光景のはずなのに。
なぜだろう。
胸の奥に、小さな引っ掛かりが残る。
「……どうした?」
アクセルが気付いたように尋ねる。
ラスタは我に返った。
「いや」
少しだけ首を傾げる。
「何か変やなって思っただけや」
「変?」
クロードが眉をひそめる。
ラスタは困ったように笑った。
「上手く言えへん。気のせいやと思う」
そう言ってもう一度、太陽神像へ視線を向ける。
陽光を浴びて輝く神像。
祈る人々。
笑顔の家族。
どこからどう見ても、平和そのものだった。
なのに、 胸の奥だけが、ほんの少しざわついていた。
理由は分からない。
分からないまま、感謝祭の列はゆっくりと広場を進んでいく。
雲ひとつない青空の下。
太陽神像は静かに帝都を見下ろしていた。
まるで、何もかも見透かしているかのように。
コメント
1件
わあ、35話読了です! ラスタが「何か変やな」って違和感抱くところ、すごく気になりました。あれだけ賑やかで光に満ちた街なのに、胸の奥がざわつくなんて……何か大きな伏線を感じます。アクセルとの距離が縮まってきて「アッくん」呼びが自然に出てるのも微笑ましかったです。次が気になります!
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