【なんか調子悪そうだけど、大丈夫か?】
気づいていたらしく、さすが……と思ったけれど、仕事に関わってくるので下手な返事はしたくない。
婚約者として心配させてしまったら、尊さんは絶対大事をとって私を休ませたがるに決まっている。
熱だって一日で下がるかもしれないし、生理だって軽く済むかもしれない。
だから変に彼を心配させたくなかった。
【大丈夫です。今日は帰りますね】
他に言いようがあったかもしれないけど、体調が悪くて最適な答えを考える余裕がない。
そっけないかもしれない返事をしたあと、私は帰路に着いた。
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家に着く頃には咳も出始め、おまけに嫌な予感が当たってお腹も痛くなってきた。
最悪なコンビネーションでノックアウトされた私は、ふらつきながら自宅に入り、靴を脱ぎ散らかし、コートとマフラーを放り投げて引き出しに手を突っ込む。
「うー……」
ガチャガチャと引き出しを引っかき回したあと、ようやく体温計を見つけ、腋に挟んだあと冷たい水を飲む。
「……寒い……」
とりあえずメイクを落とさないと、と思った私は、クレンジングミルクをコットンにとり、汚れが消えるまで顔を拭っていく。
いつもはちゃんとオイルクレンジングで落としているけれど、顔を濡らすのが面倒な時はこれを使っている。
途中で体温計がピピピッとなり、確認すれば三十八度七分だ。
「うわぁ……」
とりあえず明日の朝まで様子を見てから、休むかどうか判断しよう。
いざという時のオールインワンジェルで保湿し、歯を磨いてから、トイレに入って大量出血しつつあるのを確認し、パジャマに着替えてベッドに潜り込む。
「ううう……」
最悪だ。こんなコンボ要らない。
(昭人の祟りだったりして……)
他責にしちゃいたいぐらい、体調不良でメンタルも何もかもやられてる。
私はズキズキと痛む頭を抱え、どんどん酷くなってくる寒気に震えながら、少しでも体を休ませようと努力した。
気がついたら少し寝ていたらしく、ピンポーンとチャイム音が聞こえた私はハッと目を覚ます。
強張った体を叱咤して起き上がると、インターフォンのモニターに尊さんが映っていた。
「どうぞ」
かすれた声で応答してロックを解除すると、彼は急ぎ足で中に入ってきた。
(心配させちゃった。申し訳ない)
先に玄関ドアの鍵を開けておき、私はノロノロと牛の歩みでベッドに戻る。
ほどなくして部屋のチャイムが鳴り、私が応えないのに痺れを切らした尊さんがドアノブを回した。
「朱里? 入るぞ」
尊さんの声がし、パッと電気がついて室内が明るくなる。
彼は脱ぎ散らかしたコート類やベッドに伏せている私を見て、すべてを察して溜め息をついた。
そして鞄からマスクを出してつけたあと、手を洗ってから私の額に手を当ててくる。
「あっちぃな。熱は何度?」
「さっき……、八度七分」
返事を聞いたあと、尊さんは少し考えたあと私を抱き起こした。
「もう少し頑張れるか? 病院行こう。風邪かインフルか診断してもらって、まず薬をもらったほうがいい」
「ん……」
私は返事をしつつ、ドロッと経血が大量に流れ出たのを感じて表情を歪める。
「どうした? しんどいか?」
尋ねられ、私は首を横に振る。
尊さんは私に靴下を履かせたあとコートを着せ、マフラーを首に掛けてから立たせた。
その瞬間、物凄い腹痛が襲ってきて、私は「うっ」と呻くと思わずしゃがみ込んでしまった。
「ううう……」
お腹の痛みに顔を歪めていると、尊さんが心配そうに私を覗き込んでくる。
「どうした? 腹が痛いのか?」
……言いづらい。
黙っていると、「朱里」と少し強めに名前を呼ばれる。
コメント
2件
お腹痛い時、なんもできないよねー:( ;´꒳`;) アタシならクレンジングも出来ないさッ︎😖՞ ՞
熱があるのにクレンジングしてオールインワンまでやる朱里ちゃんにただただ脱帽です。 朱里ちゃん、正直に言おう。恥ずかしいんだろうけど、尊さんは言ってくれてありがとうってなると思うよ。