ある部屋のドアを開ける
「お疲れ様です」
「今日の司令は、1件だ」
豪華な造りの部屋に、幕がある
その奥に、ボスはいる
ボスはここで暮らしている
だから、この部屋にはベッドや机、もう1つのドアがあるが、そこは風呂場や洗濯機があるらしい
そんなことよりも、俺は1件という言葉に驚いていた
「1件……?」
いつもは10件ぐらいあるのに
「これは、お前を試しているんだ」
試している?
俺は一体、
何を試されているんだ?
「宮舘涼太を殺せ」
「っえ……」
それは、
「……できないと言ったら?」
「お前の首を切るしかないな」
「もう一度言う」
「これは、お前の仮面を剥ぐための試練だ」
仮面を、剥ぐ……?
「1週間」
「その間に殺せ」
そう言って、一言も喋らなくなった
久しぶりに、仕事のない夜だった
部屋から出て、少し歩くと琥珀に出会う
「お、仕事かぁ?」
「……いや、今日はもう家に帰る」
「は……?」
「どういうことだよそれ」
「俺は、1週間の間に恋人を殺さなければならない」
「恋人……」
それだけ言って琥珀から目を逸らして歩き出す
玄関までの道に何度も後輩に話しかけられたけど適当にかわす
最後、番人をしていた神楽と威風に声をかける
「神楽、威風」
「翠玉様!!」
威風はキラキラと目を輝かせる
こういうとこ、ほんとに可愛いんだけどなぁ
「お疲れ様。さっきの動き、良かったよ」
「ありがとうございます!!」
威風は元気に返事をするけど神楽は頭を下げるだけ
……まぁ、俺が悪いんだからな
しょうがない
「じゃあ、頑張って」
「はい!!」
最後まで、神楽は話さなかった
……昔は、こんな子じゃなかったんだけどな
これも全部、俺が悪い
正しいと思ってやったことが人に見えない傷をつけた
深く、深く傷つけて、性格をも変えた
それは、なんて残酷で、
なんて、むごいことなのだろう
神楽は、俺が20歳の頃やった仕事の犠牲者だ
俺は、この家族全員を殺せと言われた
家に乗り込むと、みんな抵抗した
この家族は、ただ、平穏に、楽しく暮らしていただけなのだ
それなのに、急に殺し屋が来て、”あなたたちを殺します”なんて
なぜ殺されるのかも分かっていないのに
俺も、今まで偉い人ばかり殺していたから、家庭を襲うなんて、初めてで、どうしていいか分からなかった
けれど、一緒に来ていた琥珀が、全員を縛ると言った
本当は2人でさっさと殺そうという予定だったけど、抵抗が激しかった
俺たちはそれなりの訓練を受けているのでそんな攻撃は意味の無いものだった
すぐに家族4人を縛って固まらせた
家族は、父、母、姉、弟だった
弟はまだ小学生にもなっていなかった
姉は、当時11歳
この姉が、神楽だ
神楽は、家族を励まし続けた
“大丈夫だ”と”私たちは絶対助かる”
何も分かっていない弟にも、優しく声をかけていた
家族思いの、優しい子で、何より
笑顔が素敵だった
家族が攻撃してきた時、神楽の動きだけ、早かった
父と母の攻撃はものともしなかった俺らだけど、神楽の攻撃だけは、少し手を煩わせた
1回、俺は外に出てボスに相談した
姉を、組織に入れてみてはどうかと
うちの組織は、殺されるやつの中で見込みがある者は殺さず、組織に入れることにしていた
神楽も、入れたらどうかと相談した
琥珀もそう言っていたと伝えると、
“お前らの目は確かだ”
そう言って神楽を入れることを許可した
部屋に戻ると、神楽は笑顔で”大丈夫”と言っていた
弟には、”すぐ終わるから終わったら遊びに行こうね”と言っていた
どこまでも、明るいやつだ
こんな人は、初めて出会った
琥珀に神楽は殺さず組織に入れることを伝える
俺らは名乗った
「俺は、翠玉と申します」
「俺は、琥珀です」
「「これからの御無礼、お許しください」」
2人で合わせてお辞儀をする
そして、
俺は母に、琥珀は父に飛びかかった
真っ赤な血が飛び散る
それは、神楽にも、弟にもかかった
「お父さん!!お母さん!!」
神楽は叫ぶ
弟は泣く
その泣く弟にも、刃を入れる
声は止み、血が飛び散る
刃を抜けば血がドロドロと溢れる
神楽を見れば、口を開けて、呆然としていた
「行くぞ」
琥珀が神楽の腕を持つと、神楽はそれを振り払う
「やめて!!」
「私も、殺して」
その瞳には、強い決意があった
「ダメだ」
「お前もこれから殺し屋になる」
「嫌だ!!!」
「あなた達みたいな人になりたくない!!」
殺し屋を嫌い、憎み、疎む
家族を目の前で殺された人としては正しい反応だった
「お前は、殺せない」
「なんで!?私以外の家族はみんな殺したじゃない!!」
「お前は見込みがあるから」
「見込み…?なにそれ、殺し屋になれってことでしょ!?できるわけないじゃない!!」
「できるから言ってんだよ!!」
琥珀は、口論になるとすぐに手が出る
俺は琥珀の肩を掴む
「この世に、死んだ方がいい人間はいるけど、死んでいい人間はいない」
「どんな悪事を働こうと、尊い命には変わらない」
「だったら…!!なんで殺し屋なんかやってんのよ!!」
「1度、手を染めたからだよ」
「水では落ちない絵の具に手を浸して、もう、水でもお湯でも落ちなくて、」
「どんどん、その絵の具に沈んで行ってるんだよ」
「…私も、そうなれと?」
「俺らは政府非公認組織だ」
「バレて裁判にでもなったらたまったもんじゃない」
「だから、殺すか、組織に入れるかなんだよ」
「私を殺せって何回言ったら分かるの!?」
そう言って神楽は琥珀に飛びかかる
琥珀の手に持っていた短剣を狙う
が、琥珀はパッと避ける
「さっさと着いてこいよ」
そう言って、神楽を気絶させた
「琥珀ッ!!」
「いいだろ、別に」
そう言って神楽を担いで歩き出した
それから、9年経った
神楽は人が変わったようだった
殺すのに抵抗が無いし、何より、笑顔を見せなくなった
喋らないし、笑わない
それは、彼女の中に深い傷を残したからだった
ごめん、と心の中で謝る
ごめんで済むものじゃない
それは十分分かっている
けれど、これ以上の謝罪が出来ないのだ
俺は神楽と威風に背を向け、外に出た
『はいオッケー!!』
声がかかる
同時に床に座り込む
「あ〜〜〜」
緊張した
「おつかれぃ!!」
佐久間が駆け寄ってくる
「疲れてんねぇ」
ふっかも来る
佐久間が肩を揉んでくれる
「ありがとう佐久間」
「いえいえー」
てか人刺すって怖い
こんな役初めてだから余計緊張する
セリフとか噛まないようにしないとな
コメント
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ん?なんか、ドラマ見たいな感じだね、、え?ドラマなの?笑
・・・えっ!もしかしてこの物語ってドラマだったってこと!? 主様の物語の作り方が天才すぎます✨️ 続き楽しみにしてます!