テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
その夜───。
話を終えた後も、私の脳裏にはまだ聞きたいことが山ほど渦巻いていた。
特に、あの忌まわしい紙切れについて。
湿り気を帯びた空気、古びた建材が放つ独特の拒絶感。
もっとこの家の奥深く、コロナリータの目が届かない闇を探れば、父の足跡が見つかるかもしれない。
もう少しこの家の中を調べたいけれど……
アルベルトに預けたあの断片的な情報だけでは、パズルのピースがあまりに足りない。
どうしたものかしら。
しかし、焦燥に駆られて窓の方にチラリと目をやると、いつの間にか夜の帳は重苦しい雨雲に塗り潰されていた。
窓を叩きつける雨音は、次第に激しさを増し、ガラスを抉るような鋭い音を立てている。
スラムの汚濁した空気を洗い流すには、あまりに暴力的な雨だった。
これは、すぐに止みそうもない。
「まぁ、雨が降ってきちゃいましたね」
コロナリータが、首を傾げて窓の外を見つめながら呟いた。
彼女は、まるで台本があるかのような申し訳なさそうな顔を作り、私たちを交互に見る。
「外も暗くなってきましたし…急に降り出しましたから、道も危ないです。良ければ今日は泊まっていってください!隣の部屋が空いていますから」
ありがたい申し出……と額面通りに受け取れたら、どれほど楽だったか。
だが、この絶妙すぎるタイミング、そして彼女の淀みのない「親切」。
「え、本当ですか!? 助かります! この雨じゃ、帰り道にスラムの溝にハマっちゃいそうですもん!」
能天気に喜ぶダイキリの横で、アルベルトは相変わらず、石像のような不機嫌さを隠そうともしていなかった。
私はというと……内心、猛烈な葛藤の中にいた。
確かに、この激しい雨の中、土地鑑のないスラムを強行突破するのは自殺行為に近い。
かといって、正体の知れない、あの「不自然な青い瞳」を持つ女と一夜を共にするというのは……警戒心を捨てろと言う方が無理な話よ。
あの紙切れの内容が真実なら、この家自体が巨大な捕食者の口腔である可能性すらある。
逡巡する私の心中を見透かしているのか、それとも単に何も考えていないのか。
コロナリータは、相変わらずあの気持ち悪いほど完璧な笑顔を崩さずに続けた。
「遠慮しないでください! 好きに使ってくれてかまいませんから。お兄ちゃんと、そのお友達なんですもの」
……この無邪気を装った笑顔。