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ウチの病院には二十代・三十代・四十代という、各年代の看護師が勤めている。その職員の中で、太郎のことにいち早く反応したのが、一番若い看護師のコだった。
午前中の診察になんとか一区切りがついた時間帯、お茶を持ってきてくれた二十代の看護師。
「周防先生、今日も混みましたね、どうぞ」
「そうだね。いつもありがと」
労いの言葉に笑顔で返し、淹れてくれた温かいお茶をすする。その、ほっとした瞬間だった。
「太郎くん、カッコイイですよね」
突然告げられた若い看護師のセリフで、飲み込んだお茶を思いっきり吹き出しそうになる。
(――もしかしてなんか、薬でも盛られたのか?)
「私が独身だったら、太郎くんにアタックしちゃうのになって」
「……ねぇそんなにアイツ、カッコイイかな?」
「同性だから、わからないんですよ。太郎くんは充分に、カッコよさを醸してますって。若くて、爽やかな感じがいいなぁ」
うっとりする若い看護師の表情を、呆れながら見つめるしかない。カッコよさが醸されてるって、どこからだろうか? もしかすると、カビやなにかの危ない菌が、ふわふわって醸されているのかも?
「でもさ、ももちんと比べたら――」
「ダメダメッ! なに言ってるんですか! 桃瀬さんは別格なんです。太郎くんには太郎くんなりの良さが、彼の中にあるんです!」
太郎の良さって、なんだろう?
「俺、そこのところがサッパリわからないんだけど」
桃瀬と比べちゃいけないのはわかっていても、比べずにいられないのは、やはり恋心ゆえ。
「太郎くん、若いのにしっかりしていますよ。私たちの受け答えにも、ハキハキと対応していますし。素直にいいコだなって思います」
持っていたお盆を胸の前にぎゅっと抱きしめ、夢見る乙女みたいな顔して、若い看護師はわざわざ教えてくれた。
「周防先生、患者さんが来たら声をかけるんで、それまでゆっくりしていてくださいね」
「わかった、ゆっくりさせてもらうわ……」
ハテナ顔の俺を残し、ウキウキしながら診察室から出て行った二十代の看護師。これで終わるかと思いきや、次の日に三十代の看護師から、太郎のことを聞くことになる。
「いいコですね、太郎くん」
寝室に鍵をつけていないため、毎日奇襲攻撃を受け、寝不足気味の俺に、追い討ちをかけるような言葉がかけられた。
「……どこが?」
「絶妙なタイミングで、私たちの仕事を手伝ってくれるんですよ。力仕事とか高いところにある物を、素早く取ってくれたり。それがさりげなくて、気が利いているんです」
あの俺、言ったよね。一応アイツ病人で、安静にしていなきゃダメって。なのに太郎のヤツは、ちょこまかと地味に動いているんだな。
「自分がもう少し若くて結婚していなかったら、思いきってアタックしちゃうのに」
(でたよ、太郎と付き合いたい宣言。昨日からいったい、どうなってるんだ?)
「そんなに太郎って、魅力的かな?」
「そうですね。ニッコリ笑った顔がなんとも言えないです」
思い出し笑いをし、細い肩を竦めながら診察室を出て行った三十代の看護師。
何度も太郎の笑顔を見ているけれど、俺としては正直、サルがニンマリと笑った顔にしか見えない。
「周防先生、患者さんいないから、後片付けを進めちゃっていいですか?」
頭を抱えているトコに、四十代の看護師の村上さんがやって来た。
「そうなんだ。さっさと片付けていいよ」
「毎日毎日、太郎ちゃんの面倒を見て、結構疲れているんでしょ?」
俺の様子に、すべてを悟ってくれたのかな。もしかして、すっごく老け込んでるとか? 思わず、スリスリと頬を触ってしまった。
「はぁ、まあ。いろいろアイツは、やらかしてくれるので」
「私たちには、本当に優しいですけどね。きっと、周防先生に甘えているのかも」
(アイツが俺に、甘えてるって――?)
「甘えられても俺としては、すっごく困るんだけど……」
「ふふふ。でも年の離れた弟ができたみたいで、手のかかる分だけ、かわいいでしょ? 以前に比べると周防先生、随分と明るくなりましたよ」
――俺が明るくなっただと!?
「太郎ちゃんが来てから、病院の中も明るくなって、本当にいい雰囲気なんですよ。診察室から今度、待合室に顔を出せばわかりますからね」
おいおい、病院の中でいったい、なにが起きているというんだ。
診察室に引き篭もって、患者を診ているだけの自分。看護師たちが楽しそうに仕事をしているのは、どことなく伝わっていたけれど、まさか患者の子どもまで!?
(よし、これはしっかり、確かめなければならないな)