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ビートンは、すました顔でお茶のセッティングをしている。
ふっと、沸き起こったペパーミントの爽やかな香りがレジーナの鼻腔をくすぐった。
出されたお茶を一口含み、レジーナは、ほっと小さく息をつく。
やはり、二日酔いか、と、ビートンは思いつつ、弱りきっているミドルトン卿へ一言。
「では、パーティーの違約金は、いかがいたしましょうか?」
「あ?」
不思議そうに卿は、ビートンを見るが、何か気づいたかのようで、ソファーから立ち上がりそうになった。
「ビートン!そうだ!なんで、客が取れないからと、コリンズが、あんな、馬鹿げた変装までして、架空のパーティーを開く?!」
ビートンの手前と言う事と、忌まわしき事を思い出したミドルトン卿は、訛りのない紳士にもどっていた。
続いて、あっ!と、レジーナが、叫んだ。
「そうよ!結局、彼らは何がしたかったの!」
あのままパーティーを続行していれば、ここを会場として借り受けた、さらに、料理などもろもろの料金が発生する。
賃貸料をこちらへ支払うメリットは、コリンズ、ディブにあるのだろうか?
もしや、後から、レジーナへ、なんやかんやと、たかり、自分達が支払った金を回収するつもりだったのだろうか?
「そういえば、違約金の話が出たな」
ミドルトン卿が言った。
あの後、卿はディブへ詰め寄った。もちろん、言い訳づくめで、レジーナだけでは、心もとなく云々と、自分達の行いを正当化した。
そして、コリンズ含め知人の紳士達と仮装パーティーと洒落こんだのだと、実に苦しい言い訳をしたそうだ。
ビートンがつけていた、二重帳簿ならぬ、覚書は、文字通りビートンの仕業で、皆の給料をくすねていた証拠とディブもコリンズも言い切る始末。
そして、せっかくの仮装パーティーがレジーナ達、屋敷の面々によって壊された。借り入れにおける違約金を頂かなければと、なにやら、小難しい契約条項をコリンズが並べ立てミドルトン卿へせまった。
「なんですって?こちら側が、ディブ達へ、払うってこと?!それをお兄様、黙って聞いてらしたの!!」
「いや、そこをディブがコリンズを説得してくれてね、ひとまず、据え置きということに……」
「おかしいでしょ!!完全にディブとコリンズがグルになってるし、お兄様、あなた舐められてるわよ!!」
事の次第がどうのより、妹の剣幕にミドルトン卿は小さくなった。そして、自分ばかり責めないでくれと実に女々しい言葉を吐いた。
「ですから!私がうるさ方を説得します!私が、ごねるのですから、お兄様はなんの罪はなし、一生、いいなり、お一人でお暮らしくださいなっ!!」
ああ、馬鹿らしいと、呟くレジーナは、すっかり頭に血が上っている。
「……ビートン、この場合違約金はどちらが……」
ミドルトン卿が、恐る恐る、ビートンへ問うた。
「何言ってるの!あちら側でしょう!」
すぐに、レジーナが口を出す。
「はあ、まあ、そうでしょうが、実際の所、おかしな連中がやって来た、だけのこと。それを、ミドルトン卿が追い返してくださりました」
「ビートン、そんな、お世辞はいいから!あなた、何が言いたいの!」
はあ、と、ビートンは、怒れるレジーナへ向け、わざとらしく、少し、困った顔を見せつけて、よろしいですか?と、語り始める。
「つまり、違約金はどちら側も、請求できないってことなの?」
「と、いうことですが、とも、言い切れないのが、レミー・プルフェィン卿の存在」
今まで忘れていた名前をビートンから聞き、レジーナは再び、あっ!と、叫んだ。
「契約はプルフェィン卿と。それは、コリンズの変装だった。けれど、コリンズがプルフェィン卿という証拠はないわ。そして、プルフェィン卿は、この世に存在しない」
「そうです、レジーナお嬢様。こちらは、事実上、誰にも請求できないのです」
「ああ、そういうことなら、私が、あの場に乱入したことにされても、こちらが払う義務はない。契約者は、存在しないのだから」
レジーナとビートンのやりとりに、ミドルトン卿は急に意気揚々となった。
自分が、言いくるめられたのではないと、妹へ証明できるとばかりに。
「……ですが、お忘れですか?私どもは、コリンズが属する不動産業者と契約しています。プルフェィン卿と、契約しているのは、かいつまんで言えば、コリンズ、と、言うことになるのです」
やだ!!と、レジーナが、悲鳴を上げつつ立ち上がる。
「結局、コリンズへ、手数料を払わなければならないじゃない!それに、もしも、コリンズが、プルフェィン卿がごねているなり、難癖をつけてくれば、……それが、通ってしまうわ!」
「左様です。コリンズが、架空の人物であろうがプルフェィン卿と契約している以上、コリンズの発言は正当化されてしまうでしょう」
一気に、ミドルトン卿もレジーナも落ち込んだ。
どう転んでもレジーナ側が、損をする。
部屋には、清涼感溢れるペパーミントの香りが漂い、場違いな空気を作っていた。
すると、
「おや、こんなところに?」
ビートンが、そらぞらしい声を上げ、何故か、あの、二重帳簿を差し出した。
開かれたページには、記載したビートンではなく、コリンズのサインがあった。
「な、何に!この、ピーター・コリンズって!何故、帳簿にコリンズのサインが?!」
「あー、何かの時のために、ちょっと、サインをお願いしたところ、あっさり引き受けてくださいまして」
どうやって、ビートンがコリンズに、サインさせたのか謎は残るが、これでは、コリンズが帳簿をチェックしていた、はたまた、作成していたように映る。
しかも、中見は、二重帳簿。ミドルトン卿からの送金たる、使用人達の給与使い込み。運悪く、ディブのたかりの依頼も覚え書きとして、記されているのだから、ディブとコリンズが計画して、屋敷の資金を流用していた。と、言われても仕方ない状態に様変わりしている。
「ああ、コリンズのサインひとつで……!」
レジーナは、少し潤んだ瞳で、ビートンを見た。