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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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ビートンは、すました顔でお茶のセッティングをしている。


ふっと、沸き起こったペパーミントの爽やかな香りがレジーナの鼻腔をくすぐった。


出されたお茶を一口含み、レジーナは、ほっと小さく息をつく。


やはり、二日酔いか、と、ビートンは思いつつ、弱りきっているミドルトン卿へ一言。


「では、パーティーの違約金は、いかがいたしましょうか?」


「あ?」


不思議そうに卿は、ビートンを見るが、何か気づいたかのようで、ソファーから立ち上がりそうになった。


「ビートン!そうだ!なんで、客が取れないからと、コリンズが、あんな、馬鹿げた変装までして、架空のパーティーを開く?!」


ビートンの手前と言う事と、忌まわしき事を思い出したミドルトン卿は、訛りのない紳士にもどっていた。


続いて、あっ!と、レジーナが、叫んだ。


「そうよ!結局、彼らは何がしたかったの!」


あのままパーティーを続行していれば、ここを会場として借り受けた、さらに、料理などもろもろの料金が発生する。


賃貸料をこちらへ支払うメリットは、コリンズ、ディブにあるのだろうか?


もしや、後から、レジーナへ、なんやかんやと、たかり、自分達が支払った金を回収するつもりだったのだろうか?


「そういえば、違約金の話が出たな」


ミドルトン卿が言った。


あの後、卿はディブへ詰め寄った。もちろん、言い訳づくめで、レジーナだけでは、心もとなく云々と、自分達の行いを正当化した。


そして、コリンズ含め知人の紳士達と仮装パーティーと洒落こんだのだと、実に苦しい言い訳をしたそうだ。


ビートンがつけていた、二重帳簿ならぬ、覚書は、文字通りビートンの仕業で、皆の給料をくすねていた証拠とディブもコリンズも言い切る始末。


そして、せっかくの仮装パーティーがレジーナ達、屋敷の面々によって壊された。借り入れにおける違約金を頂かなければと、なにやら、小難しい契約条項をコリンズが並べ立てミドルトン卿へせまった。


「なんですって?こちら側が、ディブ達へ、払うってこと?!それをお兄様、黙って聞いてらしたの!!」


「いや、そこをディブがコリンズを説得してくれてね、ひとまず、据え置きということに……」


「おかしいでしょ!!完全にディブとコリンズがグルになってるし、お兄様、あなた舐められてるわよ!!」


事の次第がどうのより、妹の剣幕にミドルトン卿は小さくなった。そして、自分ばかり責めないでくれと実に女々しい言葉を吐いた。


「ですから!私がうるさ方を説得します!私が、ごねるのですから、お兄様はなんの罪はなし、一生、いいなり、お一人でお暮らしくださいなっ!!」


ああ、馬鹿らしいと、呟くレジーナは、すっかり頭に血が上っている。


「……ビートン、この場合違約金はどちらが……」


ミドルトン卿が、恐る恐る、ビートンへ問うた。


「何言ってるの!あちら側でしょう!」


すぐに、レジーナが口を出す。


「はあ、まあ、そうでしょうが、実際の所、おかしな連中がやって来た、だけのこと。それを、ミドルトン卿が追い返してくださりました」


「ビートン、そんな、お世辞はいいから!あなた、何が言いたいの!」


はあ、と、ビートンは、怒れるレジーナへ向け、わざとらしく、少し、困った顔を見せつけて、よろしいですか?と、語り始める。


「つまり、違約金はどちら側も、請求できないってことなの?」


「と、いうことですが、とも、言い切れないのが、レミー・プルフェィン卿の存在」


今まで忘れていた名前をビートンから聞き、レジーナは再び、あっ!と、叫んだ。


「契約はプルフェィン卿と。それは、コリンズの変装だった。けれど、コリンズがプルフェィン卿という証拠はないわ。そして、プルフェィン卿は、この世に存在しない」


「そうです、レジーナお嬢様。こちらは、事実上、誰にも請求できないのです」


「ああ、そういうことなら、私が、あの場に乱入したことにされても、こちらが払う義務はない。契約者は、存在しないのだから」


レジーナとビートンのやりとりに、ミドルトン卿は急に意気揚々となった。


自分が、言いくるめられたのではないと、妹へ証明できるとばかりに。


「……ですが、お忘れですか?私どもは、コリンズが属する不動産業者と契約しています。プルフェィン卿と、契約しているのは、かいつまんで言えば、コリンズ、と、言うことになるのです」


やだ!!と、レジーナが、悲鳴を上げつつ立ち上がる。


「結局、コリンズへ、手数料を払わなければならないじゃない!それに、もしも、コリンズが、プルフェィン卿がごねているなり、難癖をつけてくれば、……それが、通ってしまうわ!」


「左様です。コリンズが、架空の人物であろうがプルフェィン卿と契約している以上、コリンズの発言は正当化されてしまうでしょう」


一気に、ミドルトン卿もレジーナも落ち込んだ。


どう転んでもレジーナ側が、損をする。


部屋には、清涼感溢れるペパーミントの香りが漂い、場違いな空気を作っていた。


すると、


「おや、こんなところに?」


ビートンが、そらぞらしい声を上げ、何故か、あの、二重帳簿を差し出した。


開かれたページには、記載したビートンではなく、コリンズのサインがあった。


「な、何に!この、ピーター・コリンズって!何故、帳簿にコリンズのサインが?!」


「あー、何かの時のために、ちょっと、サインをお願いしたところ、あっさり引き受けてくださいまして」


どうやって、ビートンがコリンズに、サインさせたのか謎は残るが、これでは、コリンズが帳簿をチェックしていた、はたまた、作成していたように映る。


しかも、中見は、二重帳簿。ミドルトン卿からの送金たる、使用人達の給与使い込み。運悪く、ディブのたかりの依頼も覚え書きとして、記されているのだから、ディブとコリンズが計画して、屋敷の資金を流用していた。と、言われても仕方ない状態に様変わりしている。


「ああ、コリンズのサインひとつで……!」


レジーナは、少し潤んだ瞳で、ビートンを見た。

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