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藤澤涼架がバンドに入ってから、数日が経った。
スタジオに入る回数も増え、5人で集まることが当たり前になりつつあった。
涼架は、いつも同じだった。
誰に対しても柔らかくて、よく笑って、よく話す。
「それいいですね〜」
「それ好きです」
「元貴くんそれもう一回やってみてください〜」
ふわふわした声で、誰にでも同じように話しかける。
スタジオの空気も、少しずつ柔らかくなっていた。
綾香は普通に笑っているし、
高野もたまに涼架と話している。
元貴に至っては、もう完全に馴染んでいた。
「涼架それいいじゃん」
「でしょ〜」
そんな会話が自然に続く。
でも。
若井だけは、少し違った。
ギターを調整しながら、横目で涼架を見る。
涼架は今日も金髪で、
相変わらず少し変わった服を着ていて、
それでも誰よりも穏やかな顔をしていた。
(……なんなんだろうな)
若井は思う。
別に嫌いなわけじゃない。
むしろ、悪い人ではないのは分かる。
でも。
「若井くん〜これどう思います?」
突然話しかけられて、若井は少し肩を揺らした。
「え?」
涼架がキーボードの前で振り返っている。
「この音なんですけど」
若井は少し考えてから答えた。
「……まぁ、いいんじゃない」
短い返事。
涼架はそれでもにこっと笑った。
「ありがとうございます〜」
そのまままたキーボードに向かう。
若井はギターをいじりながら思う。
(優しいんだよな、あいつ)
誰にでも。
同じように。
怒ることもないし、
嫌な顔もしない。
でも。
(……ちょっと個性強すぎだろ)
金髪。
ネクタイ。
よく分からないTシャツ。
そしてあの、ふわふわした空気。
なんとなく。
若井は、少しだけ距離を取っていた。
嫌いとかじゃない。
ただ、
まだ、よく分からない。
そんな感じだった。
スタジオの端でギターを鳴らしながら、若井はちらっと涼架を見る。
涼架は元貴と何か話しながら、楽しそうに笑っていた。
その様子を見て、若井は小さく息をつく。
(……まぁ)
(そのうち分かるだろ)
そう思いながら、またギターを鳴らした。