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「へへっ、分かってるよ~!でも、それを言うならりひとさんもだよっ!」
純一の様子があまりにも純粋で可愛らしくて
「そうだね、お互い気をつけよっか」
俺は微笑みながら、彼の柔らかな髪を優しく撫でた。
それから朝食を幸せそうに平らげた純一を玄関で見送ると、時刻は朝の9時を過ぎていた。
自分の出勤時間を逆算し、俺も本格的に身支度を始めた。
仕立ての良いスーツのジャケットを羽織り、鏡の前でネクタイの結び目を完璧に整える。
車庫に向かい、愛車の助手席に革の鞄を放り込んでイグニッションキーを回すと
静かな住宅街にわずかに低い排気音が心地よく響いた。
今日も雲一つない、突き抜けるような青空のいい天気だ。
真っ青な空を見上げて小さくお腹から息を吐きながら、アクセルを踏み込む。
「……よし、今日も一日、頑張るか」
誰に聞かせるでもない独言のように呟き、俺は勤務先の病院へと車を滑らせた。
◆◇◆◇
午前10時
病院に出勤し、自身の相談室のデスクについた俺がまず最初に行うのは
当日の予約状況の確認と、クライエントたちのカルテの見直しだ。
一日の平均担当件数は、およそ6件程度。
これから一対一で対峙するクライエントたちの
千差万別に絡み合った心の傷やトラウマを事前に脳内で整理し
思考のスイッチを「優しい恋人」から「プロの臨床心理士」のそれへと完全に切り替えていく。
10時30分からは、午前分のカウンセリングセッションがスタートする。
セッションには一対一の濃密な個人面接もあれば、二名以上の複数人を対象とした集団カウンセリングもある。
特に集団の場合に、俺がアプローチの主軸として用いるのは『認知行動療法(CBT)』だ。
クライエント自身に、日常生活における物事の捉え方や考え方の「歪んだ癖」に自ら気づかせ
感情や行動のコントロールを段階的に目指していくその療法は
主に向き合ううつ病の再発防止において極めて高い科学的効果を発揮する。
週二回、一回につき約90分。
それを8週間、合計16回。
それが、彼らが過度な依存から脱却し
社会的な自立への足がかりを掴むために
俺がひとつの目安として設定している治療期間だった。
13時を過ぎて、ようやく医局の片隅で口にする
遅めの簡単な昼食を挟み、14時30分からは再び午後分のカウンセリングの波に没頭していく。
人々のネガティブな感情を受け止める作業は、精神的な摩耗も激しい。
◆◇◆◇
そして、夕方の16時30分
一日の終盤のこの時間帯には
主に主治医や病院側から委託を受けた、各種の高度な心理検査が待っている。