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「アレンくん!待ってたよ!」

「フローラを待たせるなんてなんつう神経したんだ……次はねぇぞ?」

「いいではありませんか?フローラが楽しみにしてたんですから」

 うん、やっぱ着たくなかったわ。

 僕はこれから始まるデートという名の地獄の始まりに内心ため息をしていた。

 王都のカップルに人気のスポットがある。王都の真ん中に位置する場所は王国の始まりとして有名だ。

 初代国王と王妃が抱き合うように王城を見つめる姿。初代国王の右手、王妃の左手がそれぞれ水瓶を支えていて、その水瓶の先から噴水の水が出ている。

 二人の銅像の周りを囲うように水溜の場所がある。

 初代国王は側室や愛人を娶らず愛妻家として有名らしい。

 一夫多妻制が法律で許容されている中、貴族が側室を取らないのは国王を見習った風習のようなものだ。

 この噴水にはいろんな言い伝えがあるが、一番はその場所で待ち合わせにするとデートが成功するとか。

 誰が言い始めたかは不明だが、カップルに人気なのは間違いない。

 そんな場所で……人が集まる噴水のど真ん中で問題の人物たちは視線を気にせず堂々と僕を待っていたのだ。

 本当に憂鬱な気分だ。

 王子、公爵嫡男、学院の問題児。

 アドリアンの容姿は知らぬ国民はいないだろう。結果、国民からはきつい視線に晒されている。

 悪い噂の渦中にいるため必要なこととはいえ、精神的にダメージが蓄積されている。

「どうしたの?顔色悪いよ?」

 的確な指摘を受ける。確かに疲れている。フローラの件もそうだが、主にアレイシアのご機嫌とりでつかれた。

 朝から僕が他の異性と出かけることをよく思っていなかった彼女は僕と朝会うなりきつい視線を向けてくる。

 終始無言で話しかけても視線を逸らす。

 どうにか全て片付いたらなんでもいうことを聞くからと先が怖い約束を取り付けどうにか機嫌が治ったのだ。

 本当に疲れた。

 朝のことを気にしても仕方ない。早く進めなければ。とりあえず、僕はシナリオ通りの言葉を言う。

「そ……その。楽しみすぎて寝不足になってしまったのです……」

「あ!アレンくんもそうなんだ!私もみんなでお出かけするの楽しみすぎて全然寝れなかったんだ!」

「ふ、相変わらず愚かだ。……だが、その気持ちはわからなくもない」

「フローラさん、良ければ少し休憩されますか?この付近にちょうど休めるベンチがあるんですよ。よかったら二人で」

「おい、貴様。俺様がいる前で堂々と抜け駆けとは」

「ちょっとちょっと!みんなやめてよ!仲良くしてって言ってるでしょ!」

 ……やべぇ、早く帰りたい。

 この茶番を大声で、しかも大衆の目の前でやるとかどんな神経してるんだよ。

 やはり、レイルの見立ては正しいらしい。

 前からフローラの言動はおかしいと思っていた。流石の人間でもここまでシナリオ通りに進めるのはおかしいと思っていた。

 この世界をゲームだと認識していてもシナリオの違いがあるのは明白。

 それでも、会話が成立しないこと。僕との初対面、アリスとフローラが接触したこと。アリスから真実を言われても意見を貫き通すなど、いくつか違和感があった。

 まぁ、本当に初めから頭がおかしいというなら話は別だが。

 それにアドリアンとは昔いざこざがあった。元の彼ならいくらフローラの頼みとはいえ、僕と一緒にいようだなんて思わないはずだ。

 例のカフェで特別な注文方法で頼めるメニューには何かしらの薬が入っているのは今のアドリアンとオーラスをみる限り確か。

 僕も気をつけなければな。

 確か、次は僕がいうんだよな。ふと、アリスの言葉を思い出す。

 次のセリフは指示が細かかった。

『あの、早く行きませんか。フローラさんのおすすめ飲みたいです……ふこれを上目遣いで体をモジモジさせながら……あ、あと少し内股の方がいいかも……』

『必要なの?それ』

『このセリフは逆ハーレムルートで最も大切なシーンなんすよ!』

 アリスが細かく言ったってことはこれには意味があるはずだ。

 僕は膝を内股にして俯く。少し身を低くして上目遣いでフローラたちを見つめる。

「あの、早く行きませんか。フローラさんのおすすめ……飲みたいです」

 ……死にたい。なんで公衆の面前でこんなのやらないといけないんだよ。でも、アレンって弱気な設定って言ってたし必要なことのはずだ。   

「うん!そうだね。ごめんね待たせて。なら、みんな行こっか!」

『はぁ……たまらんなぁ』

 ……多分セリフ言えばよかっただけかもしれない。これ、アリス自分の欲求叶えるためしてただけだわ多分。

 色々思うところがあったが文句は後で言おう。一先ずは目の前のことに集中しなければ。

 僕は上機嫌のフローラたちとカフェに向かった。

 カフェに到着後、店員さんが注文を取りに来た時、フローラは何かのメモされている用紙を店員に渡す。

 これが秘密の注文方法らしい。

 注文後は10分以上経つも来ない。

 その間もフローラのシナリオは進行している。

 内容は聞いていて中身のないものばかりだった。

 フローラが僕とシナリオ通りに話を進めているとアドリアンやオーラスが話に割り込んでくる。

 すると、出会った経緯やどんなデートをした、こんなプレゼントを渡しただの、自分がフローラを一番愛していると猛アピールをしているようだった。

 新参者の僕に牽制しているのだろう。なんとも無駄なことを。

 だが、フローラは特に気にすることなく話を進めたあたりこれがカフェを利用した時のハーレムルートのシナリオ通りなのだとわかった。

 アリスからもそのまま指示通り続けるように言われた。

 こうして話を続けているとタイミングを見計らったかのように店員が近づいてくる。

「ねぇ、よかったら、これからも私たちも一緒にいてほしいな。もっと君を知りたい。なにが好きでなにが嫌いなのか。……全部全部知りたいって思えたの」

 あ、来たか。

 逆ハーレムルートの完成させるために言われる台詞。

 だが、その言葉に肯定してはいけないようだ。

「……アドリアン殿下やオーラス様も一緒だなんて……僕はフローラさんのことを」

 僕は弱気を装いセリフを口にする。

「……そうなんだ。ちょっと残念だな」

「貴様、フローラの誘いを断るとは……俺様を敵に回したいのか?」

「……我々二人を敵に回そうとしている。愚かですね」

 しょんぼりするフローラに怒りを露わにするアドリアン。

 鋭い視線を向けてくるオーラス。

 だが、そんな暗い雰囲気の中、フローラは視線を逸らした。

「お待たせしました」

 男の定員が僕たち4人分のドリンクを置いていく。

 フローラはおいたのを確認すると両手をパンと軽く叩き頬面でくる。

「せっかくだし、飲もうよ!私のせいで雰囲気暗くなっちゃったし」

「……ち、それもそうだな」

 アドリアンはフローラに微笑み返した。

 ……本当にこれ飲むのか?

 できたら飲みたいないな。

 少し薄紫色の液体を見ながら片唾を飲む。

「これ、美味しそうですね……いただきますね」

 僕はセリフを口にした後、皆と同じタイミングで液体を飲み込んだのだった。

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