テラーノベル
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とある田舎町の小さな旅館。そこに、6歳になる男の子が家族で泊まりに来ていました。
男の子はつまらない顔をして、あたりを1人散策しています。ふと顔を道の傍にやると、レンゲ畑がありました。よく見ると、その中で遊んでいる子どもがいます。
その子どもは、男の子に気付き、
「一緒に遊ぼう!」
と声をかけてきました。
男の子はめんどくさそうな顔をして、無視をしましたが、その子どもはしつこく誘ってきました。
「1人で遊べば?おねーちゃん。」
男の子が冷たい視線でそう言い放つと、その子どもはニコッと笑ってこう答えました。
「私、スズカって言うのよ。君の名前は?」
男の子は、スズカちゃんの足元に視線を落として、ニヤリと笑ってこう答えました。
「ゲンキ。元気がないのに、ゲンキ君。」
2人は、レンゲ畑になっている田んぼの稲刈り後の切り株を足で踏んで遊びました。サクサクと音を立てて潰れていく感覚は、都会育ちのゲンキ君には新鮮でした。
「田舎すぎてつまんない。」
最初はそう言っていたゲンキ君も、今はせっせとレンゲを摘んで花冠を作っています。スズカちゃんに作り方を教えてもらって、夢中で作っていました。
「ね、田舎も悪くないでしょ?明日はもっといろんな事して遊ぼ!」
スズカちゃんはふんわり笑顔で言いました。ゲンキ君はその顔をじっと見つめた後、出来上がった不恰好な花冠を、スズカちゃんの頭にそっと乗せました。
「わあ、上手にできたね!」
「結婚式みたい。」
「え?」
ゲンキ君は、聞き返したスズカちゃんにそっとキスをしました。スズカちゃんはびっくりして目を見開いています。
「明日、僕帰るんだ。だから、明日の朝9時にまたここに来て。お母さんに住所を教えてもらって、手紙に書いて渡すよ。」
スズカちゃんは小さく頷きました。
「大人になったら、結婚しようね。」
ゲンキ君はにっこり笑って、そう約束しました。スズカちゃんの瞳は、キラキラと輝いているように見えました。
そして次の日、スズカちゃんは約束の時間に現れませんでした。
僕は、ミセスの人柄キーボードの涼ちゃんこと、藤澤涼架。
ボーカルの大森元貴に、出会った瞬間に「僕の理想です。」なんて甘い言葉をかけられて、二つ返事でバンドに加入した。
そんな僕には、一つ悩みのタネがある。
元貴の想い人のことだ。
「俺、いつかスズカちゃんと絶対に結婚するんだ〜。」
元貴はよくそう言って、幼い頃の初恋の話をしてくれる。僕は最初、スズカ、ってよく僕が昔女の子の名前と間違えられた時と同じだな〜、なんで呑気に聞いていた。
しかし、何度か話を聞いているうちに、自分の中の記憶が少しずつ呼び起こされてきたのだ。
それはある幼い歳の頃、1日だけ一緒に遊んだ男の子との記憶。
いきなり田舎に連れてこられて不本意だ、とばかりに苛立ってつまらなそうにしていた子に、一緒に遊ぼうとしつこく絡んだ。
するとその子は、僕のことを「お姉ちゃん」て間違えて呼んだんだ。僕はなんだか可愛らしい間違いに冗談でノッてみたくなってつい、
「私の名前はスズカよ。」
なんて、女の子のフリをしてしまったんだ。
それが、あの男の子が、まさか元貴だったなんて。
でも、確か僕の記憶だと、『僕の名前は、元気がないのにゲンキ君。』って名乗ってた気がする…。あんな幼い頃から偽名を使うなんて、元貴らしいと言うか、訳のわからなさがまた子どもらしいとも言うのか…。
って、そんなことはどうでもよくて。
問題は、スズカちゃんを女の子だと信じて、さらに未だに引きずっていて、その子以外とは恋愛する気もないなどと言っていることだ。
ヤバい、どうしよう。スズカちゃんなんていないのに。いるのは涼架くん(32)なのに。
一度、それとなく、そんな昔の話は忘れて、新しい出会いに目を向けていこう!と促したことがあるのだけど、
「涼ちゃん、俺の執念ナメないでね。」
と据わった目をして言われてしまい、それからは何も出来なくなった。
どうしよう。実はスズカちゃんは僕で、本当は涼架くんでした〜!なんて言ったら、僕はコロされるかもしれない。
ある日、僕は仕事休みの日、休みが重なった元貴に誘われて、彼の家へ遊びに来ていた。
例の如く、元貴からスズカちゃんへの想いと幼き頃の想い出話を聞かされた。どうしよう、聞くたびに、スズカちゃんがどんどんと美化されているような気がする。まるで、絶世の美少女かのような口ぶりだ。
僕が真実を言おうか言うまいかグルグルと考えを巡らせていると、そんな僕をじっと元貴が見つめてきた。
「涼ちゃん。 」
「ん?な、なに?」
「なんか言いたいことでもあんの?」
「あ、いや………あの、じ実は………ス、スズカ………。」
「ん?」
元貴は身を乗り出して聞いてきた。僕はその勢いに怖気付いてしまって、
「いや、なんでもない…。」
と誤魔化してしまった。元貴はしばらく僕をじーっと見つめて、何か言いたげな顔をしていたが、ふっとため息をついた。
「そういえばさあ…」
元貴はそう言うと、僕の顎を片手で持ち上げる。
「なんとなぁく、涼ちゃんに似てるんだよねぇ、スズカちゃんて。」
胸がドキッとした。動揺で僕の瞳が揺れているのが自分でもわかる。
「このタレた目とか、スッと通った鼻とか、薄い唇とか…。」
そう言って、僕の顎を固定したまま、もう一方の手で僕の唇に触れる。僕はビクッと肩を揺らしてしまった。
「そ、そうなんだ…。名前は…確かに…ちょっと似てる…のかもね…はは…。」
僕は動揺しながらも、元貴の目を見てなんとか誤魔化そうと言葉を紡ぎ出した。
ふと、元貴が目に哀しみをたたえたように見えた。
「ほんと、似てる、その笑顔…。」
僕が次になんと言って誤魔化そうか、と視線を彷徨わせていると、不意に元貴の顔が近づいてきた。
「もと…」
僕が名前を呼ぶ前に、その口は元貴の唇によって塞がれてしまった。脳がフリーズする。え?今僕、元貴にキスされてる…?
そっと唇が離れると、元貴は不敵な笑みを浮かべた。
「イヤ?」
「え?」
「スズカちゃんの代わりは、イヤ?」
「か、代わり?あの、代わりっていうか、…っ!!」
再び元貴の唇に塞がれる。先ほどの触れるだけのキスとは違って、顔の向きを変えながら何度も何度も口付けられる。なんだか、頭がぼーっとしてきて、あれ、うまく息吸えてないのかな、なんて考えていたら、ぬるっと元貴の舌が僕の中に入ってきた。
「ぇあ、ちょっ…!」
僕が声を上げようと口を開くと、ここぞとばかりに舌が大きく侵入してきた。僕は目を固く閉じて、必死に逃れようとするが、だんだんと力が入らなくなってきた。僕の元貴の身体を押す手の力が弱まったのを見計らったかのように、元貴はゆっくりと僕の身体を床へと倒した。
「も、もとき…?」
僕は息も絶え絶えに名前を呼ぶが、元貴は返事もせず、僕の耳に口付けを続けた。チュッチュッと大きな音が耳元で起きるたび、僕は身を捩って抵抗した。
「あっ…ちょっ、ちょっとまっ…。」
そんな言葉はお構いなしに、元貴の右手が僕のズボンの中へと伸びてきた。
「あ!だめ!」
「涼ちゃん。」
元貴が熱い視線で俺を制止する。なんだか、止めようとする僕が悪いみたいな気持ちになってしまう。
僕の上からじっと見つめる元貴は、ものすごくカッコよくて、色気があって、僕は元貴から目が離せなくなった。
「大丈夫だから…。」
そう言うと、元貴がもう一度キスをする。もうキスだけでかなり気持ち良くなってきて、息が上がって、両手で元貴のシャツを掴んで、気がつけば僕は元貴のなすがままになっていた。
元貴は口の片端を上げて、また不敵な笑みを浮かべた。
「触ってもいい?」
耳元で、低く囁く元貴の声。元貴の手はズボンの上から僕の膨らみ出したモノを軽く撫でている。僕は恥ずかしさに顔を反対向きに背けて、目と口を固く閉じた。
そんな僕をしばらく元貴は見つめていたが、ゆっくりと首筋に唇で軽く口付けを繰り返しながら、ズボンの中に手を入れてきた。
「ーーーっ!」
声にならないうめきが、僕の口から出る。もうダメだ、なんだか抵抗は出来ないし、でも死ぬほど恥ずかしいし…僕は両手で顔を隠してなんとか自我を保っていた。
「顔、隠さないでよ。…その顔が似てるんだから。」
元貴はそう言うと、僕の下着すらもずらしてしまって、露わになった部分に顔を近づけて行った。
「ま、待って!!!な、なにするの…!?」
僕は大体何をされるのかわかってしまったから、必死に元貴を止める。
「何って…舐めるの。」
元貴は右手で僕のモノを触って、くにくにとイジる。
「だ、だめ!!!絶対ダメ!!!」
僕は両手で元貴の顔を押し除ける。僕の手によって元貴の顔が歪む。
「なんで。」
「だって、き、汚いし………、それに、万が一元貴の喉になんかあったら………だから絶対ダメ!!」
僕は頭を振りながら、懇願する。
元貴は小さくため息をついて、ふっと僕から離れる。僕は慌ててズボンを履き直し、あ、止めるのかな…と安心したのも束の間、元貴がソファーに腰掛け、自分のズボンを下げ出した。僕が混乱して、床に座ったままその様子をボーッと見つめていると、元貴が指で僕を呼び寄せた。
「だったら、涼ちゃんがやって。」
リョウチャンガヤッテ?????
僕はやっと意味を理解すると顔が一気に熱くなった。元貴は、僕が動けずにいる間に、ウェットティッシュで元貴のモノを丁寧に拭きあげていた。
「ほら、涼ちゃん。」
元貴は大きくなったモノを自分で掴み、プラプラと振ってまた僕を呼び寄せる。僕は涙目になりながら、ゆっくりと元貴の足元に近づく。
「イヤならいいけど。」
元貴は僕の髪を撫でながら、最終確認のように言い放つ。僕は目の前にある元貴のモノを見つめて、覚悟を決めた。ゆっくりと口を近づけて、先端にキスをする。
「っ…。」
元貴が、驚いた顔をして息を漏らす。まさか僕が受け入れると思わなかったのか。それでも、元貴の瞳にはすでに期待が宿っていた。
僕は震えながら、舌を出して側面をそっと舐めてみた。元貴がウェットティッシュでよく拭いてくれたのか、少し薬品臭いが、イヤな感じはしない。
僕はそっと手を添えて、元貴のモノが逃げないようにしてから、根本から先端までぎこちなく舐め続ける。元貴は僕から目を離すことなく、息を荒げて見下ろしている。
「…涼ちゃん、咥えて…ほしい。」
僕が口を開けてゆっくりと口に含む様子を、元貴は食い入るように見つめる。恥ずかしい、見ないで…僕絶対変な顔になってるし…。僕はどうしようもなくて、とにかく自分の目を閉じることにした。
「うわ………。」
元貴は天井を仰いで息を漏らした。なんだか、感じてくれている元貴が可愛く思えて、僕は舌を絡ませながら上下に動き始めた。
「う……ヤバぃ………きもち………。」
僕の動きに合わせて元貴が少し腰を動かす。僕は喉奥に入りすぎて、ついオェッとなってしまう。元貴は慌てて、大丈夫?と心配そうに僕の頬に手を添えるが、その顔は上気していた。元貴は続きを欲している。
僕は、大丈夫、というように頷くと、再び口に含む。だんだんと、しょっぱいものが口に広がる。でも、元貴のものなら、不思議と受け入れてしまう。
一生懸命に、元貴が気持ち良くなってくれるように、角度を変えつつ、手でも扱きながら上下し続ける。僕のやり方が悪いのか、部屋にやたらと水音が響く。僕は自分がしていることを音として耳からも改めて聞かされることで、余計に恥ずかしさを覚え、そして余計に昂った。
「涼ちゃん…。」
やらしい、と元貴は呟いて、僕の髪を撫でる。それが褒め言葉のように感じて、僕はますます懸命に動く。
「あ、待って…イキそう……っ。」
元貴が僕の頭を離そうと少し押すが、僕は構わず続ける。
「えっ、涼ちゃん!…ダメ…、い、いいの…?」
元貴は息を荒くして、我慢をしながら僕に確認する。僕は動きをやめず、それを返事とした。
「あ…涼ちゃん…ごめん、出る…!」
僕と元貴は、いつの間にか片手を絡ませながら、元貴がその手にギュッと力を込めて、僕の口内に放った。うっ、流石に慣れない感覚、味はそんなにしないけど口の奥がなんかヘン…あと匂いが…。
僕は口を手で押さえて、ティッシュを探す。
元貴は慌ててズボンを履き、ソファーのサイドテーブルからティッシュを渡してきた。
「涼ちゃん、ごめん、気持ち悪かった?」
先ほどまでの元貴と違って、優しく僕の背中をさする。僕はティッシュに口の中のものを静かに出すと、小さく首を振った。気持ち悪くないよ、イヤじゃないよ、だって僕は元貴が…。
「…こんなことさせちゃってごめんね、スズカちゃん。」
元貴の言葉に、僕は目を見開いて元貴の方を振り返った。元貴はニヤリとして僕を見ている。
「…え?」
「まだ想い出さないの?おねーちゃん。」
僕の口元を優しくティッシュで拭きながら、元貴が呼びかける。
「…僕だって…知ってたの…?」
「当たり前だろ、あの時それで声かけたんだから。」
あの時、というのは、出会った時のことだろうか。確かに、元貴はひと目で僕を気に入ってくれたようだった。
「え、で、でも、…女の子だと思ってたんじゃ…。」
「思うか!思いっきり男だったろ!」
確かに、僕は普通にTシャツ短パン、短い髪にと、ごく一般的な男の子だった。
「え!だってお姉ちゃんて!」
「バカにしたの!涼ちゃんが遊ぼ遊ぼってしつこかったから!それで怒ってどっか行くと思ったの!」
「え〜…そ、そうだったの…?」
僕はなんだか力が抜けた。元貴は呆れたように笑って、僕の頬をなでた。
「涼ちゃんたら、なんにも言ってくんないんだもん。あの約束を覚えてんのは俺だけかぁって悲しかったよ。」
僕は元貴を見て、ごめん、と弱々しく言った。
「…あの時、なんで来てくれなかったの?」
元貴が寂しそうな目で僕を見る。
「ごめんね、あの夜、僕熱出しちゃって…。次の日も家から出してもらえなかったから、せめてお母さんに『ゲンキくんに渡してきて』って手紙をお願いしたんだけど、お母さんが行った頃にはもう居なかったみたいで…。」
「そっか、来てくれてたんだ、よかった…。」
元貴は嬉しそうに微笑む。あの時のゲンキくんと変わらぬ笑顔で。
「ん?でも、なんでゲンキくんなの?」
「そっちだって、スズカちゃんじゃん。」
「僕は、元貴の『お姉ちゃん』に乗っかって、ちょっと揶揄おうと思って…ごめん。」
「ま、気づいたから俺も偽名使ってやったんだけどね。」
「え?ああ、男だからスズカじゃないだろって?」
「ちがう。涼ちゃんの履いてた靴に思いっきり『りょうか』!ってひらがなで書いてあった。」
えーーー!と僕は大きな声で言ってしまって、元貴は甲高い声で嬉しそうに笑った。
「ほんっと、涼ちゃんてバカだよね〜。」
元貴が、あまりに愛おしそうに笑うから、僕も釣られて笑ってしまった。
元貴が、両手で何かを持つようなジェスチャーをして、それを僕の頭に乗せた。あの時の、レンゲの花冠だ。
「大人になったから、結婚しようね、俺たち。」
僕は、大好きな元貴からのその言葉に、今度は深く頷いた。
コメント
2件
このお話、めちゃ好きです🤭💕 💛ちゃんが、いい感じにりょうちゃんらしくて、♥️くんの策略家なとこも!笑