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医療班が無実ならすぐにでも釈放しなければと、リアムはアルメリアが帰るとすぐに渡された書類を確認した。そして医療班が捕らえられた経緯を調べ直す。
そこでアルメリアが持ってきた証拠書類の内容が本当のことだったことが裏付けられた。もちろん医療班に対する嫌疑も晴れたため、直ちに医療班を釈放した。
不正をしていた兵士二人を捕らえるも、二人はなかなか罪を認めようとしなかった。だが、次々に証拠を突き付ることで、やっと二人は観念したのか不正の内容を認め始めた。
そのまま調べを進めていくうちに、今までにも高価な物を持っている旅行客などを狙い、濡れ衣を着せ持ち物を盗品だと言って押収し、その裏で売りさばくことをここ数年もの間ずっと繰り返していたことが発覚した。
アルメリアの医療班に対しても、持っていた高価な医療器具を狙っての犯行だったと二人は自供した。
驚くべきことに、そういった不正はパウエル領イキシア騎士団の中で半ば常態化しており、二人以外にも不正を働いている者がほとんどだった。
その他にも権力を行使し好き放題やっている実態を知り、自身の領地内における騎士団内の腐敗が次々と明るみに出ることになった。
リアムはこの際なのでパウエル領イキシア騎士団の統括騎士として徹底的に摘発していくことにした。
それらに日々忙殺され、やっと事件が一段落したところでリアムは、医療班の冤罪事件の報告書をまとめ、アルメリアに送った。するとアルメリアから御礼状が届いた。
アルメリアがやろうと思えば、医療班が冤罪で捕らえられた時点で、なりふり構わず公の場でこちらを訴えることもできたはずだ。
だが、彼女はそうせずに、冷静に直談判してくれた。そのお陰で、リアム自身が部下の不正を裁くことができたし、更には騎士団内の腐敗を摘発したことによって体面を保つこともできた。
ことが露見してからの対応では、リアムは統括騎士としての面目が丸潰れとなるところであった。
御礼状を書かなければならないのはこちらの方かもしれない、そう思った。
この一連の出来事を通し、リアムはアドニスが言っていたことは全て本当のことなのだと気づいた。そして、あれほどアルメリアに陶酔する気持ちも良くわかった。
聡明で頭の回転が速く、大人びている。なのに屈託なく笑う。リアムはそのギャップに完全に魅了されてしまっていた。
そんな自分の気持ちに気づいたとき、リアムはアドニスが目の前でアルメリアをかっさらうのを指を咥えて見ている訳にはいかない、と思った。
更に不運なことに、最初に悪印象を与えているぶん、アドニスよりも遅れをとっている。なんとか策をとらねばと思考を巡らせた。
そして、まずは行動あるのみと、会えるきっかけを作るために早速手紙をしたためた。
ペルシックは、いつものように届いた手紙の束から重要なものだけを選ぶと、アルメリアの朝食のトレーにのせた。
他の貴族は朝でもコース料理を食べるものだが、アルメリアはいつも簡単につまめる朝食を執務室でとっていた。トレーを執務室へ運ぶと、書類を汚さぬようサイドテーブルに置く。
「お嬢様、パウエル侯爵令息からお手紙が届いております」
書類に視線を落としたまま、アルメリアは答える。
「あらそう、ありがとう。申し訳ないのだけれど読み上げてもらえるかしら」
ペルシックは手早くペーパーナイフで封筒の封を切ると、中から手紙を取り出し読み上げた。
「『まことに尊敬するアルメリア・ディ・クンシラン公爵令嬢にご挨拶申し上げます。先日は私の失態について的確なご指摘をいただき、ありがとうございました。また非礼に対して、咎めない貴女の素晴らしさにこころから感服致しました。つきましてはお礼をさせていただきたい所存でおります。都合の良い日をお知らせください。色良い返事をお待ちしております。この国一番の貴女の崇拝者、リアム・ディ・パウエル』」
読み終わった手紙をアルメリアに渡す。
「いかがなさいますか? お嬢様」
アルメリアは受け取った手紙をちらりと見ると、そのままペルシックに返した。
「返事は自分で書きますわ。予定だけ調整してもらえるかしら?」
彼は失態したことに対してお礼をすることで、それらをなかったことにしたいのだろう。ならば相手のプライドを保つためにも、お礼を受けておいた方が得策だ。
「承知いたしました。ビジネスの手紙ではないので、可愛らしい紙と封筒を用意いたしましょう」
そう言って、一歩下がりお辞儀をするペルシックにアルメリアは声をかける。
「爺、貴男は私の家庭教師として雇われたのに、こんなことまでさせることになってしまって、本当にごめんなさいね」
以前から思っていた。現在のペルシックは執事の仕事以外にも様々なことをこなしてくれている。彼ほど優秀で、同じ仕事をこなすことができる人物はいないだろう。だが、だからこそ細々した雑用までさせる訳にはいかない。
「心配ご無用です。私はこういったことに長けております。むしろ家庭教師の方が不向きだったのです。それにお嬢様の側で共にクンシラン家を盛り立てることは、とても光栄なことと思っております」
ペルシックはいつものように表情を変えずにそう言った。付き合いの長いアルメリアは、微妙な話し方の違いでペルシックの感情を読み取ることができるようになっていた。アルメリアの感覚では、今言った台詞に嘘はないようだ。
「ありがとう。正直言えば、貴男の仕事を他の人間はできないと思うの。それほど貴男は優秀ですわ。これからも宜しくお願いね」
ペルシックは、深々と頭を下げた。
「おまかせください。では失礼いたします」
そう言って、部屋を出ていった。
予定を空けると、アルメリアはさっそくリアムに返事を書いた。
約束の日、屋敷で待っていると、時間通りに屋敷前まで迎えの馬車がきた。アルメリアはどこに行くのかも分からぬまま、馬車に乗り込み目的地へ向かう。
しばらく馬車に揺られると、一件の工房の前で止まった。ドアが開くとそこにリアムが立ち、手を差しのべていた。アルメリアはその手を取った。
「クンシラン公爵令嬢、こちらです。足元が悪いのでお気をつけください」
そうしてエスコートされて、工房内に入った。