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あの日負けた。
相手の選手は強かったのはそうだし、別に都でベスト8は周りから見たらすごいことだったらしい。
でも、私の中で確実に何かが折れた。
部活は引退したけど、制服の下のグロテスクな紫は消えることはない。
頻度は減れど体重管理も続いた。
試合もないのに、
なんで私は従ってるんだろう。
警察を辞めると決めたことを真っ先に顧問に言った。
そしたら顧問が先に警察の先生に話を通したらしい。
あのおばさんが余計なことしたよと。
警察の先生は私を引き止めなかった。
先生と顧問の間で、私は既に移籍扱いされてた。
私の従兄弟が最年少で五段までとった。この最年少は最短という意味。
そして、従兄弟は道場を始めるって青年用の道場を開いた。
私の逃げ道はなかった。
スポーツ推薦という制度で私立から1番上の待遇で声を掛けてもらった。
都立とほぼ同じ額でいいなんて、素晴らしい。学力はそんな高くないけど。
そこは恋バナ大好きなバカも多く行ってたし、出てった学校。
もう一校名刺を頂いた。
ちょっと遠くて、女の子っぽい名前。
少しだけ気になった。
でも、そこには顧問が「あいつは、あそこかここしか行く気ないですよ」って言っといたと数日後に聞かされた。
そして私が選んだ都立。
その先生は顧問より剣道連盟で力があった。権力の方。
その都立は新設だし無名だけど、その先生は非公式の練習試合で
私が最後、飛んで負けた合い面を
「咲弥くんの面だったね、あれ。」
そう言ってくれた。
顧問はその合い面をめちゃめちゃ怒ってたけど、でも、私はあの面は私の方が先だったしとってた、って思ってたから。
だからそこにした。
誰に何を言われようと、この人なら顧問とは違うかなと思った。
その理由が恥ずかしくて。
「近いから」
「勉強しなくても行けるから」
「あの先生に教えて欲しいから」
少しだけ本音は混ぜながら、
私の気持ちは隠して選んだ。
高校の練習で嫌だったのは朝練だった。
というか練習はやっぱり嫌いだった。
朝、1年が先に来て掃除して始める。
だから6:30に来て。
近くて6:00についた私が1人でやっちゃえば早いじゃん。
6:30でわちゃわちゃやる意味が分からない。
しかも朝から防具つけてくさいのに。
学校それで1日過ごすんだけど。
朝シャン派の私としては意味がわからなかった。
昼、先輩たちがいるからどの理由で同級生の女の子と行くと昼休みも鏡の前で構えを見直したり、色々していて。
お昼ご飯の時間なんですけど、なんでそんな事しないといけないの?
やらないと睨まれたのでやってみたけど、何をやればいいかよく分からなかった。
部活
放課後は毎日。定時制があるから18時までと長くはないのだけれど。
普通の練習って感じ。
気持ち悪くなる頻度が増えてきた気がするけれど、それでもまあ何とか頑張れた。
練習試合や試合は先輩達の鼻についたのだろう。
練習試合、私は中堅、大将出でることが多かった。1年で。
そして全て勝ってきた。
チームが負けようが、先輩の誰が負けようが、私だけは勝った。
そして先輩が言った
「なんで試合では強いの?」
教えて欲しいのは私の方だった。
なんでそんなやってんのに弱いの?
部活内で私は結構な異分子だったと思う。可哀想に。
木曜日は、元顧問の道場へ顔を出さないといけなかった。
嫌になるほどこの人は理解者だったのが本当に。
高校に入って、少しレベルが上がることを教えてきてもその人の言葉はスっと理解出来てしまう。
高校の先生よりも。
そして私は見誤っていた。
ヤツもちゃんと同じ高校に来た。
そうだね、じゃあ言った通り付き合わないと可哀想だ。
恋人がいながら体重管理が続いて、何か違う部活を続けていて、私はふと自分のにおいが気になった。
剣道のにおいがいつもしてる。
きもちわるい。
恋人には元顧問のことを話した。
どこまで分かってくれたかわからないけど、彼は私が誰にも言わないでと言ったら
「言えないよ」っていった。
6月。
高校の新人戦の少し前。
元顧問に呼び出されて、体重管理をした。が、その日少し行き過ぎていた。
「18になったら最後までしてやるな」
恥ずかしさ、よりも、先に呼吸が出来なくなった。
そして気がついた。
剣道のにおいってこの人のにおいだ。
誰も居ない家に帰って、シャワーを浴びた。においが落ちない。お風呂に入った。それでも落ちない。
ジャージも、防具も、制服も、私の部屋も全部そのにおい。
布団と枕もそのにおいだった。
調子に乗ってる変な女子。
実力もそこそこあるけど、天狗になって、性格が悪くて、口も悪い。
人間性は終わってる奴。
誰か殺して欲しかった。
剣道のある方へ行くのが嫌だった。
もう部活棟と呼ばれる方へ、体育館や校庭があるから学校生活で行くのはまあもう仕方ないとして。
道着に着替えるのが嫌だった。
きもちわるい。
防具が重い。
きもちわるい。
面を被るのがつらい。
きもちわるい。
体が言うことをきかないの。
頭と言葉が上手く噛み合わないの。
みんなが私を悪く言ってる気がするの。
練習嫌いは加速した。
やっててもトイレに行くことが多かった。吐きそうな気がする。吐けないけど。
もう体が動かないんです。
起きたくないんです。
試合には出たいけど。
高校三年生が引退して、練習試合に珍しく母親が見に来た。
私は何気なしに聞いた。どうだった?って。
「なんか、中学とあんま変わらないね。」
すごいと思った。
私の気持ちを踏み抜く天才、真逆の性格と感性なんだろうと。
小さい頃から今もずっとお母さんが大好き。でも、絶対にこの人とずっと一緒には居られない、だってあなたは私を無意識に傷つけるから。
そして私もあなたの思いやりを汲めないから。
だからせめて自分の部屋には誰も入らないで欲しかった。
わたしの部屋はすごく汚い。
読んでる漫画が散乱してて、描いてる絵が机を埋めて、物を置けるところ全てに物があった。
ベッドの上は漫画。
机は漫画と紙、鉛筆とか。
同人誌ってものを読むようになって違和感を感じていたのが、キャラとは分かるけどその人じゃないじゃんってところ。
私の好きな人は、私の恋してる人達は、私のかっこいいと思う人達は、そんな顔じゃないの。
それが同人誌の嫌いな理由。
だから沢山模写をした。
見て描いて、真似して。
それでその顔を見ながら違う角度を描いてみる。篭って絵を描くのは楽しかった。
部活をサボるようになって、帰ってそんなことをしてた。
恋人が心配して来てくれても、お話して恋人らしいこともして、また明日。
部活来いよ、なんて言うけど。
元顧問の道場へはめんどくさい事にならないように行っていた。
そこで転機みたいなことが起きた。
腰が痛い。
打った瞬間にぶっ飛ばされたときに、体が反ってしまって。
その瞬間、腰の左側が痛かった。
親には仮病かとか言われたけど、結構痛かったから念の為病院に行ってみた。
椎間板ヘルニア症
そう言われて、聞いたら安静。
水泳のバタフライはダメ。剣道ももちろんダメ。
私は練習を休む大義名分ができた。
休んでも見学してなさい。
といわれて、渋々見てたけど眠い。
人の練習なんて見て何が面白いの。
それぞれ課題なんか違うのに。
バカバカしい。
でも
「こうしたいからこうなってるか見てて」
そう言われたものはちゃんと見てた。
目的があったから。
体が痛いよりもきもちわるいの方が重症で、私は剣道をしていないのに未だにそのにおいがとれない。
2週間。
稽古してないのに。
そして復帰することになって、道着を着る。
その日は普通に吐いた。
私はもう剣道が嫌だった。
親戚の新しく始めた道場にも行った。
吐き気は薄いけど、従兄弟は私を強くしたかったのかよく分からないけど、エンドレスに掛かり稽古をさせて、その道場のみんなの前で引きずって、突き飛ばして、立て、打ってこいと言った。
もうそんな気力も体力もないのに。
きっかけがあれば良かったんだと思う。
私と一緒に高校に来た同中のスポーツ推薦の子が辞めた。
既に実力のあった陸上部の子だった。
「お前も辞めれば?」
その子と帰り際、会った時にそう言われてハッとした。
辞めればいいんだ、と。
ずっとわからなかった。
私は私が勝ったことでみんなが喜んでくれるから勝ちたい。
勝つのが楽しいから勝ちたい。
それは一応私が勝ちたいのだけど、共有したい、そんな気持ちに近いと思う。
でもこの競技は個人戦で、私が勝つとその他は負けなのだ。
喜べって方が難しい。
私が辞めたいと口にした日。
大事になった。
元顧問もきて、親戚も、母親も。
親戚と母親が高校まで行って先生と話して、元顧問も先生と話して、大人が何人も動いた。
あの子はそんな事になってなかったのに。
私のことをすごく子供みたいに過保護に扱う。
辞めたいだけなのに。
辞めてどうするんだ。
甘えてる。
剣道まで辞めたら何が残る?
周りのことを考えろ。
お前は自分勝手すぎる
だから、私は部屋に飛び込んだ。
鍵はなかったから、1番太いベルトでドアノブをクローゼットの取っ手に締めて固定して開かないように。
誰も入ってこないように。
生理痛用で買ってあった鎮痛剤に少しだけ睡眠薬が入ってると聞いてたから、1箱全部飲んで。
一応、恋人にはもしかしたら起きないかもしれないから、連絡しといた。
ふかふかのベッドにゆっくりと沈んでいくような感じがすごく気持ちよくて、においはしなくなった。
目が覚めたのは午前2時頃だったと思う。
ベルトで固定した扉はこじ開けられてて、まだちょっと眠気と気持ち悪さが残ってたけど起きた。
私が起きた物音で母親が登ってきて、話をした。
特に深い話はしないけれど、要約すると辞めてもいいそう。
とりあえず、次の日は休んでカウンセリングを受けて、その次の日くらいに先生に言いに行く。
そういう流れになった。
カウンセリングの先生は私の書いたを見て、
「思春期にはあることだから。でも市販薬飲んでも死ねないよ?胃洗浄辛いから嫌でしょ?」
そう言ったから、私はそうですねと笑った。
元顧問にも会った。
お前のせいだとは言えなくて、たまに来て市の試合とか出れば?と言われて、まあそれならいいかと思った。
気が向いたらやればいいわけで。
そして、部活を辞めに行く日。
高校の先生に退部を告げて、
「どうして辞めるの?」と聞かれた。
盲点だった。
何故か聞かれるものでは無いと思い込んでたから。
用意してきてなかった。
それっぽい理由を探した。
「先生から、指導を受ける機会が少なくて、信頼できなくなってしまって。」
本当に申し訳ないことをした。
この先生を傷つけるための嘘だった。
先生は
「でも練習について来れなかったのは君の方だろ?」
そう静かに言った。
そうですね。声に出せたかは覚えてないけど、私は立ち上がって部活を辞めることができた。
それからすぐ。部活が終わって家に来る恋人がうざかった。
剣道辞めたのになんでまだ付き合うの?
こいつは知ってて言わなかった人なのに。
そう思ったら、早く距離を取りたくなった。
だから一方的に、ウザイとか、無理とか言って、会いに来たら逃げて。
結局好きになれなかったんだと思う。
本当に申し訳なかった。
部活は辞めてしばらく。
身体中にあった痣が嘘みたいに薄くなった。
元顧問から大会の誘いがあった。団体戦。
私は久しぶりに出たいと思ったから出ると返事した。
高2が始まってすぐ。
そこで従兄弟が自分の道場から団体を組んで出てるのを知って、私は普通にいつも通り名前を呼んだ。
会場のど真ん中で。
思い切り殴られた。
「何勝手なことしてんだよ!!!!」
「…勝手?」
私のことなの。
お前、頭いいんだろ?
いいよね?中大の理系だっけ?
優秀で論文も発表してたよな?
お前はいつもいいよなぁ、ゲームしてて。
効率よく全てこなして。
お前は運動神経いいんだろ。
なんだよ、おまえまで。
「もう行け」
私はなんで殴られたの。
頭いい人のやることはわからない。
もう本当に剣道なんか辞めてやる。