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何かを察した様子の三人を見て、秋時《あきとき》は、
「やらかしたんですよ、いつも通りに」
と、続けた。
「あ!それで!」
「どうされました?守満《もりみつ》様?」
晴康《はるやす》の問いに、守満は、何か合点がいったと、言いたげに答える。
「いやね、近頃、出仕しても、顔をみないなぁと思って。さぼっているにしては、あまりにも、おかしすぎるなあと……」
「守満様、それは、つまり……」
「そうそう、晴康殿、ほとぼり冷ましというべきか、自主謹慎というべきか、いや、逃げているだけと、言いますか」
秋時の答えに、守満、常春《つねはる》、上野は、やっぱり、いつも通りだと、げんなりしている。
「それで、秋時様?姫様は、どうされましたの?」
えーっと、と、言い含みながら、秋時は、守恵子《もりえこ》に答えて良いものかどうか、皆を伺った。
「まあ、どうせ、いつも通りに、事は、未遂に終わったのだろう?」
守満の問いに、秋時は、そうそう、そこなんですよ!と、大笑いする。
「家司《しつじほさ》に、捕まりまして……」
何でも、軒に吊るす、釣灯籠《つりとうろう》の灯りが気になり、確かめに行った家司が、人の気配を感じ取ったのだとか。
妙に、甘ったるく、それでいて、何か拒まれているような、つまり、男女の逢瀬の最中に、出くわしてしまったと、家司は、気が付いた。
人の色恋を邪魔するのも、野暮だと思い、踵《きびす》を変えそうとした所、女は、叫び、男から、逃げようとしているようで、
追うように、「なよ竹のかぐや姫、お待ちを」「そなたと私は夫婦《めおと》になる仲ですよ」と、男の声が続く。
「誰ぞ……」
男に迫られ、気後れしたのか、女は、叫びともつかない、小さな声で、助けを求めている。
家司は、悩む。時に、この様な戯れを好む男女もいる。ここで、自分が、出ていって、恋の余興に浸っているだけでした。ならば、えらい目に合うだろう。
しかし、おかしな事に、その、男女の話し声は、姫君の房《へや》の辺りから聞こえて来るのだ。
家司は、覚悟を決めて、其方へ向かった。
──と。
姫君が、縁側から庭へ続く階《かいだん》を、駆け落り、逃げ出していた。
房の前に広がる、中庭へ踏み込んだ姫君を、見知らぬ男が、追っている。
これは、一大事。家司は、男を取り押さえようと、縁から、庭へ飛び降りた。
「そして、あっさり、取り押さえられた、と言うことです」
秋時は、話を終える。
「はぁ、それにしても、家司ごときに、仮にも、宮殿──、禁中を守る役目の男子《おのこ》が、押さえこまれるとは」
「上野、藤隆《ふじたか》様だよ?」
「そうでした、そうでした。秋時と、どっこいどっこい、ですものねぇ」
へっ?と、上野に、我が名を出され、秋時は、呆けた。