「熊が出ますなんて張り紙があるのだ」
亜里砂さんが、そんなものを発見した。
なので皆でぞろぞろ見に行く。
『熊危険! 入山の際は下記のなかから一点以上、持参することを強くお勧めします。
鈴・ホイッスル・ラジオ・MD・MPプレイヤー……』
更にその注意書きの下には、ピストルが置いてある。
本物かと思って焦ったら、エアガンだった。
BB弾も予備が置いてある。
「でもこんな玩具じゃ、役に立たないですよね」
「うちの場合は、必要ないだろ」
先輩がそう言って、にやりと笑う。
「彩香か亜里砂、未亜あたりが、魔法とか術とかで仕留めてしまいそうだしな」
確かに。
そして。
「ストーブ、火がつきましたよ」
専制の言葉で、皆でストーブの周りに集合。
「ああ、確かにこれ、いいですね。何か、物語の世界みたいです」
美洋さんが、いかにも嬉しそうだ。
歩いていないと基本的に寒い。
でもストーブの炎が、服を通してガンガンに温かさを伝えてくる。
「悪い。本能的に、失礼させてもらう」
先輩はストーブの周りを囲む椅子の一つを占拠して、横になった。
バッテリー切れというか、昼寝の時間だ。
何かいいな、こんな雰囲気。
まるで、荘みたいだ。
「そう言えば、この避難小屋って自由に使っていいんですか」
ちょっと気になったので、聞いてみた。
「本当は天候不順とか予定より遅くなったとか体調が悪いとかで、避難するための小屋なんですけれどね。
だから奥多摩には色々いい避難小屋がありますが、原則的には非常時以外は使ってはいけないことになっています。
それでも計画的に使う人はいますけれどね。
丹沢はテントを張れる場所がないので、そこまで厳しいことは言われません。
でもここも誰か来たら、寝る場所などは空ける必要があります。
まあ平日ですから、多分誰も来ないと思いますけれど」
つまり、ある程度は自由に使えるわけか。
いいな、これ。
この雰囲気、何か癒やされる。
「一息ついたら荷物整理をして、周りを少し見て回ってから夕食を作りましょう」
「私は散歩はパス。昼寝最高」
お昼寝中の先輩から、そういう返事が返ってくる。
「こういう感じのお家を建てて、こんな感じにストーブを囲むのもいいな」
彩香さんが、そんなことを言っている。
実際には難しいだろうけれど、雰囲気としてはよくわかる。
「疲れて程良く温かくなったので、私も眠くなったのだ」
亜里砂さんも、横になってしまった。
「よし、この隙に、亜里砂の額にマジックで『肉』と書くのです」
「いつの時代のネタだよ」
未亜さんの古いネタに、思わず反応してしまった。






