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アドラル皇国
18
1,373
#日常
寿命㌫(主) 🔮🖤ᩚ
2,231
川を渡り切ったユーリーの第一軍は、すでに軍の形を失っていた。
狭い渡河地点を我先にと進んだため、騎兵と歩兵が入り交じり、
隊列は大きく乱れている。
そこへ――。
「来たぞ!」
ジュベの騎兵が襲いかかった。
左右から一斉に矢が降り注ぐ。
「盾を上げろ!」
「隊列を組め!」
ユーリーが叫ぶ。
だが、遅い。
渡河を終えたばかりの兵たちは、まだ誰がどの隊に属しているのかさえ分からない。
そこへスブタイ率いる別働隊まで姿を現した。
前からジュベ。
側面からスブタイ。
第一軍は、瞬く間に包囲されかけていた。
「押し返せ!」
「川を背にするな!」
怒号が飛び交う。
その様子を、川の反対岸からダニールは見ていた。
「まずい……」
第一軍が崩れ始めている。
このままでは、ユーリーごと全滅する。
「第二軍、渡河する!」
副官が驚いて振り返った。
「しかし大公より、隊列を崩すなとの命令が――」
「見殺しにしろというのか!」
ダニールは馬首を川へ向けた。
「第一軍を救援する! 急げ!」
第二軍が動いた。
数千の兵が、今度は一斉に川へ殺到する。
だが当然、橋も浅瀬も広くはない。
先頭はすでに向こう岸。
中央は川の中。
後方はまだこちら岸。
第二軍もまた、一本の長い列となって引き伸ばされていった。
それを遠くから眺めながら、
スブタイは静かに呟いた。
「二つ目」
ジュベが笑う。
「食いついたな」
「ああ」
第一軍を救うために第二軍が川を渡ろうと渡河をはじめた
「退け! 退けぇ!」
第一軍の兵士たちが、雪崩のように川へ飛び込んできた。
だが、その先には――
「進め! 第一軍を救え!」
ダニール率いる第二軍がいた。
退こうとする軍。
渡ろうとする軍。
二つの大軍が、川の中腹で正面からぶつかった。
「邪魔だ!」
「戻るな!」
「敵が来るぞ!」
馬が暴れ、兵士が転び、その上を後続が踏みつける。
流れに足を取られ、鎧の重みに沈む者もいた。
もはや敵に攻撃されるまでもない。
ヴァンガルド軍は、自ら崩れ始めていた。
スブタイは、静かに右手を振り上げた。
そして――振り下ろす。
その瞬間。
中央に待機していた重装騎兵が、一斉に駆け出した。
大地を震わせる無数の蹄。
馬も騎手も鎧に身を包んだ騎馬の塊が、
混乱する第二軍めがけて真正面から突っ込んでいく。
「間に合わなかったか!」
ダニールが叫んだ。
だが、第二軍は動けない。
前には敗走してくる第一軍。
後ろには渡河を続ける味方。
兵たちは川の中で押し合い、身動きすら取れなくなっていた。
そこへ重装騎兵が激突した。
轟音。
人が飛び、馬が倒れ、戦列が一気に押し潰される。
さらに――。
「左右だ!」
両翼から軽装騎兵が動いていた。
彼らは第二軍へ正面からぶつかることなく、その外側を大きく回り込んでいく。
右へ。
左へ。
翼を広げるように。
そして逃げ場を塞ぐように、徐々にその輪を狭めていった。
ダニールの顔から血の気が引いた。
「包囲される……!」
だが、気づいた時には遅い。
中央から重装騎兵。
左右から軽装騎兵。
背後には川。
前方からは敗走兵が押し寄せてくる。
第二軍は、まるで網にかかった魚の群れだった。
逃げようとすれば味方にぶつかり、
踏みとどまれば騎兵に踏み潰される。
やがて一人が逃げた。
それを見た十人が逃げる。
百人が続き、
ついには第二軍全体が崩れた。
「退け!」
「川から戻れ!」
「逃げろ!」
命令など、もう誰も聞いていない。
第二軍は全面敗走に陥った。
ムスチラフは、目の前で起きている光景が信じられなかった。
十日前。
自分たちは四万の大軍を率いて帝都を出た。
敵はわずか二万。
逃げる敵を追い詰め、分断し、各個撃破する。
そのつもりだった。
だが――。
今、各個撃破されているのは自分たちだった。
九日間の追撃によって四万の軍は引き伸ばされ、
川へ誘い込まれ、
第一軍、第二軍と順番に潰されていく。
すべて、このためだったのだ。
「こんな……」
ムスチラフの唇が震えた。
「こんな馬鹿なことがあるか……」
川の向こうでは、第二軍が崩壊していた。
兵士たちが武器を捨て、四方へ逃げ散っている。
その間をモンゴリア騎兵が駆け抜け、逃げる者を次々と討ち取っていく。
「悪魔め……」
もはや追撃どころではない。
ムスチラフは馬首を返し。指先で後方の丘をさした
「これより全軍は南西の丘へ向かう!」
第三軍は、第一軍、第二軍から逃げてきた敗残兵たちを横目に、
戦場から離れ始めた。
助けることはできなかった。
立ち止まれば、自分たちまで飲み込まれる。
兵士たちは歯を食いしばり、丘を目指した。
やがて小高い丘を確保すると、ムスチラフは即座に命じた。
「荷馬車を倒し、陣を構築する!」
物資を積んでいた荷馬車が次々と横倒しにされる。
車輪を外し、荷台を並べ、隙間を木材と盾で塞いでいく。
数百台の荷馬車が、丘を囲む即席の防壁へと姿を変えていった。
その内側へ、生き残った兵たちが次々と逃げ込んでくる。
弓兵を配置する。
槍兵を前へ。
騎兵は中央へ集める。
ほんのわずかな時間で、
丘の上に小さな砦が作り上げられた。
ムスチラフは、その防壁の向こうを見た。
平原を埋め尽くすモンゴリア騎兵。
そして――。
その中央に、一人の男がいた。
スブタイ。
ムスチラフは初めて敵将を確認した
(あれは人ならざるものだ…)
(悪魔だ…)
(悪魔の軍師だ…)
コメント
1件
うわあああ、この展開やばすぎるんですけど!?😭💦 スブタイの“食いついたな”の台詞、もう完全に相手の手のひらで踊らされてる感じがして震えた… ダニールの必死さが逆に仇になって、まさか自軍同士が川の中でぶつかるとは思わなかったよ… 戦術の妙が細かく描かれてて、戦場の混乱がリアルに伝わってきた。ムスチラフが“悪魔の軍師”って呼ぶのも納得のカリスマ!続きが気になりすぎる…!🔥✨