テラーノベル
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ほどよい焼き加減の肉を皿に盛り、付属のソースを熱してかけた。サラダやご飯も一緒に買っておいた。天魔はかなり逞しい体をしているので、食事もしっかりしてそうだ。
「お待たせ」
ステーキ定食にしてカウンターの上に置くと、天魔が目を細めた。いつもと逆だ。天魔がカウンターの方に座っているなんて。
早速食べ始めた天魔が満足そうに言った。「沙耶は料理上手だな。うまい」
「お肉を買って焼いただけよ」
「下手なやつが焼けば、まずくなる。うまく焼くにもコツがいる」
確かに。涼二はあまり料理が上手じゃない。目玉焼きすら焦がすレベルだ。
「賢くて料理上手な女のどこに不満があるんだろうな、旦那は」
「さあ……若さ?」
理咲は私よりも4歳年下だ。
「沙耶は30歳だっけ?」
「そうよ」
「愛人と4歳しか変わらないのに、若いもクソもないよ。単に新しい女を抱きたくなって、そっちが新鮮だから目移りしただけだ」
「慰めてくれてるの?」
「別にそうじゃない。本音を言ったまでさ」
すっかりステーキ定食を食べ終わった天魔は、空になった食器をカウンターの隅に押しやり、代わりに書類を広げた。
「愛人のデータだ」
そこには、太田理咲と書かれていた。彼女は26歳、父親のやっている都内の小さなデザイン会社OTAの社長令嬢、そこまでは知っている。涼二の勤める広告代理店が取引先として複数名前の中に入っている。それらはもちろん、自分で調査して知っていたし、中には彼に共有した情報もある。
「この理咲って女、取引先の会社の男どもと複数関係あるぞ。この会社ぜんぶの男に貢がせている」
「……は?」
ちょっと待って、涼二だけじゃないの!?
「どういうこと?」
「これを見てくれ」
天魔が私に向かってスマートフォンを差し出してきた。見てもいいのかと尋ねると頷いてくれたので、早速画面を見た。
スマートフォンの画面には、知らない男性だけじゃなくて、見覚えのある男たちの顔ぶれもあった。どれも理咲と仲良さそうに映っている写真だ。
それは涼二の会社の営業担当、クリエイティブ部のディレクター、果ては涼二の同期まで――。
「この中の男たちは、既婚者か婚約者持ちだ。理咲はこの全員と関係を持っている」
「なにそれ……そんな……」
血の気が引く。
浮気どころか、取引先を食い物にしていたなんて。彼女を涼二の愛人と呼んでいたのが、どれほど甘かったか思い知らされた。
「あ……でも、これを使ってどうするの? うまく破滅させることはできるの?」
「だから俺の出番。まずは愛人を堕とす」
自信たっぷりに言う彼は、肉を食べたからだろうか、色気が増している。
「愛人は既婚者キラーだ。俺が近づいて既婚者だとほのめかせば、目の色変えて俺を攻略しようとするだろう」
すごい。理咲のことを短期間で把握したんだ。それだけ、今まで大勢の女性を堕としてきたってことよね。
天魔は女性を堕とす完璧なシナリオが頭にあるんだ。どうやったら効率よく女を罠に嵌められるか――この男は知っている。
「愛人が俺に夢中になるように仕向けるんだ。たっぷり金を使わせて、関係している男どもから巻き上げ、父親の会社の金を横領させる」
「すごい……そんなことできるの?」
「俺に惚れたら、相手が勝手にやってくれるから簡単」
しれっと言っちゃうこの男。ほんとにすごいのね。
もし私が攻略されていたらと思うとぞっとする。
「天魔ってすごいのね。私にはぜったい、そんなことできない」
「普通はそんなことしなくていいよ。する必要もない。社会の汚れた部分は、俺みたいな人間が喰らうのがちょうどいいんだ」
「でも、それじゃ天魔が辛いね。夫の復讐の手伝いをさせてる私が言うのもなんだけど」
「沙耶はおもしろいね。俺の心配をしてくれた人は君が初めてだよ」
ふ、と優しく天魔が笑った。彼はこんな顔もできるのね。
よく考えたら、私は彼の名前すらちゃんと知らない。神威や天魔という名前が、本名かどうかさえも。彼が今までどんなふうに生きてきて、人を堕とすことができるようになったのか――
「具体的にどうするか教えてくれる?」
彼の生い立ちを考える必要はない。天魔は今、私の相棒なんだから。
「まず最初に、理咲を恋愛のハイに導く。俺が接近して本気で妻を愛し、金も持っているいい男だと思い込ませられたら、俺のことが欲しくなるだろう。そうなれば容易く理咲は堕ちる」
「なるほど……」
そうやって今まで女性を陥落させてきたのね。恐ろしい男……。
「次は、関係男たちからの金の流れを作る。理咲が俺のことを信用したら、接待を仕掛ける、投資話を奴らに持ち掛ける。理咲と関係を結ぶということは、それなりに金も持っていて成功したい欲のある人間だと思う。だから俺が金持ちで投資に成功していると思わせたら、必ず自分も同じようにしたいと言うだろう」
すごい。私じゃ考えもつかないことをスラスラと……。
「だから金が要るんだ。ここに、沙耶から預かった金を使う。俺の依頼料が高い理由はそれだ。舞台や小物を、すべて本物で用意する必要があるからな。しかも一回限りしか使えない。最初に預かった金は、沙耶の復讐の舞台を仕上げるために使うんだ」
「じゃあ……天魔の依頼料は、慰謝料の半分だけってこと?」
「そうだ。だから俺も必死になる。必死に旦那や愛人からむしり取るために働く。いい結果(慰謝料)がでれば、それをふたりで山分けする。互いに信頼関係がないとできないし、割に会わないと思ったら俺も引き受けない」
「なるほど……」
「でも、このからくりは最初から教えられない。俺が法外な金額を伝えても、堂々と払う意思があるくらいじゃないと」
「確かにそうね。根性試されたわ」
「君は諦めなかったし、意思も強い。賢いから、旦那からきっちり慰謝料取れると俺は踏んでいる」
「それは安心して。容赦なくむしり取るつもりよ」
にっと笑ったら、天魔もにっと笑い返してくれた。
「天魔に相談があるの」
私はスマートフォンを彼に向けた。
《送信のお相手間違えていませんか? 僕はあなたの書かれている方とは違います》
画面には涼二が私に送ってきた文章が映っている。
「ようやく夫が釣れたの。教えて、天魔。彼を堕とす方法を」
#大人ロマンス
煉彩
235
#セックスレス
深冬芽以
1,050
さぶれ-SABURE-
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#相談女
澪
218
コメント
1件
第4話、めっちゃ面白かった…! 天魔がプロの復讐請負人って感じで、理咲を堕とすプランがもう完璧すぎて怖い。沙耶も「容赦なくむしり取る」って言い切るところ、強くてかっこいいよ。最後の「夫を堕とす方法を」で終わるとこ、一気に続きが気になった…っ! 次話も楽しみにしてるね🖤