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「そうだな。堕とす方法を説くより、ある程度の道筋は足並み揃えて考えておいた方がいいな」
天魔が頷いた。彼の妖艶なしぐさと色香に、思わずパートナーの私でさえ少しときめいてしまう。
「沙耶はなにかアイディアありそうな顔しているけど、それ、聞かせてくれる?」
彼は人心掌握にかなり長けているように見える。私が思いついたシナリオは、まだ彼に話していないのに。
「実は、天魔に『映画監督』になって欲しいって思っているの」
「映画監督?」天魔の眉が少し跳ねた。
「自主製作映画なんかを主に取り扱っているような感じで、夫を脚本家としてスカウトして欲しいの」
「なるほどね。それだと男でも距離を縮めやすいってわけか」
「そういうこと」
「沙耶。君のシナリオはいいよ。面白くなりそうだ」
天魔が満足そうに笑った。
黒の半袖カッターシャツから覗いている隆起する筋肉には、見事な刺青が入っている。まるでマオリ族(マオリはニュージーランドの先住民族であり、独自の文化や言語を持ち、現在もニュージーランド社会に深く根付いている)のタトゥーのようで、力強く燃え盛る炎のようにも見える。2つとして同じデザインのないと言われるマオリ族のタトゥーは、今の天魔の象徴にも見えた。
「接触するのはまだ先だけど、会った時、君の夫に初めて会った時は、秋也のアカウントを使って、脚本を書いてくれる人間を探していた――これでどうだ?」
「完ぺき。情報共有しておけば、話した内容もブレないし」
「じゃあ、そのメッセージにまずは返事をしよう。結果はおのずとついてくるから、あせらなくていい」
「普通に返せばいいの?」
「どうすれば夫が喜ぶかなんて、沙耶はお手の物だろう。だから君が適任なんだ。そっちは任せる」
なるほど。
「できれば沙耶が家にいる時でも、普通にやり取りできればいいな。そうすれば君が秋也だと相手に気づかれない」
なるほど。天魔も賢い。私たち、もしかして最強コンビなんじゃ……?
「このスマホ貸すから、使っていいよ」
天魔がカウンターの引き出しからスマートフォンを出して私にくれた。
「私のこと、信用して貸してくれるの?」
「沙耶がそのスマートフォンを持ち逃げするメリットは無いだろう。むしろ俺と連絡取れなくなる方が、君は困ると思うけど」
なんてことのないように言われてしまった。
「確かにそうね。メリットとデメリットで考えると、変な話、私とあなたは、他人よりも信頼関係がありそうな気がする」
「そうだ。他人は疑うくらいでちょうどいい。結局最後は自分次第なんだ。そのことを忘れないで欲しい」
――結局最後は自分次第なんだ
深い言葉ね。
涼二と離婚を決めたのも。
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#相談女
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涼二を破滅させようと思ったのも。
彼らに復讐しようと思ったのも。
ぜんぶ、私が決めたこと。
「肝に銘じておくわ。忠告ありがとう」
私は彼に借りたスマートフォンで秋也のアカウントにログインし、涼二のメッセージを読み込んだ。これに返信しながら疑問を口にする。「天魔に聞きたいことがあるの。別れさせ屋なんて危険な仕事をやっていて、あなたの身の安全は大丈夫なの? 例えば相手にストーカーに遭うとか」
「ああ。そんなこと恐れるに足らない。その筋の協力者を連れて姿を見せたら、一瞬で相手の方がトぶ」
心配は無縁のようだ。
「裏社会でいろいろやってると、その筋の知り合いや協力者もいるんだ。持ちつ持たれつってやつだ。だから俺のことは心配しなくていい。それより沙耶は、秋也として旦那と仲良くなることを頑張って欲しい」
「任せて。返信はすんだわ。あとはなにをすればいい?」
「HPを作って欲しい」
「HP?」
意外なことを言われたので頭の中に『?』が浮かんだ。
「ああ。できれば質素で簡単なものにしてくれないか」
「いいわよ。ドメインは必要?」
「そうだな。あった方がいい。あまりログとか追えないようにしたいんだけど」
「だったら海外経由でHPを作るわ。因みに、なにに使うの?」
「愛人をおびき寄せる餌」
「――!!」
天魔が概要を語り出す。
「作ったHPを見せて、愛人の会社にデザイン作成を依頼するために使うんだ。今回、愛人を堕とすキャラは若い投資家だ。さっき説明したとおり、愛人から金を引っ張るためのステップとして使う。デザインの打ち合わせに見せるだけであまり使わないけど、きちんとした本物が欲しい」
「そういうことなら任せて。すぐに作って納品するわ」
簡単なHPくらいだったら、すぐに構築可能よ。
AIにでも作らせましょう。
「少し待ってね」
すぐさまイメージを打ち込み、HPを構築させた。その間2分。
「こういう感じでいい?」
白を基調にしたシンプルな企業サイト。以前構築したものを簡略化させて作る。
架空で考えた社長の名前、上部には「神原アセットパートナーズ株式会社」のロゴ、その下に、ネイビーの細いライン。
――短期的な熱狂ではなく、長期的な信頼を
そんな一文が洗練された書体で静かに浮かんでいる。
架空で作った代表、神原新次郎(かんばらしんじろう)のメッセージのページには、もっともらしいことを耳障りのいい言葉で並べ立て、柔らかな笑みをたたえた男の写真を掲載してある。これはAIで仮に作った写真だから、後から天魔の写真に差し替えればいい。神原という名前はAIが勝手に付けてくれた。投資家っぽい名前だと思う。
胡散臭さはない。むしろ誠実そうで、落ち着いていて、理知的ですらある。
「そんな一瞬で作れるものなんだ?」
「仕事でやっているし、基礎がありますから」
「頼もしいな。これから架空のHP作ってもらう時には、沙耶に頼もうかな」
「いいわよ。任せて。サレ妻沙耶の脚本が無事成功したら、いくらでも手助けするわ」
準備が着々と整ってきた。
でも、まだ焦りは禁物。私は涼二を攻略、天魔には理咲に接触してもらいましょう。
コメント
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第17話、読み終えました!沙耶と天魔のコンビ、本当に息が合ってきて読んでいて気持ちいいですね。沙耶がHPを一瞬で作るシーン、彼女のスキルの高さと「基礎がありますから」という一言にプロの自信が滲んでいて、かっこよかったです。「結局最後は自分次第」という天魔の言葉も深く刺さりました。二人の信頼関係が着実に築かれていく過程が丁寧で、次の展開がますます楽しみです!