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美月は駅のホームから、今から行ってもいいかと母に電話をした。

するといらっしゃいと言われたので美月は実家に寄る事にする。


最寄り駅についてそのまま実家へ行くと、母が玄関で出迎えてくれた。


「ただいま」

「おかえり。あら? 買い物でも行ってたの?」

「うん、久しぶりに洋服を見てきたの」

「まあ、珍しいわね。最近服なんて買ってなかったんでしょう?」

「うん、今結構忙しいしね」

「忙しくてもご飯はちゃんと食べなさいよ。体調管理だけはしっかりね」


キッチンに戻り夕飯の支度を続けながら母が言った。


「うん、大丈夫だよ」


それから美月はダイニングの椅子に座ると、テーブルの上にある新聞を見ながら言った。


「あのね、今日表参道で健太さんにばったり会ったの」


美月の母は驚いた顔をした。そして心配そうに娘の顔を見つめる。


「すごい偶然ね。それでどうだったの?」

「うん、森田さんと一緒にいた。婚約したみたい」


それを聞いた美月の母は一瞬切ない表情をする。

しかし娘に気付かれないようすぐに普通の表情に戻ると、あえて冷静に言った。


「そうなの。あの二人やっぱり結婚するのね」

「うん。でもね、それを聞いて全然悔しくなかったんだ。むしろホッとした」


美月が清々したという表情を見せたので、母は安堵していた。

そして娘にこう言った。


「あなた、今、好きな人がいるでしょう?」

「えっ?」


と美月が驚いていると母は続けた。


「母親はね、子供の事はなんでもわかるのよ」

「そうなの? だったらお母さんに隠し事はできないね」


美月はクスクスと笑う。

そして静かに言った。


「いつか紹介できる日が来たら連れて来るね」


その言葉に、美月の母は思わず目頭が熱くなる。

しかしそれを娘に悟られないように、あえて明るく言った。


「楽しみにしているわ」


そこで母と娘は微笑みを交わした。


それから母はもどかしそうに聞いた。


「それでどんな人なの?」


美月は、その男性は音楽関係の仕事をしている人だと伝えた。

付き合っている男性が有名人だという事はあえて伏せおく事にした。

真実を話せば、きっと母は心配するだろう。


その男性はとても優しい人で、美月の考えている事がなんでもわかっちゃう人だと話すと、美月の母はお父さんそっくりね

と嬉しそうだ。

二人が出逢った時も、美月の両親が出会った時と同じ満月の夜だったと伝えると母はかなり驚いているようだった。


「彼が私にかけた言葉も『満月ですか?』だったの」


美月がそう話すとさらに驚く。


その時美月の母は、亡き夫が娘を心配して二人に魔法をかけたのかもしれない…そんな風に思っていた。


(そうよ、きっとそうだわ)


母は娘に気付かれないよう夫の遺影にそっと視線を送ると、


(ありがとう、あなた)


心の中で亡き夫にそう伝えた。




それから数日後、海斗はまだレコーディングでスタジオに入り浸っていた。

録音自体は順調に進んでいたが、まだ歌詞が出来上がっていない曲があったので録音の合間に作業をしているのでスタジオに缶

詰状態だった。


そんな中、海斗はスタジオに持ち込んだノートパソコンで空き時間に密かにジュエリーショップの検索をしていた。

美月と指輪を買いに行く前に、どんな店があるかを把握し、ある程度リストアップしておきたかった。


(なんだか、初めて彼女にプレゼントを贈る高校生みたいだな)


そんな状態の自分が可笑しくて思わず笑みがこぼれる。


海斗の歴代の恋人達は、皆ハイブランドの指輪を欲しがった。

だからそのショップへ連れて行き本人が指定した品をプレゼントすれば良かったので、言い方は悪いが楽だった。

しかし美月はブランド物の指輪を欲しがるタイプではないだろう。


海斗は、美月がどんな指輪を求めているかを探っていくうちに、この作業にすっかりはまっていた。

こういう課題や謎解きがあると俄然燃えるタイプだ。

そしてこの作業はレコーディング漬けの毎日の息抜きにもなっている。


美月は指輪のブランドや値段、石の大きさ等についてはあまり興味はないだろう。

彼女にとって指輪選びで大事な事は、一緒に探す、一緒に見て回る、そしてかけがえいのないたった一つの指輪を見つける、

これが一番大事な事のように思える。

美月は指輪探しの『過程』であったり『行為』にこそ重きを置いているのでは? 海斗はそんな風に思っていた。


指輪を見る度に楽しかった出来事を思い出す。

指輪に触れる度に幸せな思い出を手繰り寄せる。

そして年老いた時、その指輪を眺めながら今まで歩んで来た長い年月を慈しむ…

美月はきっとそんな風に寄り添える指輪を求めているのではないだろうか?

彼女にとっての指輪とは、素敵な思い出の記憶であったり歴史であったり結晶であったり…そして時にはお守りのような存在で

もあったり…上手くは言えないがそんなイメージのような気がした。


だからといってどんな指輪でもいい訳ではない。

海斗は美月が一生大切にしたいと思えるような素敵な指輪をプレゼントしたいと思っていた。

だから店探しに余念はない。


いくつか店をピックアップした後、海斗は最後にもう一度検索をかけてみる。


『月の指輪』


で検索すると、銀座にあるとあるジュエリーショップがヒットした。

ホームページを見ると、オリジナルデザインのジュエリーを数多く取り揃えているようだ。

自社工房を備えているので、他のジュエリーショップとは一味違う。

そしてその店で取り扱っている商品を見ると、月や星をモチーフにした指輪がいくつもあった。


海斗はこの店が気になったので、リストの最後に入れておく事にした。

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