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スタートヽ(*^ω^*)ノ
夜。
病室は静まり返り、カーテン越しに差し伸べられたレトルトの指先が、今日もキヨの身体を火照らせていた。
キヨは昼間のことを思い返しながら、いつも以上にしつこく、しつこくレトルトの指を舌で追った。
『……んっ……レトさんの……っ、全部……俺の……っ』
荒い息を混ぜながら、まるで自分のものだと主張するように、指を舐める。
レトルトは、カーテン越しにその異様な熱心さを感じ取り、少し首をかしげる。
「……キヨくん、今日は……いつもとちょっと違う…?」
指先を舐められながらも、声に混ざる戸惑いと好奇心。
その反応に、キヨはさらに舌を絡め、喉の奥まで指を含み込む。
『……んっ、だから……俺のものだろ……っ』
いつもとは違う熱量、いつも以上に必死でいやらしい動き。
その様子を、レトルトは不思議そうに、でもどこか嬉しそうに見つめていた。
『……レトさん……レトさん……っ』
必死に指先を舐めるキヨの声に、レトルトはゾクゾクと震えた。
その必死さ、いやらしさ、そして愛おしさが、胸の奥を強く締めつける。
「……ふふ、可愛いな、俺のキヨくん」
そう囁きながら、そっと頭を撫でる手。
髪の柔らかさに触れながら、レトルトは指先を再び喉の奥へグッと押し込み、快感をじわりと与える。
『んっ、あっ……ぁ……』
キヨは声にならない吐息を洩らし、体を震わせる。
自分の熱と指先の感触に溺れながら、必死に求めるその姿は、レトルトにとって堪らなく愛おしい。
二人はお互いに求め合い、与え合う。
舌と指――夜は静かに、しかし激しく二人を絡め取った。
「……キヨくん、もっと俺で狂って….」
囁きに応えるように、キヨはさらに舌を絡め、手を止めることなく自分を扱き上げる。
カーテン越しの闇の中、二人の吐息と水音だけが、夜を淫らに満たしていった。
研修医はレトルトの事を気にかけているのか
隙を見てはレトルトの元に来る様になっていた。
朝食の時間も、昼食の時間も、リハビリに行っている間も、夕方も――。
研修医はカーテン越しのレトルトのもとにやってきて、話しかけていた。
「今日はどうですか、レトルトくん。顔色は良さそうですね」
「はい……問題ないです」
無感情で、冷たく返すレトルト。
必要以上には喋らず、短い言葉で切り上げる。
それでも研修医はめげずに、趣味のことや、読書のこと、些細な世間話まで話題を振る。
そのうち、たまたまレトルトが読んでいた本が、研修医も読んだことのある本だと分かる。
「この本、私も読みました!あの章の描写がすごく印象的で……」
それをきっかけに、少しずつレトルトは心を開き始めた。
――横でそれを聞いているキヨの胸は、複雑にざわついていた。
いつもなら二人で交わしていた、ちょっとした会話や笑い声――。
それを研修医に奪われていることが、心底気に食わなかった。
(……なんで……俺のレトさんなのに……早くどっかいけよ…クソ…っ)
思わず拳を握りしめ、顔をしかめる。
小さな嫉妬心が、胸の奥で熱を帯びて膨れ上がっていく。
あんなに冷たく、無愛想だったレトルトも共通の話題をきっかけに少しずつ笑顔を見せるようになっていた。
特に、本の話になると声のトーンが柔らかくなり、嬉しそうに話すその声は、キヨの胸をざわつかせた。
二人で過ごせる時間は日に日に減っていき、キヨは焦燥と苛立ちを募らせていた。
『……なんで……レトさんとの時間、奪われるんだよ……レトさん』
小さく呟いたキヨの不満は研修医と楽しそうに話すレトルトの耳には届かず窓から吹き抜けた風にかき消されたしまった。
リハビリも最終段階に差し掛かり、体力的にも精神的にも疲れが溜まっていたキヨ。
それでも、心の奥底では、夜になれば
レトルトと触れ合える――それに縋る様にリハビリに打ち込んだ。
日中のあの静かに迫る「二人だけの時間の喪失感」は、キヨにとって小さくない焦燥だった。
視界の隅に見えるレトルトの楽しげな様子を、どうにかして独り占めしたい――その思いが、日に日に強まっていく。
研修医が休みの日。
やっと二人きりになれた事にキヨは朝から上機嫌だった。
日課だった、お互いに「今日は何してたか」を報告する時間。
いつものようにレトルトは、キヨの声を聞きながら、笑顔で頷き、話を聞いていた。
『レトさんは?今日は何してたの?』
キヨは笑顔で尋ねる。
「今日は本読んでた!研修医の先生がオススメって言って貸してくれた本がさ本当に面白くてさ〜!」
楽しそうに声を弾ませるレトルト。
いつも物静かなレトルトがこんなに嬉しそうに誰かの事を話す所をキヨは見たことがなかった。
その笑顔、その声が、キヨの胸に小さな針を刺す。
『そっ….そっか。よかったな!』
(……もう……我慢できない……っ)
この時ばかりはレトルトに顔が見えてなくて良かったと心底思った。
胸の奥で、自分でも止められない独占欲がぐっと膨らむ。
心の奥底に渦巻く嫉妬と苛立ちでキヨの笑顔は引き攣り心は重く沈んでいくのだった。
続く