「呆れましたわ! まさかあたしが思った通りのことが起きただなんて!」
おれたちはスキュラと合流し真っ先に叱られてしまう。彼女は初めから疑いにかかっていたようで、おれたちを交互に見ながら何度も顔を左右に振っている。
「ご、ごめん」
「人間もどきのオークと一緒に戦ったのはいいとしても、得体のしれない魔女であったことには変わりなかったですわ! それを全く全く!!」
「……そ、それはその」
「別にアックさまを責め立てているわけではありませんわ。ですけれど、これからは味方にする者の素性をよくお調べになることを進言いたしますわ!」
「そうするよ」
スキュラただ一人だけが状況を把握していない中、起きた出来事を話した。
「行方をくらまされたうえ、時間経過でロキュンテごと本来の場所に取り残されるだなんて! 問題が山積みですわ。ただでさえドワーフの町を目指そうとした時から嫌な予感がしましたのに……」
返す言葉も無い。
「まぁまぁ、スキュラさん。落ち着いてください~。お婆さんになっちゃったのは驚きましたけど、わたしを含めてそんなに危なくなかったですよ?」
「呑気なものですのね、全く……」
白いローブを脱いだバヴァルは妙齢の女性に戻っていた。あの姿で魔石をどうするつもりがあるのかは分からない。それよりおれたちの問題は、火山渓谷に残されてしまったことだ。そう簡単にレザンスには戻れないはず。
途方に暮れそうになっていると、ルティの母であるルシナさんが厳しそうな表情で声をかけてくる。
「……アックさん。ちょっとよろしいですか?」
「どうしました?」
「魔石によるガチャで町を移動させたと言いましたね?」
「そうです。その節は申し訳なく――」
もしかしてルシナさんにも説教されてしまうのか。
「いいえ、そうではなく。町移動はあなたの魔力をかなり必要とします。ですので、そのようなことは今後おすすめしません。それよりも気分を変えてここから旅立ってはいかがですか?」
ガチャで移動を試みようとしていたのを見透かされたのかもな。今までラクルの町に長く暮らしていたおれにとって、歩いてどこかへ旅に出るといったことはしたことが無い。勇者たちに連れて行かれるまでは長く離れたことが無かった。
しかし世界の裏側に残されてしまった以上、気分転換で旅立つのも悪くない。
「――ですので、アックさん。これからも娘のルティシアを、よろしくお願いしますね!」
「へ? あ……わ、分かりました」
ルティのことを任されたらさすがに何も言えないな。そもそも彼女をこの町から強制的に呼んでしまったのは、間違いなくガチャによるものだからだ。
思わずルティを見るも、
「はい? 何ですか、アックさん」
迂闊なことが言えないので首を振るだけにとどまった。
それにしてもガチャだ。ここで運良くレザンスの町を引いたとしてもバヴァルがそこにいるとは限らない。
ルシナさんにお礼を言ってみんなで町から出ようとした、その時だ。息を切らせながら、何かを伝えようと彼女が駆け寄って来る。
「ハァハァ……、い、言い忘れていました! アックさん、この際ですので転送士のスキルを上げてみてはいかがですか?」
「転送士ですか?」
「その名の通り、人を他の町や国に転送《テレポート》させることが可能なジョブのことです。こちらの大陸では昔結構いたんですよ」
「え? 本当ですか!?」
「はい。今は需要が無くなってスキルを持つ者がいなくなったんですけど、アックさんなら可能かと思いますよ」
転送士のスキルなんておれにあっただろうか。
「あれ? でもさっき、町移動には反対を」
「町ごと転送させるのは大変なことです。ですけど、誰かを移動させるだけなら大したことはありません」
実のところ、旅をするには資金が必要だとここに来て不安に感じていた。おれは転送士でも何でも無いが、ガチャで移動させられるなら稼いでみたい。
ルティがいる以上食べ物調達には困らないが、この先は馬車を借りなければ厳しくなる。
「そういうことならやってみます。ここから近い国か町はありますか?」
「それならルティが詳しいのであの子に聞いて下さい。ではアックさん、頑張ってくださいね!」
「ど、どうも」
ルティのお母さんは何とも不思議な女性だった。
「ねぇねぇ、イスティさま。どこへ行くの? 何でもいいけど、どこかで休みたい~!」
「えぇ? フィーサは剣の時に眠っていたんじゃ……」
「違うもん! 人の姿でも眠りたいの!」
フィーサは何かしたわけではないんだけど。とはいえ、一所懸命にバヴァルを制止しようとしていたから細かく言わないでおくか。
「どこへ行かれますか? アックさま」
「ああ、えっと……ルティ――」
「はいはいっ! アックさん、ここから歩いてすぐの所にノーブルナイト《貴族騎士》の国があります! そこに行きませんか?」
早速聞いたことのない国名が出てきた。そういう意味では期待出来そう。
「近くって、どれくらい?」
「歩いてたったの三時間くらいで着きますよ~」
「さ、三時間!?」
「えぇぇっ!? と、遠いですわ!!」
「わらわ、歩きたくない~!」
思わずおれとフィーサ、スキュラで一斉に驚きの声を上げる。ドワーフの血を継いでいるルティの感覚では近いのかもしれないが、それにしたってとんでもない距離だ。
「あれれ? みなさん、どうかしたんですか?」
まだ日が落ちる時間でもなさそうだし歩くしかないのか。
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