テラーノベル
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「うざ、何それ…。」
ひどく冷酷な声。目の前にいる人から発せられたとは思えないほどの、低い声。苦しい声。哀しい声。怒ってる声…。顔も、いつもみたいな明るい顔じゃない。楽しい顔じゃない。嬉しい顔じゃない。
僕───しにがみはそれにひどく怯えてしまった。体が1ミリたりとも動かないような恐怖に襲われる。普段、優しい人が怒るととんでもなく怖いと言うのはこのことかと、改めて感じさせられた。
そうして目の前の人───ぺいんとさんは、怒った顔のまま僕を見て一言吐き捨てた。
「ふざけんなよ、カス。」
そう言った後、彼は背を向けて去ってしまった。当然僕も腹が立って仕方がなく、はらわたが煮えくりかえりそうなほどの怒りを持っていた。だから僕も一言吐き捨てた。
「もう話しかけてこないでください!!」
そう言うと、相手は一瞬ぴくりと動きを止めたが、また動き出した。その行動に、僕はなぜか勝ち誇ったかのような顔をしていたと思う。
………いや、それよりもだね。僕とぺいんとさんがなぜこんなに仲が悪いのか説明をしなくてはならない。
それは本当に少し前───5分くらい前かな。僕とぺいんとさんは普通にリビングに座って2人で日常組の動画を見ている時だった。やっぱりどこもかしこも面白い。自分で言うのもなんだけれど……笑いが止まらないって思った。お腹が痛いほど笑って、息ができなくなるほど笑って、ぺいんとさんと自分達の動画につっこんだりボケたりするとまた笑いが止まらなくなって…。ひどくほのぼのしていたんだ。
…でもそれと同時に、僕はすごいなって思った。こんな面白い動画を作るぺいんとさんが。こんな面白いネタを持ってくるぺいんとさんが。こんな面白いボケができるぺいんとさんが。こんな面白いツッコミができるぺいんとさんが。努力もできて、才能もあって、歌もうまくて、周りから人気で、運も良くて、実況者の鏡で…。…正直、何をやっても勝ち目がないと思っている。
そのことを、動画を見ている最中につい…ついだよ?ぼそっと声に出して言っちゃったんだ。
『ぺいんとさんはいいなぁ…僕と違う。』
その一言がきっかけになった。僕とぺいんとさんが喧嘩をする要因に。
僕の言葉にぺいんとさんはピタッと動きを止めて驚いた顔をしていたけれど、最初は優しく声をかけてくれた。
『何言ってんだよ!wしにがみだっておもれーじゃん!』
でも、僕からするとその言葉は響かなかった。友人から褒められるのは嬉しいし、胸がポカポカする。…けれど、その時は何とも思わなかったんだ。ただ、”何でも持ってる人”から言われるのは、すごく、なんだか……心がぐしゃぐしゃっとしたんだ。黒い煤が僕の心にへばりついたかのようになって、何だかいい気分にはなれなかった。だから、僕はぺいんとさんの言葉に返事をした。
『ぺいんとさんがいるから、僕が面白く見えるんですよ。』
誰もがそう思っている。クロノアさんも、トラゾーさんも、スタッフさんも、リスナーさんも…。皆が皆、ぺいんとさんはあらゆる才能の持ち主だと思っているに違いない。だからこの言葉は、ぺいんとさんからしたらどうってことないものだって思ったんだ。…でも、どうやら違った。
『ふざけんな!誰がお前なんか面白くないって言ったんだよ!!』
ぺいんとさんの突然の怒号に、僕はびっくりした。けど、僕が言っていることがぺいんとさんには伝わらない…”才能のある人”に伝わるわけなんかないんだって、思考がぐちゃぐちゃになって…それで、僕は怒った。
『そういう意味じゃなくて!っ…才能がある人になんか、僕の気持ちがわかるわけありませんよ!!!』
そう言葉を放った後、しばらく沈黙が続いた。周りの音も、消え去ったかのように。ただ聞こえたのは僕の疲れて荒くなった息の音と、テレビから流れる僕達の楽しい音声。
それとは裏腹に、ぺいんとさんから吐かれた一言。
『うざ、何それ…。』
……こうして、僕たちは大きな喧嘩をしてしまったのだ。
こうなるとは思っていなかったし、こんな大喧嘩になるとは思ってもいなかった。
コメント
2件
新作ですか?!凄く続きが楽しみです!