あれから2日が経過した。いまだに僕はぺいんとさんとは話していない。もちろん、こんな状態だからか撮影も延期の延期。配信も一時中断となり、視聴者には迷惑をかけてしまっている。撮影に関しては溜め撮りがあるからそれほどの被害はないけれど…それでも空気が悪いのは変わらない。
ブーッ、ブーッ……
ふと振動とともに鳴り響いたのはコール音。そこに書いてある名前は、”トラゾー”という僕たちの親友だった。
僕は正直電話に出る気力はなくて、むしろほっとこうというほどの落ち込みようだった。
それでもコールサインはなり続ける。僕は急用だったりするかもしれないし、と考えてついに電話に触れた。
『あ、もしもし?』
電話口から聞こえたのはトラゾーさんの声で、低く安心してしまうような声だった。むしろ聞きたかったのかもしれない。
「もしもし。」
僕はトラゾーさんに返事をすると、相手の声色は一気に明るくなり、いつものトラゾーさんのテンションで話をされた。
『しにがみさん、明日どこか行きません?あ、明日とかじゃなくてもいいんですけど。』
「…はい?」
ふとされた唐突な外出宣言に、僕はアホな回答しかできなかった。外出といっても……今の僕には、到底家から出れるような格好だったり精神ではない。
「ご、ごめんなさい。今はちょっと…。」
ぺいんとさんと喧嘩したのを知らないわけない。だって撮影も配信もやめて、知らないわけがないだろう?スタッフさん経由で伝わっているはずなのに…。
なぜ彼はこうも大変な時にその対応ができる?
『あ、もしかしてぺいんとのこと気にかけてるんすか?』
ふと言われた言葉に動揺してしまう。おかげで相手にはモロバレで…いや、最初からバレてたんだろうな。
『そんなこと気にしてどうするんすか!パーッと遊びましょうよ!!』
…言い方にイラッときてしまう。どうやら彼はあまり気にしていないのだろうか?
…だーっ!!あぁもういい!!ヤケクソに遊んでヤケクソに飲み食いしてヤケクソに暴れ回ってやる!!!
「あー!今から行きますぅ!!その代わり僕の話聞いてもらいますからねっ!?!?」
そう言いながら支度する僕に、トラゾーさんは笑いながらも優しい声で『おっけーっす』と答えた。あぁ、もうこの気持ちを早く吐いてしまいたい。そう思うのは、僕が凡人だからだ。
……………
「おぉ、久しぶりです!!」
街中で見かけたのは、ごくごく普通の男に見えるが少し屈強な男───トラゾーさんだった。YouTuberだが、なるべく姿を隠してるとか、そういうことはしない。それは僕もで、むしろ来てくれたら嬉しい方だ。それでも外出頻度は少ないし、遊ぶなら屋内だし、一般人と変わらない見た目だし……。とにかくバレない要素がたくさんだから、表に出ても声を出さなきゃわからないと思う。
「久しぶりです。」
少しイラついた声を出せば、トラゾーさんは笑いながらも「なんか食べに行きましょう!」と笑顔で伝えた。
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