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第8話:常夏の罠
潮風が頬を叩いた。
舞台は常夏の島。白い砂浜、密集するヤシの木、湿った熱気。波が寄せては返し、空は灼けるように眩しい。
しかしその美しさの裏に、確実な死が潜んでいた。
氷室 蘭――白衣を羽織り、長い髪を後ろで束ねた女。眼鏡越しに冷ややかな視線を送りながら、両手には奇妙な装置を抱えていた。
「科学に不可能はない。ここは実験場だ」
彼女が地面に仕掛けたのは圧力感知式の爆裂装置。
熱に揺れる空気の中、草むらに隠されたトラップは誰の目にも映らない。
最初に犠牲になったのは岸本 直人。茶髪で笑顔を絶やさない大学生。
「海入ろうぜ! こんなゲームやってらんねぇよ!」
笑いながら走り出した瞬間――足元が爆ぜた。轟音、血肉が飛散し、砂浜に赤黒い染みが広がる。
「うわああああっ!」
誰もが立ち止まり、恐怖に足をすくませた。
その中で浅葱 京介が歩み出る。
スリムな体型、にやけ顔に黒いシャツ。詐欺師の笑みを浮かべながら声を張った。
「安心しろ! 爆弾はもう作動しない! 氷室の仕掛けは一回きりだ!」
一瞬、皆の顔に安堵が広がる。
だがそれは嘘だった。
次に走り出した木村 直美――地味な服装の主婦が、恐怖に震えながら出口を探そうとした瞬間、再び爆発が起きた。
悲鳴。肉片と血潮がヤシの木に叩きつけられる。
「なっ……お前、嘘をついたのか!」
怒声が飛び交い、群衆が混乱する。恐怖と怒りで同盟は一気に崩れた。
氷室は眼鏡を直し、冷淡な声を放った。
「人間の心理は実に単純だ。恐怖と虚偽を与えるだけで群れは自壊する」
高城 翔が叫んで突進する。
鍛えた筋肉が波打ち、拳を構えて氷室へ迫る。
だが足元が一瞬沈んだ。――新たなトラップ。
翔は咄嗟に跳び退く。直後に地面が爆ぜ、爆風が肌を裂いた。砂と熱風が襲い、皮膚が焼ける。
「くそっ……!」
翔の頬から血が流れ落ちる。
蓮が叫ぶ。「全員、落ち着け! 足元を確認して動け!」
だが誰も聞いていない。恐怖と怒号、そして浅葱の新たな嘘が飛び交い、戦場は地獄と化していた。
常夏の陽光の下、赤い血と肉片が砂浜を染めていく。
美しい海の色と死の惨状が、不気味に交差していた。