テラーノベル
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今回も快調のまま三ノ塔に到着した。
二ノ塔も見晴らしがよかったけれど、こっちは更に上。
この先の尾根が塔ノ岳まで連なっているのもわかるし、富士山も当然見える。
海も相模湾のこっち側の広い範囲が見える。
「海が光っているの、なかなか思い通りに撮れないのですよ」
未亜さんは、相変わらず写真撮影に勤しんでいる。
「富士山も綺麗な色では撮れるのですが、その前に幾つも山が横に連なっている広がりの感覚が、写真ではわからないのです。パノラマ写真も一応撮ってはいるのですが」
「まあそれは、実際に来て見るしかないんじゃない」
「そうですね。来た人の特権でいいのではないでしょうか」
そんな感じで、ひとしきり外で写真を撮ったり風景を見たりした後。
休憩小屋に入ってザックを下ろしてアイゼンを外す。
鍋や食器、バーナーや食材を出して昼食の準備だ。
まだ9時前なので昼食には早いのだけれど、これも雰囲気。
先生と亜里砂さんが、それぞれガソリンタイプのバーナーを出す。
形はどっちもバーナーとガソリンボトルが分離しているタイプで、ボトルも同じメーカーだ。
「亜里砂さんのと同じメーカーのバーナーです。炎の調整はしやすいのですけれど、音がうるさいのでテント場で夜に使うのが憚られるんです」
そう言って、先生と亜里砂さんがポンプ押しを20回位した後、この前と同じジェル状着火剤を付けてプレヒートをする。
その間に川俣先輩が鍋2個を用意。
今日のメニューは炊き込み御飯とシチューだ。
片方の鍋は、タマネギ、トマト、ジャガイモを切ったものを敷き詰る。その上に、あらかじめ分量を量って水に浸けておいた状態のお米をタッパーから水ごと入れる。
もう片方は、昨日煮込んだ後に出た油とゼラチンでそのまま固めた人参、タマネギ、鶏肉を入れ、適当に水をポリタンクから入れた。
「さて、火を付けますよ」
まずは亜里砂さんが、あのライターで自分のバーナーに着火。
ぽっと一瞬炎が広がった後、正常に燃焼を始める。
そして先生の方のバーナーも着火。
こっちは火を付けると同時に、ゴーというジェットエンジンのような爆音がする。
爆音と言っては言いすぎかもしれないけれど、結構な音量だ。
「確かに、うるさいですね、これ」
「でも火が燃えている、という感じで楽しいのだ」
「近所迷惑だから、テント山行には極力持って行かないんです」
「でも、こういう時はいいですよね」
そんな感じで15分ほど、皆でバーナーを囲む。
「いつも思うのだけれど、先生はどうして、この状態で鍋の中の御飯の状態がわかるのだ?」
亜里砂さんが、もっともな疑問をぶつける。
「慣れてくると、水蒸気の蒸発する音で中の状態がわかるんです。水がぎりぎり無くなりそうだな、という感じになったら火から下ろして蒸らします。ちょうど今ですね」
先生は鍋をバーナーからおろし、火を消す。
一気に辺りが静かになった。
そして亜里砂さんと彩香さんの2人が、首を捻っている。
「亜里砂、今の御飯の状態、わかった?」
「全くわからないのだ」