「ただいまー」
玄関からの声で意識が浮上する。時刻は23時過ぎ。
どうやらソファで寝落ちしていたようだ。
寝起きの眼をこすりながら、勇斗を玄関まで迎えに行く。
「ん、おかえり…」
「あれ、仁ちゃん寝てた?」
俺のさえない返事に気づいたのか、ぐい、と顔を覗き込まれる。
「ちょっとだけ、」
「そのまま寝ててよかったのに」
「だって…お風呂、」
「、えほんとに待っててくれたの?」
「あなたが言ったんでしょうが」
「ありがと、うれしい」
「っわ、」
「行こっか」
真っ直ぐな笑顔で言われると、突然ひょい、と抱き上げられそのまま風呂場へと連行。
流れ作業で服を脱がされ身体を洗われ、気がつけば2人で湯船の中にいた。
後ろから勇斗に包まれる形で、身体だけでなく心までじんわり温かくなっていく。
「あ、今日もお弁当美味しかった。ありがと」
「それはそれは、お粗末さまでした」
「タコさんウインナー失敗してたのかわいかったよ」
「ばれてたのかよ…」
「ちょっと不器用なとこも好き」
「ん…ありがと、」
突然のストレートな告白に恥ずかしくなって俯くと、かわいい、なんて言いながら後ろから抱きしめられた。
そして耳元で彼が囁く。
「仁人は俺のどこが好き?」
「え、……ん…」
「ん?なんて?」
「~っ、ぜんぶ、!」
勢いに任せてそう伝えると、勇斗の手によって後ろを向かされて、強制的に見つめ合う形に。
「かわいいね」
なんて甘い声で囁かれれば、唇がそっと触れた。
とんとん、と舌で唇をつつかれるのは口を開けろの合図で、俺はその侵入を容易く許してしまう。
それから執拗に咥内を責め立てられあまりの気持ちよさにぼーっとしていたけど、
口の端から唾液が伝う感覚にハッとして、力の入らない手で勇斗の胸を叩く。
「んむっ…は、ぁと、」
「ん…っ、なに」
「明日朝、早いんじゃないの」
今にも襲いかかって来そうな欲望全開な瞳に問いかけると、勇斗も今思い出したようで悔しそうな顔になる。
「あー、そうだったわ…」
「もう今日はおわり。ほら、逆上せちゃうからもう出よ」
「ん、」
眉毛を八の字にして、心底残念そうな勇斗。
いや、どんだけシたかったんだよ。
なんて心の中で悪態をつきつつも、そんな勇斗が可哀想に思えてきて、そっと触れるだけのキスを唇にする。
「明後日は昼からだから…1日だけ我慢ね」
そう言って、勇斗を置いて先に風呂場から出た。
後ろから声にならない声が聞こえた気がしたけど、気のせいだと思っておいた。
お互いに髪を乾かしあって、2人でベッドに潜る。
勇斗の腕に抱かれ、温もりを感じればすぐに眠りに誘われそうになる。
「明日、仁人は昼からだったよな?」
「ん、そうだけど」
「朝ご飯大丈夫だから、ゆっくり寝てて」
「そう、?わかった」
見上げるとすぐ近くに勇斗の顔があって、それは俺を甘やかすときの甘い表情をしていた。
勇斗が俺の前髪をそっと梳くと、おでこに軽く口付けが落とされる。
離れた顔を見てみれば、彼は柔く微笑んだ。
「口には、してくんないの」
そんな勇斗の雰囲気にあてられたのか、柄にも無いことを口走ってしまった。
気がついた時にはもう遅く、目の色を変えた勇斗がそっと近づいて唇がそっと触れる。
「ん…」
長く触れ合わせた唇が離れると、勇斗はぺち、と俺のおでこを叩いた。
「バカ。せっかく我慢してやってるっつーのに」
「だって…してほしかったから」
「…お前、まじで明日覚えとけよ」
はよ寝ろ、と勇斗は俺の顔を自分の胸に埋め、まるで赤子をあやすかのように頭を撫でた。
酸素を取り込む隙間がほとんど無くて苦しいけど、たまにはこんなのもいいか、なんて思った俺はとことんこいつに甘いんだろう。
静かにその背中に腕を回して、抱きしめ合いながら眠りについた。
翌朝、瞼の向こうで微かに物音がする。
かと言って起きる気にもなれず、うんうん唸っていると、聞き慣れた大好きな声が降ってきた。
「ごめん、起こしちゃった?」
「んん、、はやと、?」
薄ら瞼を上げると、愛しい恋人の顔が映る。
起きなくちゃ、お見送りしなくちゃ、なんて思うけど、重力に逆らえない瞼はすぐに落ちてしまう。
「まだ7時だから寝てていいよ」
「もう 、いくの…」
「うん、行ってくるね」
「ん、いってらっしゃい…」
おやすみ、仁人。という勇斗の声を最後に、俺の意識は途絶えた。
次に起きたのは10時頃。
シーツの隣の部分が冷たくて、アラームよりも先に目が覚めた。
朝方微睡みの中で勇斗を送り出したとき、唇に何かが触れた気がしたのは夢だったか現実だったか。
少し心細さを感じながらキッチンに行くと特に触ってもいないはずのコーヒーメーカーが動いていた。
ちょうどよくタイマーがセットされていたらしいそれは、まるで俺のために用意されていたみたいで。
こんなこと出来るやつ、あいつ以外に誰がいる。
『もしかしてコーヒー淹れといてくれた?』
俺好みのブラックコーヒーを啜りながら勇斗にメッセージを送ると、移動中だったのか案外すぐに既読がついた。
『おいしい?』
『うんめちゃくちゃ。ありがとう』
『よかった』
『仕事がんばってね』
『おう。』
そこで会話が途切れたと思えば、ワンテンポ遅れてまた一つ送られてきた。
『今日は早く帰る』
その一言に昨夜交わした約束を思い出し、一人悶々とダイニングテーブルに突っ伏した。
「〜〜っ、あいつ…!」
その頃スマホの向こう側では、一向に返事が来ないトーク画面を愛おしげに見つめる誰かがいたとかいなかったとか。
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参考元|いつぞやの不法侵入インスタライブ
コメント
1件
うわあああ!!!!ありがとうすぎる!!元ネタも最高だしみるちゃんの作品もほんとにすばらしすぎてる、、お見送りしないとって思ってる吉田さんも返信ないのに吉田さんがなんでしないのかとか全部わかりきってそうな佐野さんも全部最高すぎてるよ、🥹🥹 ほんとありがとうみるちゃんもさのじんもだいすきです、、