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創人期30年。
人類が神に勝利した日から30年が経った。
人々は神が去ったゴルドバレーの地にてのびのびと暮らし、平和を享受していた。
ミレニア王国、辺境地ラセン。
見渡す限りの民家と農場。
何かが盛んに行われている訳でもなく、ただゆったりとした時間が流れるばかりの地である。
そして、その地に道場を構えていたある男が、その日、その時間に、そこを去ろうと言う準備をしていた。
背丈は177センチ程で長く伸びた銀髪を綺麗に結っており、その地に伝わる伝統衣装ユカタに身を通した初老の男は人知れずに道場の片付けをする。
名はカツラギ・バサラ。
神を殺し、人の時代をもたらしながらもその名誉も、地位も、富も得ることがなかった男である。
人の夜明け、創人期が告げられてから30年、彼はそこから一度も動かず、そこで生涯を終えようと決めており、道場を営みひっそりと暮らした。
(もう44歳、時の流れっていうのは早いね。30年前に神を殺して、そこからもう30年も経っちゃったな)
そんなことを考えながら道場の武具を片付けると残りは自分のモノを纏めるだけになっていた。
「えーと、自分のモノって言っても、まぁ、弟子達から貰った酒と、料理器具だけか。弟子達は確か、四護聖になったんだよね。すごいね、あの世代は~。それ以外も王直属護衛兵になったりやら、若者が功績を上げてくれたら、おじさんは嬉しくなるねえ。ふむ、こう見ると神殺し以外、自分が何かを成せた事は一度もない。何も成せない人生だったな~」
独り言を呟きながら弟子達から貰ったお酒の瓶を大切に集めると趣味の料理器具を入れる鞄に詰めた。
(よし、もう入れるものはないな。まぁ、家にモノを持って帰るだけだし、後、道場を畳むだけ)
バサラは鞄を背負い、道場の扉を開けようと戸に手を置くと手前に何かが居ることに勘づいた。
(戸の前に人? 三人、いや、二人か? 一人気配が消すのが上手いな。こんなところに一体、なんのよ)
考えていた次の瞬間、戸は壊されたそこから二つの槍の先端がバサラを襲う。
突然の攻撃に、バサラは反応を出来ずにいるとそこに二人の兵士が姿を現した。
間髪入れることなく二人の兵士は互いに握る槍でバサラに向かって突きを放つと彼は背負っていた鞄の中に手を入れた。
そして、そこから自身の趣味のために持っていた包丁を手にし、槍の先を弾くと一度、二度、三度、四度、二人が連続で放つ突きを短い刃物でいなす。
そして、バサラは一瞬の隙を突き、彼らの間合いに踏み込んだ。
同時に放たれる突き、一糸乱れぬ動きのほんの些細な違い。その穴を縫う様に、二人の槍の木の柄を斬り裂いた。
二人の兵士は一瞬にして斬り裂かれた武器を前に少しばかり動揺するもすぐにバサラに殴りかかってきた。
「ストップ!」
二人の兵士は背後から聞こえる女性の声により、止まるとその声の主人が姿を現した。
「流石ですね、御師様。そんな短い刃物で私の兵士の攻撃を防ぐなんて」
バサラより少しばかり低い身長に、金髪を長く伸ばした女性がそこには立っていた。藍色の目と青いカチューシャ、それを見たバサラは戸惑いながら口を開いた。
「も、もしかして、ジ、ジ、ジータかい?!」
自身の名前を呼ばれると嬉しいそうに笑顔を浮かべ、彼女は答えた。
「お久しぶりですね、御師様、ジータ・グランデ。この地に戻って参りました」
ニッコリと眩しい笑顔を浮かべるジータと気不味い表情を浮かべるバサラ。
後に、この邂逅が人類の存亡に関わるものになるなんて、その場にいる誰もが知る由もなかった。