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12 - 第9話「本日のログは保存されません」

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2025年07月01日

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了解しました。第9話「本日のログは保存されません」は、“ログに残らない会話”という異常な状態を通して、**記録されない「空白の時間」**を描きます。

心にだけ残るものをテーマに仕上げています。





🍽 みりん亭 第9話「本日のログは保存されません」


その日のみりん亭には、静かすぎる違和感があった。


厨房に立つくもいさんが、ログイン時の通知音に小さく首をかしげる。

「……?」


やまひろは空中のログを見て、目をまるくした。

エラー:ログ保存システム一時停止中

保存領域:未割り当て

状態:仮ログ運用(再起動不可)




「……うわ、今日だけログ、記録できないのか」


鳥の姿の彼は、光る羽を少し震わせたが、すぐにログを閉じた。





「ログ、残らないの?」


暖簾をくぐって現れたのは、白いシャツワンピースにニットベレー帽をかぶった女性アバターだった。

目元はやわらかく、髪は黒のボブスタイル。

アクセサリーはひとつもなく、手にはスマホのような端末を持っている。

だがその画面はずっとロックされていて、彼女はそれをただ“持っているだけ”のようだった。


「はい、本日は……記録のない営業となっております」


くもいさんは、変わらず丁寧に和装を着こなし、

今日は胸元に“お試し営業”と書かれた木札をぶら下げていた。

それでも彼女の表情は、静かで、ぶれない。


「じゃあ、ちょうどいいや」

女性はふっと笑い、カウンターに腰を下ろす。


「ログに残らないなら、……“言ってもいいこと”って、ある気がする」





料理は、出されない。

代わりに、テーブルにうすい金色の光が差す。

くもいさんがそっと座り、女性の言葉を受け取るように目を閉じた。


「私ね、いま誰にも会いたくないけど、

……誰かに“わかってほしい”って、思ってるの。矛盾してるよね」


「でもさ、わかってくれなくていいの。

“今の私がここにいた”ってだけ、記録されたくなかった。

だから、こういう日があってよかった」





やまひろは棚の上から見ていた。

ログは何も残っていない。画面はすべて空欄。

羽で叩いても、ファイルは作成されなかった。

コメント:

// 何もない1日

// 記録されなかったからこそ、“本音”だったのかも







女性が席を立つとき、くもいさんがそっと言った。


「ログには残せませんが、心には残りました」


女性は笑って、こう返した。


「それ、ちょっとずるい言葉だね。……でも、ありがとう」





その日、みりん亭の記録は完全に無かった。

でも、その中にだけ、嘘のない気持ちが浮かび上がっていた。





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