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13 - 第10話「いまも誰かが、ひとくち目」

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2025年07月02日

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🍽 みりん亭 第10話「いまも誰かが、ひとくち目」

──その日、みりん亭には誰も来なかった。


暖簾は揺れず、ホログラムの予約画面もなにもないまま。

カウンターには、木目の光がゆれていた。


くもいさんは、いつもと同じように立っていた。

濃い灰の和装に、薄い水引の帯。

今日は髪を少しだけ下ろし、横に流して結っている。

その姿は、まるで人が来ないことに慣れている誰かのように、完成された静けさをまとっていた。


「……今日は、完全な空席、ですね」


つぶやくように言ったその声に、やまひろがふわりと反応する。


鳥の姿の彼は、厨房の上の飾り棚からそっと羽ばたいて、

店内の中央までゆっくり浮かんできた。


黄色がかった小さな鳥。丸い体に3本だけ跳ねた頭の羽。

喋らないが、羽の動きと、浮かぶログで気持ちは伝わる。


[今日のログ:0]

[予約:0]

[音声反応:-]

// だれも、こなかった日。




やまひろは、小さく首を傾げた。


「……それでも、“ひとくち目”は、残っているのですよ」


くもいさんが、カウンターに小さな器を置いた。

中には、何もない。湯気もない、エフェクトもない。

けれど、その器を見ていると、不思議と“記憶の味”が蘇ってくる気がした。


その時──。


カラン。


カウンターに、ベルの音が鳴った。

誰も触れていないはずの、その金属の澄んだ音だけが、店内に響く。


やまひろがログを確認する。

通知:来店情報なし

映像なし

座標ノイズ反応(カウンター席3)

// 「……これは、だれ?」







カウンター席の3番に、わずかにへこみができていた。

まるで、誰かが腰かけたばかりの椅子の跡のように。


「……ようこそ、みりん亭へ」


くもいさんは、一瞬だけ視線を落とし、笑った。

その声に返事はない。でも、どこかが“ふるえた”ような感覚が、店内を通り過ぎた。





その夜の記録には、誰の名前も残っていなかった。

けれど、やまひろのログの隅にはこう書かれていた。

ファントムログNo.1

内容:反応あり/記録なし

備考:

“この店は、記録されなくなっても、まだ誰かの“ひとくち目”を受け取っている。”







それが誰なのかは、今もわからない。

でも、今日もくもいさんは、いつもと変わらず、器を温めている。


「また、いらしてくださいね」




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